日本薬理学雑誌
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追悼
アゴラ
特集 ミトコンドリアをみる・よむ・つくる~新たな医療基盤技術の開発を目指して~
  • 加藤 百合, 小川 亜希子
    2026 年161 巻4 号 p. 209
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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  • 玉城 大敬, 石川 香, 佐渡友 光一, 小笠原 絵美, 中田 和人
    2026 年161 巻4 号 p. 210-215
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    加齢に伴うmtDNAへの突然変異の蓄積がミトコンドリア呼吸機能の低下を誘導し,それが老化の原因になるとする仮説である「老化ミトコンドリア原因説」が提唱されてきた.この仮説は,mtDNAの複製酵素であるPolgの校正機能異常をホモで導入したPolgmut/mutマウスが高頻度のmtDNA突然変異を蓄積し,ミトコンドリア呼吸機能低下及び早期老化症状を示したことから,広く受け入れられている.しかし,Polgmut/mutマウスにおける正確なmtDNA突然変異の含有率,並びに,mtDNA突然変異の蓄積とミトコンドリア呼吸機能低下の直接的な因果関係については明らかではなかった.そこで本研究では,Polgマウス群(野生型Polgを有するPolg+/+マウス,Polgの校正機能をヘテロで欠損したPolg+/mutマウス,Polgmut/mutマウス)におけるmtDNA突然変異の含有率を正確に把握すると同時に,mtDNA突然変異の含有率を実験動物学的に変動させミトコンドリア呼吸活性との相関を検証した.その結果,mtDNA突然変異の含有率を変動させても,ミトコンドリア呼吸活性はPolg+/mutマウスでは軽度に,Polgmut/mutマウスでは重度に低下することが明らかになった.また,mtDNAの遺伝子型を変動させたことにより,Polgmut/mutマウスの一部の個体は,Polg+/+マウスの一部の個体と同程度のmtDNA突然変異の含有率を示したが,Polgmut/mutマウスにおけるミトコンドリア呼吸活性は重度に低下していた.これらの結果は,Polgの校正機能を欠損したマウスにおけるミトコンドリア呼吸機能低下は,mtDNA突然変異の蓄積よりむしろ,校正機能を欠損したPolgに起因することを示唆していた.本研究は,「老化ミトコンドリア原因説」の根幹であるmtDNAに蓄積する突然変異がミトコンドリア呼吸機能の低下を誘導するという仮説に対して再考の必要性を提案する.

  • 和田 健一
    2026 年161 巻4 号 p. 216-221
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    ミトコンドリアゲノム(mtDNA)は,およそ16.5 kbpの環状DNAで,一細胞に~数千コピー含まれる.mtDNAは,核ゲノムに比べると極めて小さなゲノムであるが,酸化的リン酸化によるATP合成を担う生体の生存に必須なゲノムである.広域な疾病に対するmtDNA変異の関与が示唆されており,mtDNAを対象とした遺伝子治療はこれらの疾病の有望な治療手段として期待されるが,限定的なmtDNA操作しか行うことができない.本稿では,自由自在なmtDNA操作を可能にするmtDNAライティングの実現を目指す筆者の取り組みを紹介する.外来mtDNAを優先的に受容して内在mtDNAと全置換が生ずる特殊なホスト細胞(e-mt細胞)の創出が,mtDNAライティング実現の鍵となると発想した.ここで,本来のジェノタイプから逸脱したmtDNAをホモプラズミックに維持する細胞が,e-mt細胞として機能すると考えた.そこで,ホモプラズミックなmtDNA改変を目指した,マイクロ流体デバイスを用いたミトコンドリア移植技術を開発した.開発したマイクロ流体デバイスは,微小な孔(マイクロスリット/マイクロトンネル)介して細胞を融合することにより,細胞間の直接的,且つ,非侵襲的なミトコンドリア移植を実現した.さらに,単一ミトコンドリア移植と,ρ0細胞を対象としたミトコンドリア移植によるサイブリッド作製にも成功した.これらの結果から,開発したマイクロ流体デバイスは,mtDNAのクローニングを通じてホモプラズミックなmtDNA改変を実現し,e-mt細胞の創出に寄与することが期待される.

