日本薬理学雑誌
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特集:理想的な疼痛コントロールを目指す―オピオイド鎮痛薬の概念を変える最新知見―
  • 木口 倫一, 藤田 和歌子
    2021 年 156 巻 3 号 p. 127
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり
  • 中川 貴之
    2021 年 156 巻 3 号 p. 128-133
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    現在,国内では14種類のオピオイド鎮痛薬成分があり,工夫を凝らした多彩な剤形が揃っている.そのため様々な強度や種類の痛みに対して,また,様々な状態の患者に対して,きめ細やかな対応が可能となっている.2018年,WHOからエビデンスに基づいたがん疼痛治療ガイドラインが発表された.これまで国内のがん疼痛治療ガイドラインや教科書等で掲載されていたWHO方式3段階除痛ラダーが重要視されなくなり,鎮痛薬使用の5原則が4原則になったなど,大幅な改訂もなされている.一方,米国では,慢性疼痛に強オピオイド鎮痛薬が使用可能になったこと,使いやすい剤形が次々と販売されたこと,さらに「痛みの10年」政策の後押しもあり,オピオイド鎮痛薬が米国民の間で溢れかえり容易に入手できる環境に陥った.その結果不正使用や乱用が横行し,いわゆる「オピオイドクライシス」が発生した.日本国内では,麻薬及び向精神薬取締法による厳しい規制や医療保険制度,さらに薬物乱用防止教育の普及などから,そのような状況には陥ってはいないが,最近,オキシコドンTR錠が慢性疼痛にも適応拡大したこともあり,今後,注意が必要である.防止策として必ずしもオピオイド鎮痛薬を使い慣れていない医師や薬剤師に対して,慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の適正使用に関する教育を拡げていく必要がある.一方,コデインなどの鎮咳薬などに対する10代若者による乱用が増加しており,以前からベンゾジアゼピン系薬の不適切使用が横行していることから見ても,日本人は不正薬物に対する拒絶感は強いが,法律の範囲内で入手できる処方薬の乱用にはハードルが低いのかもしれない.これらの問題を根本的に解決するには,依存性のないオピオイド鎮痛薬の開発,あるいは薬物依存や乱用を抑制できる手法の開発が必要である.新たなコンセプトに基づいた安全・安心なオピオイド鎮痛薬が開発されることに期待したい.

  • 藤田 和歌子
    2021 年 156 巻 3 号 p. 134-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    これまでの多くの研究により,オピオイド受容体が二量体を形成すると,その薬理学的特性が修飾されることがわかってきた.一例では,主作用に重要な G タンパク質シグナルから,副作用に関与するとされるβアレスチンシグナルへのスイッチングなどが知られる.本総説では,muオピオイド受容体とdeltaオピオイド受容体から成るヘテロ二量体(MOPr-DOPrヘテロ二量体)に注目し,その予測される構造,生体内での発現分布についてこれまでの知見に基づき紹介する.さらに,疼痛制御における役割について,MOPr-DOPrヘテロ二量体を標的とするリガンド(アゴニスト)の薬理作用を紹介しながら考察する.アゴニストとして,二価リガンド(MDAN21)や低分子化合物(CYM51010)などが報告されており,これらはモルヒネと同程度の鎮痛効果を有するとともに,モルヒネと比較して鎮痛耐性を形成しにくいことも明らかにされた.ヘテロ二量体を標的することが,副作用の少ない新規治療薬開発戦略の一つとして期待される.ところがその一方で,MOPr-DOPrヘテロ二量体は,副作用の一つであるモルヒネ鎮痛耐性形成に関与するとも報告されている.すなわち,モルヒネの反復投与によりこのヘテロ二量体が特定の脳領域で増加するが,このヘテロ二量体形成を阻害すると,モルヒネ鎮痛耐性形成は抑制される.メカニズム解析の結果,Gタンパク質共役型受容体運搬分子であるRTP4がモルヒネの反復投与により誘導され,MOPr-DOPrヘテロ二量体の形成量を増加させた結果,モルヒネ鎮痛耐性形成が誘導されると推察されている.本総説では,こうしたユニークな性質を有するMOPr-DOPrヘテロ二量体の薬理学的特性,アゴニストの薬理作用,鎮痛耐性形成との関わり,MOPr-DOPrヘテロ二量体の細胞内制御について,これまでの知見に基づき概説する.

