日本薬理学雑誌
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総説
気分障害の治療と概日リズム
―リチウムの作用機構と時計遺伝子の関連について―
池田 正明
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2007 年 130 巻 6 号 p. 469-476

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抄録

大うつ病,躁うつ病,季節性うつ病などの気分(感情)障害には,気分の日内変動,体温やコルチゾール位相の変異,REM潜時の短縮など概日リズムに関連した症状がある.気分障害の治療,特に躁病相の予防と治療には気分安定薬としてリチウム,バルプロ酸およびカルバマゼピンが広く用いられ,効果をあげているが,その作用は活動性の亢進や生気感情の亢進を抑制するいわゆる抗躁作用ばかりでなく,躁病相への移行の抑制や各相の持続期間にも影響を与えている.また最近では抗うつ薬による治療に抵抗性のうつ病症例にリチウム治療が有効であることがわかり,気分安定薬は躁病相ばかりでなく,うつ病相にも効果のあることが明らかになっている.気分安定薬の気分障害に対する作用の分子機構についてはまだ確定的なものはないが,リチウムの標的因子としてGSK3βが,リチウムとバルプロ酸の共通の標的因子としてIMPase(イノシトールモノホスファターゼ)が同定され,それぞれの機能と治療効果発現機構が注目されている.概日リズムの発振を行っている時計遺伝子が発見され,その発現機構が明らかになってきたが,気分安定薬であるリチウムやバルプロ酸に概日リズム位相を変化させる作用のあることが報告された.これはリチウムがGSK3βの抑制作用を介して時計遺伝子産物の分解を促進すること,あるいは核移行を抑制することを通じて,概日リズムの周期や位相の形成に直接関与していることによると考えられている.

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