  • 椎葉 一心
    2026 年161 巻4 号 p. 222-225
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    細胞内のオルガネラは独立して働くのではなく,膜融合を伴わずに近接して情報や物質をやり取りする「オルガネラ接触場」を介して協調している.なかでもミトコンドリアと小胞体の接触領域(MERCs)は,カルシウムや脂質の輸送場にとどまらず,ミトコンドリア動態,オートファジー,ストレス応答,細胞死,代謝調節など多面的な現象に関与する制御ハブとして理解が進んできた.本稿では,まずMERCs形成の分子機構を「繋留」「物質の受け渡し」「接触場の調節」という観点から整理し,接触場が固定された構造ではなく状況に応じて再編成される機能領域である点を紹介する.次に筆者らの研究として,ミトコンドリア外膜のE3ユビキチンリガーゼMITOL(別名:MARCHF5)が接触場で基質の活性を選択的に制御し得ること,さらにヘム分解酵素HMOX2の制御を介してミトコンドリアへの鉄供給と呼吸維持に関わる可能性を紹介する.また,MERCsは動的に変化するため,生細胞での定量が不可欠である.分割型ルシフェラーゼを用いたミトコンドリア–小胞体接触の可逆的リアルタイム測定系(MERBiT)を紹介し,この系によりミトコンドリアROSに応答して接触が増加すること,さらにその接触増加が脂質ラジカルの処理に結びつくという新しい接触の生理的意義が明らかになってきたことを述べる.最後に,電子顕微鏡・超解像顕微鏡・近接センサー・近接標識など現在の主要な測定技術について概説する.

特集 日内環境適応現象への生理・解剖・薬理・栄養学からのアプローチ
  • 池田 正明
    2026 年161 巻4 号 p. 226
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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  • 田丸 輝也, 河村 玄気, 内藤 篤彦, 小澤 岳昌
    2026 年161 巻4 号 p. 227-233
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    細胞自律的な概日時計は,生物が日々の環境変化に適応し,生理機能のタイミングを最適化するために不可欠なシステムである.しかし,光,温度,薬剤など,性質の異なる多様な時計同調因子が,どのような共通の初期シグナル伝達経路を経て分子時計の位相を制御・同期させているのか,その実体は長らく未解明であった.本研究では,NIH-3T3線維芽細胞を用いて,中核時計タンパク質であるBMAL1およびCLOCKの細胞内局在変化のダイナミクスに着目し,その挙動と時計の同期現象との関連を詳細に解析した.その結果,多様な時計リセット処置を行った直後に,BMAL1が細胞質から核内へと急速かつ同期的に蓄積する現象を見出し,我々はこの現象を「即時同期応答(immediate synchronization response:ISR)」と命名した.このBMAL1の核内移行に伴い,CLOCKタンパク質の蓄積も確認され,同様のISR現象はC6グリオーマなど他の齧歯類時計モデル細胞においても認められた.分子機構の解析により,刺激直後にカゼインキナーゼ2(CK2)によるBMAL1のSer90リン酸化レベルが上昇することが明らかになった.このリン酸化はBMAL1の核内蓄積を促進することが知られている.この因果関係を裏付けるように,薬理学的にCK2活性を阻害した実験では,時計のリセットに伴うPer2遺伝子の急激な発現上昇,および時計のリセットそのものが部分的に抑制された.さらに,数理シミュレーションにおいても,BMAL1のリン酸化レベル上昇とそれに続く核局在化が,時計振動システムの位相変化を起こす駆動力となり得ることが支持された.結論として,本研究は,BMAL1-ISRが外部からの多様な同期シグナルを統合し,分子時計の振動システムへとリンクさせる重要な「スイッチングシグナル」として機能していることを示唆するものである.