  • 木口 倫一, 岸岡 史郎, Mei-Chuan Ko
    2021 年 156 巻 3 号 p. 139-144
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    ノシセプチン(nociceptin/orphanin FQ:N/OFQ)ペプチド(NOP)がopioid receptor-like 1受容体の内因性リガンドとして同定された後,N/OFQ-NOP受容体システム特有の生理学的意義が明らかになった.NOP受容体は,痛みや報酬などの調節を担う重要な中枢神経領域に幅広く発現している.非ヒト霊長類(non-human primate:NHP)においては,脊髄および上位脳のNOP受容体の活性化は顕著な鎮痛効果を示す.またNOP受容体の活性化は,ドパミン神経伝達を阻害し,μオピオイドペプチド(MOP)受容体の鎮痛効果を相乗的に増強する.本稿では,NOP受容体およびMOP受容体の両方にアゴニスト活性を有する二機能性リガンドの薬理作用を概説し,痛みの緩和ならびに薬物乱用の治療におけるそれらの有用性を紹介する.NOP受容体とMOP受容体を共活性化する二機能性NOP/MOP受容体「部分」アゴニスト(AT-121,BU08028,BU10038など)は強い鎮痛効果を有するにもかかわらず,痒み,呼吸抑制,嗜癖や身体的依存などのMOP受容体を介する有害作用を示さず,治療域が非常に広いことが明らかになった.さらに二機能性NOP/MOP受容体アゴニストは,オピオイドやその他の乱用薬物の報酬・強化効果を減弱させることも示されている.混合型NOP/オピオイド受容体「完全」アゴニストであるcebranopadolの臨床試験が現在進行中であり,二機能性NOP/MOP受容体アゴニストの有効性はげっ歯類やNHPのみならずヒトでも確認されている.これらの知見から,NOP受容体とMOP受容体を共活性化する化合物は,安全に使用できる新しいオピオイド鎮痛薬として有望であると考えられる.

特集:循環器系疾患の線維化メカニズムの解明と治療戦略
  • 山村 彩, 梅村 将就
    2021 年 156 巻 3 号 p. 145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり
  • 梅村 将就, 成川 雅俊, 田中 遼, 根本 寛子, 中鍛治 里奈, 永迫 茜, 石川 義弘
    2021 年 156 巻 3 号 p. 146-151
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    本邦では超高齢化社会になるに伴い,がんはより身近な問題となってきた.がん治療には循環器系有害事象が伴うことは知られており,腫瘍循環器学(onco-cardiology)という新しい領域が注目されている.アントラサイクリン系のドキソルビシンは心毒性を示すことで有名であるが,特に心臓のリモデリングが進行すると不可逆性の経過を辿り予後は不良である.しかしながら,心毒性の発症メカニズムについてもわかっていないことが多いため,さらなるメカニズム解析が急務である.従来の報告では心筋細胞における心毒性のメカニズム解析についての報告が大半であり,心臓線維芽細胞については少ない.そこで我々は心臓組織で多数を占める心臓線維芽細胞を対象に心毒性のメカニズムについて調べたので報告する.我々の基礎研究から,ドキソルビシンは従来の累積投与量上限より低用量であってもマウスの心臓の血管周囲を中心とした線維化を誘導することがわかっている.その線維化は細胞のアポトーシスを伴わない反応性の線維化であった.また,培養ヒト心臓線維芽細胞を用いた検討では,低用量のドキソルビシンにより,心臓線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化が促進されることが,分化マーカーである平滑筋アクチン(α-SMA)の発現の継時的評価で判明した.さらに,それには炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)や細胞外マトリックスの分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase:MMP)1が関与していることもわかっている.また,ドキソルビシは心臓線維芽細胞において無菌性炎症を惹起し,ミトコンドリアのマイトファジーが活発に行われていることがわかった.今後のより一層の知見の積み重ねが得られれば,がん治療における心不全の予防や,治療に生かすことができると期待される.

  • 内木 綾
    2021 年 156 巻 3 号 p. 152-156
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)の発症率は急増している.NASHでは肝線維化が起こりやすく,肝硬変に進展すると著しい肝機能の低下や肝がんの発症などの不可逆的な変化が起こる.NASHでは,肥満,インスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームや,肝における酸化ストレスの蓄積が病態の進展を引き起こしている.ギャップ結合は細胞間結合装置の一種で,隣接細胞間の小分子交換を介して組織や生体のホメオスタシスを担っている.私たちは,肝細胞ギャップタンパク質のconnexin 32(Cx32)がドミナントネガティブに抑制され,ギャップ結合性細胞間コミュニケーション機能(gap-junctional intercellular communication:GJIC)が著減したトランスジェニック(Cx32ΔTg)ラットを樹立し,GJICが肝発がんに対して抑制的な役割を持つことを明らかにしてきた.NASHに対するCx32/GJICの役割は明らかでなく,Cx32ΔTgラットを用いて解析した.メチオニン・コリン欠乏飼料によりNASHを誘発した結果,野生型ラットと比較してCx32ΔTgラットでは,肝細胞内の活性酸素種や炎症性サイトカイン発現が増加し,脂肪肝炎と線維化が促進した.線維化にはNF-κBシグナルによる星細胞の活性化が関与していた.野生型ラットにおいても,正常肝と比較してNASHでCx32発現が低下していた.また抗酸化物質ルテオリンを投与すると,Cx32発現の低下による酸化ストレス反応が抑制され,肝の炎症や線維化が改善した.以上より,Cx32/GJIC機能低下による酸化ストレスによって,NASHが増悪することが明らかになった.さらに高脂肪食とdimethylnitrosaminをCx32ΔTgラットに投与することにより,インスリン抵抗性を伴うNASHモデルを作製し,肝のCx32発現低下がインスリン抵抗性を悪化させることを見出した.本稿では,Cx32ΔTgラットを用いて明らかにしてきたNASHや肝線維化に対するCx32/GJICの役割について紹介したい.

  • 中野 大介, 北田 研人
    2021 年 156 巻 3 号 p. 157-160
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    生理的には,血中の糖は腎糸球体でろ過された後,そのほぼ全てが近位尿細管で取り込まれ,血中に戻される.したがって,血糖値が正常の場合は,多くの場合が尿中に糖は検出されない.近年,腎臓の近位尿細管細胞に作用する血糖降下薬(sodium glucose transporter 2 inhibitor:SGLT2阻害薬)が臨床で使用可能になり,その期待以上の腎保護効果が注目されている.SGLT2阻害薬は,近位尿細管での糖取り込みを阻害し,尿中に糖排泄を促すことで,全身に存在する糖の量を減らす(=血中糖濃度も下がる)薬である.我々はまず近位尿細管におけるSGLT2は糖尿病で生じている尿細管細胞老化を抑制するとことを見出した.次に,血糖値に依存しない保護効果について調べた.SGLT2阻害薬は作用点が腎臓であるため,腎機能の極端に落ちているケースでは血糖降下作用が見込めず,当初は使用を控える向きがあった.ここで重要なことは,「血糖降下作用は弱まると予想されるが,薬は近位尿細管に到達し,なんらかの作用が出る可能性はある」ことである.そこで我々は高血糖を呈さない腎不全モデルを作製し,生体イメージングによる尿細管糖取り込みとSGLT2阻害薬による薬理作用を検討した.結果として,SGLT2阻害薬は正常な尿細管細胞においては糖取り込み阻害を起こさず,傷ついた尿細管細胞でのみ糖取り込み不全と血管新生のプロセスを進めることが判明した.傷ついた腎臓の修復過程において,SGLT2阻害薬は毛細血管網再構築により再生を加速し,線維化を抑制する効果があることが証明された.現在,我々が独自に作成した腎線維化モデルにより更なる薬理効果の追及を行っている.