  • 山川 稚葉, 安河内 冴, 小柳 悟
    2026 年161 巻4 号 p. 234-238
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    ヒトをはじめとする多くの哺乳類動物の生体機能は約24時間周期の概日リズムを示し,地球の自転に伴う環境の周期的な変化に効率良く対応している.時計遺伝子は,転写翻訳のフィードバックループ機構を形成することで,個々の細胞レベルにおいて概日リズムを発振し,我々の健康保持にも深く関わっている.そのため,時計遺伝子の機能不全や概日リズムの慢性的な変調は,様々な疾患の発症リスクの増大や病態の悪化を引き起こすことが指摘されており,慢性疼痛のひとつである「神経障害性疼痛」や「がん疼痛」の発症や病態制御にも関与することが明らかになってきている.例えば,時計遺伝子「Period2」の機能不全は,睡眠・覚醒のサイクルやホルモン分泌の概日リズムに変調を引き起こすが,Period2の機能不全マウスでは,末梢神経が損傷を受けても神経障害性疼痛の発症が認められない.これはPeriod2の機能不全が,脊髄後角におけるα1Dアドレナリン受容体の発現を亢進させ,エンドカンナビノイドの産生が増大したことによるものだが,生体内にはこれまで未知だった疼痛抑制経路が存在することを示唆している.また,核内受容体の一種である「Rev-erbs」は,時計遺伝子として概日リズムの制御にも関与し,脊髄におけるLipocalin 2の発現を周期的に抑制する.Lipocalin 2はがん疼痛の発症に関わるため,REV-ERBsによる周期的な発現抑制によって疼痛閾値に概日リズムが生じる.そのため,REV-ERBsに対する人工リガンドは,Lipocalin 2の発現を抑制することで,がん疼痛を緩和できることが示唆されている.このように,疼痛疾患における時計遺伝子の機能解析は病態の理解だけでなく,従来までとは異なる視点からの治療標的の同定や新たな鎮痛薬の開発に繋がることが期待される.

  • 南 陽一, 重吉 康史
    2026 年161 巻4 号 p. 239-243
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    体内時計は約24時間周期の内在性の時計であり,間脳視床下部の視交叉上核(SCN)が中枢を担っている.「時差ぼけ」(ジェットラグ)は,体内時計が外界の時刻に同調するのにかなりの日数がかかることによって起きる.ジェットラグを迅速に解消するには,適切なタイミングでの強い同調因子である光へ暴露することが一般的な方法である.しかしここで我々は,数理的モデルから導き出される別の方法を提案する.すなわち体内時計の振幅を低下させて,同調因子への反応性を高めるという方策である.私たちはプリオンタンパク質の遺伝子骨格を基にした発現ベクター(MoPrnP.Xho)を用い,神経系に強くBMAL1のドミナントネガティブ変異体(DN)を発現するトランスジェニックラット(BMAL1 DN(+))を作出した.BMAL1のDN体はC末端を欠き,時計タンパク質CRYとの相互作用能を欠き,容量依存的にE-boxを介した転写を抑制する変異体であり,細胞レベルでは時計遺伝子発現リズムの振幅が大幅に減弱することが報告されている(Kiyohara et al. PNAS, 2006).BMAL1 DN(+)の行動リズムは明暗条件下でも恒常暗条件下でも明瞭なリズムを示したが,BMAL1 DN(-)と比較して振幅が弱かった.SCNの器官培養を行ったところ,SCNの発光リズムの振幅はBMAL1 DN(+)で有意に低く,概日時計の振幅が低いことを支持していた.BMAL1 DN(+)では光に対する反応性が増しており,位相変位量が大きくなっていた.さらに,BMAL1 DN(+)では外界の明暗サイクルをシフトした場合に,新しい明暗サイクルに同調するまでの日数が短くなっており,概日時計を弱めた場合に位相変位を大きくさせ,ジェットラグを小さくするという仮説が支持された.

特集 細胞の形と機能を司る生体膜のホメオスタシス制御とそこから迫る病態生理の新展開
  • 大津 航, 小林 純子
    2026 年161 巻4 号 p. 244
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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  • 佐藤 慶太郎, 大野 雄太, 長瀬 春奈
    2026 年161 巻4 号 p. 245-248
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    唾液分泌は口腔および全身の健康維持に不可欠であり,耳下腺腺房細胞ではβアドレナリン受容体刺激に伴うcAMPとそれに続くプロテインキナーゼA(PKA)の活性化が,アミラーゼの開口放出(エキソサイトーシス)を誘発する.しかしPKA活性化から分泌顆粒膜と細胞膜の融合に至る詳細な分子機構には未解明な点が多い.筆者らは,生体膜ホメオスタシス制御の観点からプロテインキナーゼC(PKC)の主要基質であるMARCKS(myristoylated alanine-rich C kinase substrate)に着目し,その役割を検討した.ウェスタンブロット解析により,MARCKSは耳下腺,顎下腺,舌下腺,涙腺,および膵外分泌腺のすべてで強く発現していることが確認された.耳下腺においてβ受容体刺激はPKAの活性化を介してPKCδを活性化させ,MARCKSのリン酸化を惹起する.リン酸化されたMARCKSは,細胞膜の特定のマイクロドメインである脂質ラフト(detergent-resistant membrane:DRM)から細胞質へと脱離する.この刺激に伴う脂質ラフトからの脱離現象は,耳下腺(cAMP依存性)と膵臓(主にCa2+依存性)の両組織のアミラーゼ分泌に共通して認められた.MARCKS阻害ペプチドによる分泌抑制効果を併せると,MARCKSは脂質ラフト上でSNAREタンパク質等の分泌関連分子の機能を物理的あるいは空間的に制御しており,刺激に伴うその脱離がエキソサイトーシスのトリガーとして機能している可能性を示唆している.本機構は,耳下腺のみならず膵外分泌腺等でも共通して認められる外分泌機能の根幹をなす制御システムであると考えられる.本稿では,生体膜ドメインの動態制御の観点から,MARCKSを介した新たな分泌調節モデルを提唱し,その病態生理学的意義について考察する.