  • 山村 彩, Md Junayed Nayeem, 佐藤 元彦
    2021 年 156 巻 3 号 p. 161-165
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    肺高血圧症(PH)は,様々な病変により慢性的に肺動脈圧が上昇する疾患である.肺高血圧症治療ガイドラインでは,安静時の平均肺動脈圧が25 mmHg以上の場合をPHと定義している.PHの中で最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(PAH)では,肺血管の過収縮(攣縮)や肥厚(リモデリング)が起こるため,肺動脈圧が上昇する.持続的な肺動脈圧の上昇は,右室肥大を起こし,最終的に右心不全をきたす.PAHは難病に指定されている.PAHの形成には,細胞内Ca2+シグナルの亢進が深く関与している.肺動脈平滑筋や内皮の細胞内Ca2+動態は,血管収縮物質や増殖因子などの刺激とそれらを受容する細胞膜上の受容体やイオンチャネルなどによって調節される.PAHに関連する増殖因子としては,上皮増殖因子(EGF),線維芽細胞増殖因子(FGF),インスリン様増殖因子(IGF),血管内皮細胞増殖因子(VEGF),血小板由来増殖因子(PDGF)などが知られている.これらの増殖因子が,特異的なチロシンキナーゼ型受容体に結合すると,受容体の二量体化(IGFを除く)や自己リン酸化が起こり,細胞内Ca2+動態や細胞内シグナル伝達経路を活性化する.その結果,細胞増殖,分化,遊走などが誘導される.これまでに,それらの増殖因子と対応する受容体の発現が,PAH患者の肺血管組織で亢進し,肺血管リモデリングや叢状病変の形成に関与していることが報告されている.本稿では,PAHに関与する増殖因子の生理機能と病態生理学的役割について概説する.また,我々がPAHに関与するCa2+シグナル分子として同定したCa2+感受性受容体(CaSR)とPDGFシグナルのクロストークについても紹介する.

総説
  • 稲垣 千代子
    2021 年 156 巻 3 号 p. 166-170
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    アルツハイマー病の患者脳ではホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP)要求性Cl-ATPase活性の低下していることが確認された.アルツハイマー病の病態濃度でのアミロイドβタンパク質(Aβ≤10 nM)は培養ラット海馬神経細胞のPIP量を減少させ,Cl-ATPase活性を低下させて細胞内Cl濃度を上昇させ,これによりグルタミン酸神経毒性を増強して細胞死を起す.PIP量の減少はAβ(0.1~10 nM)がホスファチジルイノシトール-4-キナーゼ(PI4K)を直接抑制することによる.Aβの非毒性部分ペプチドIle-Gly-LeuはAβによるPI4KIIα(組換えヒトPI4KIIα)の抑制を阻止し,Aβのマウスの脳内投与による海馬神経の変性死および空間記憶障害をも阻止した.病態濃度のAβの神経毒性機構を遮断し,アルツハイマー病の根本治療薬となることが期待される基本物質として,①Aβ拮抗薬,②PI4K基質,③PI4K生成物,④PI4K活性化薬,及び⑤GABAc受容体刺激薬が考えられる.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流(45)
  • 出口 芳樹
    2021 年 156 巻 3 号 p. 171-177
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル 認証あり

    開発候補品の臨床における中枢神経系の副作用予測のために,非臨床試験で用いられるIrwinの変法や機能観察総合評価法(FOB)は,肉眼的観察が中心で,観察者の観察能力に大きく依存する.そのため,観察者の適切な訓練や所見の目合わせが非常に重要であり,方法や判断基準についても統一的な見解を共有する必要がある.また,動物福祉への配慮やバイオ医薬品および抗がん薬の開発の増加などから安全性薬理評価を一般毒性試験に組み入れる機会が多くなっている.特に中枢神経系の評価は,比較的容易に,経時的に一般毒性試験に組み込むことが可能である.しかし,検出力を減じず,信頼性のあるデータが取得できるように試験をデザインする必要がある.このように医薬品開発において,信頼性の高い中枢神経系への影響を検出するためには,中枢神経系評価の技術レベルの向上および技術の継承が大切である.