  • 関 桃子, 新敷 信人, 星野 純一, 中村 史雄
    2026 年161 巻4 号 p. 249-252
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    ヒトの成熟赤血球は,体内循環しながら120日間生存する.細胞膜の脂質二重層においてホスファチジルセリン(PS)は内層のみに非対称性に維持されており,それは赤血球膜においても例外ではない.内層に維持されたPSは,膜骨格タンパク質との相互作用によって膜の物理的強度の担保に一役買い,外層に表在化したPSは,脾臓マクロファージによる老化赤血球除去のシグナルとして利用される.これらの事実から,PSの分布が120日間の寿命と深く関わることは明白である.我々は,赤血球膜で働くPSフリッパーゼ分子はATP11Cが約90%を占め,その遺伝子変異は溶血性貧血の原因となること,ATP11Cが失われても大半の赤血球ではPSが表在化しないことを明らかにした.このフリッパーゼ活性に依存しないPS内層維持機構に,リン脂質スクランブルを抑制するコレステロールが関与していることも明らかにした.これらは,赤血球にとって解糖系のみで得られる貴重なATPを消費するATP11Cには依存せず,そもそもPSを表在化させないように防御するという理にかなった生存戦略である.寿命直前の老化赤血球を集めてみると,ATP11Cの減少,赤血球内ATP,Kの減少によってフリッパーゼ活性が低下しており,細胞内への少量のCa2+導入によって容易くPSが表在化した.詳しい機序は不明だが,老化の過程で起こる赤血球内Ca2+濃度上昇が解明の鍵であると推察された.また,赤血球寿命の短縮が原因の一つとされる腎性貧血では,産生されてから80日程度の赤血球でフリッパーゼ活性の低下,PS表在化率の上昇も認められ,ATP11Cの減少,赤血球内Kの減少といった健常老化赤血球と類似の変化が生じており,生理的な老化変化が早期に起こっていると考えられた.今後は,老化変化が早期に発生する機序を明らかにして,腎性貧血改善につながる新たな治療法を提案していきたい.

  • 小林 純子
    2026 年161 巻4 号 p. 253-256
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    細胞膜の主要な構成成分はリン脂質であるが,細胞膜には糖鎖に修飾されたスフィンゴ糖脂質やコレステロールが豊富に存在する領域が認められる.このような領域は膜マイクロドメインとよばれ,受容体やシグナル伝達を調節する細胞内外のタンパク質が密に局在する.膜マイクロドメインは海に浮かぶ “いかだ” のように細胞膜上を自由に動き回り,リガンド存在下では細胞内のシグナル伝達分子と会合することで,細胞の機能制御に深く関与する.細胞表面に存在する受容体を含む多くのタンパク質や細胞外に分泌されるタンパク質は糖鎖による修飾をうけ,特定の糖鎖構造を認識するレクチンと相互作用する.この糖鎖-レクチンの相互作用は,細胞の機能制御に重要な役割を果たす.受容体やホルモン上の糖鎖と膜マイクロドメインに豊富に存在する糖脂質上の糖鎖は,生体内に存在する内在性レクチンにより認識され,架橋されることで,受容体などの細胞表面分子の挙動が調節されている.我々は,ガラクトースを認識するガレクチンの生体内における機能に注目してこれまで解析を行ってきた.ガレクチンは哺乳類では15種類のサブタイプが報告されており,消化管,尿生殖器,免疫系器官など,組織・細胞特異的に生体内に広く分布する.我々は,妊娠の成立や維持に必須なプロゲステロンを産生する黄体の機能制御メカニズムにおけるガレクチンの機能を解析する過程で,細胞膜脂質が黄体機能制御に中心的な役割を果たすことを見出した.本稿では,細胞膜脂質,特に脂質由来メディエーターであるプロスタグランジンEとスフィンゴ糖脂質の質的・量的変化,および,ガラクトース認識ガレクチンによるヒト黄体の機能制御メカニズムについて紹介する.