新薬紹介総説
  • 桑野 敬市, 古杉 圭司, 渕上 千晶, 舟木 俊治
    2021 年 156 巻 3 号 p. 178-186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    セレキシパグ(製品名:ウプトラビ®錠0.2 mg/ウプトラビ®錠0.4 mg)は,日本新薬株式会社において創製された新規なプロスタサイクリン受容体(IP受容体)アゴニストであり,肺動脈性肺高血圧症(PAH)を効能又は効果とする.セレキシパグを経口投与すると,生体内でMRE-269に変換され,MRE-269の血漿中濃度は長時間維持される.このMRE-269が選択的なIP受容体アゴニスト作用を示し,血管弛緩作用や平滑筋細胞の増殖抑制作用を発揮する.ラット摘出肺動脈標本を用いた血管弛緩作用の検討では,MRE-269は肺葉内及び肺葉外のいずれの肺動脈を用いても高い弛緩作用を示した.また,Sugen5416/低酸素誘発肺高血圧症モデルラットにおいて,セレキシパグは肺動脈の肥厚,右心室圧の上昇,右心肥大及び生存率を改善した.PAHを対象とした第Ⅱ相臨床試験は,まず欧州で実施され,セレキシパグの良好な有効性と忍容性が確認された.日本では,37例のPAH患者を対象としたオープンラベルの第Ⅱ相臨床試験が実施され,主要評価項目である肺血管抵抗をベースラインから有意に低下させることが確認された.海外第Ⅲ相臨床試験として,本領域で最大規模のPAH患者1,156例を対象としたGRIPHON試験(Prostacyclin(PGI2)Receptor agonist In Pulmonary arterial HypertensiON)が実施され,セレキシパグは主要評価項目の「morbidity/mortalityイベントの発現までの時間」を有意に改善した.以上のように,セレキシパグはPAHの病態悪化を抑制することが臨床試験において示され,PAHの治療に貢献することが期待される.

  • 鵜川 徹, 芦崎 瑞恵, 村田 麻実, 交川 佳克
    2021 年 156 巻 3 号 p. 187-197
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/05/01
    ジャーナル フリー

    ロキサデュスタット(エベレンゾ®錠)は,経口投与可能な低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬であり,日本では透析施行中の腎性貧血に対する治療薬として2019年9月に製造販売承認され,同年11月に販売開始された.ロキサデュスタットは,HIF-PHを阻害することにより,転写因子HIFのサブユニットであるHIF-αの分解を抑制して蓄積を促し,HIF経路を活性化させる.その結果,生体が低酸素状態に曝露された際に生じる赤血球造血反応と同様に,内因性のエリスロポエチン(EPO)産生が増加して赤血球産生を促進する.ロキサデュスタットは内因性のEPO産生のみならず,鉄の利用能も亢進することでも,効率的に赤血球産生を促進すると考えられる.ロキサデュスタットの薬理学的特徴を検討した非臨床薬理試験において,上記の作用機序を支持する試験結果が得られており,腎性貧血モデルラットや炎症性貧血モデルラットを用いた検討でロキサデュスタットの有効性が確認され,鉄利用能の亢進につながる遺伝子の発現変動も確認された.臨床試験では,透析施行中の腎性貧血患者を対象とした4つの国内第Ⅲ相臨床試験(血液透析3試験,腹膜透析1試験)において,ロキサデュスタットの有効性が明確に示された.ロキサデュスタットは良好な安全性プロファイルを示し,これら臨床試験で認められた有害事象や重篤な有害事象の発現割合および種類は,対象患者集団で発現が予想されるものと概ね一致していた.ロキサデュスタットは,経口剤であることから,赤血球造血刺激因子製剤で懸念される医療スタッフの針刺し事故による感染リスクの回避,患者の注射時疼痛の回避や来院負担軽減が可能となる新たな治療薬になると期待される.なお,今回紹介することはできなかったが,透析導入前の腎性貧血患者を対象とした臨床試験も実施され,2020年11月に腎性貧血に適応が拡大された.

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