  • 大津 航
    2026 年161 巻4 号 p. 257-262
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    人は外部情報の8割から9割を視覚から得ており,視覚を担う網膜の視細胞は光受容器として高度に分化した細胞である.視細胞は光を神経信号へと変換する過程において,常に酸化ストレスに曝されており,特に外節はロドプシンを豊富に含み,光エネルギーを吸収する場であるため障害を受けやすい.外節は網膜色素上皮によって貪食・分解されることで網膜の恒常性が維持されている.網膜への過剰な光の曝露は,萎縮型加齢黄斑変性を含む様々な網膜疾患の発症や病態形成に関与することが指摘されているものの,光曝露に対する細胞のストレス応答機構の分子基盤には未だ解明されていない点が多く残されている.一方で,日常的に摂取する食品の成分の中には血流を介して網膜に到達するものも知られており,特に抗酸化作用を有する食品成分は網膜の恒常性維持や眼の健康,とりわけ高齢者の視機能維持への有効性が期待されている.筆者らはマウス網膜由来細胞株である661W細胞を用いた青色光曝露モデルにより,過剰な光曝露が小胞体ストレス応答を活性化するのみならず,ミトコンドリアの脱分極や断片化を伴う機能障害を引き起こし,最終的に細胞死を誘導することを報告している.さらに青色光曝露による細胞障害に対して,マキベリー由来のデルフィニジン類および微細藻類由来のペンタデシルが抑制的に作用することを見出してきた.加えて,角膜上皮細胞を用いた検討により,天然カロテノイド色素であるクロセチンが紫外線A波によるミトコンドリア断片化を抑制し,上皮バリア機能を維持することも明らかにしている.本稿では,光ストレスにより惹起される細胞内膜小器官の異常,特にミトコンドリアおよび小胞体に着目し,それらを介した細胞応答機構について概説する.これらの知見は,細胞内膜小器官の恒常性維持が網膜変性疾患の予防・治療において重要な標的となり得ることを示唆している.

特集 親密な相手との社会性行動に対する分野横断的アプローチ
  • 松本 信圭, 横井 佐織
    2026 年161 巻4 号 p. 263
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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  • 百濟 美紅瑠, 鈴木 晴香, 池谷 裕二, 松本 信圭
    2026 年161 巻4 号 p. 264-269
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
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    マウスやラットを用いた研究は,社会行動の基礎的メカニズムの解明に貢献してきた.具体的には,社会的認識(個体識別)において背側海馬CA2野や腹側海馬CA1野から側坐核への投射が,また養育行動においては視床下部内側視索前野を中心とした神経回路が必要十分な役割を果たすことが特定された.しかし,多夫多妻制であるこれらの動物は,特定の異性に対して持続的かつ選択的な選好性を示す「ペアボンド(つがいの絆)」の研究には不向きであった.この課題に対し,本総説では一夫一妻制のプレーリーハタネズミを用いた研究成果に焦点を当てる.ペアボンドの形成には,バソプレシン,オキシトシン,ドパミンといった神経修飾物質が,側坐核や腹側淡蒼球といった報酬系領域において協調的に作用し,パートナーの感覚情報と報酬価値を連合させることが不可欠である.さらに近年の研究により,内側前頭前皮質や側坐核における特定の神経活動が,ペアボンド形成を動的に制御していることが明らかとなった.また,腹側海馬CA1野からもパートナー特異的な神経活動が発見されている.社会性の生物学的原理を包括的に理解するためには,マウスやラットの研究で解明された個体識別のメカニズムと,プレーリーハタネズミの研究で示されてきた特定の他者への価値付けのメカニズムを統合する必要がある.脳がいかにして無数の他者の中から特定の個体を識別し,特別な存在として記憶に刻むのかを解明することが,社会性の神経生物学における今後の課題である.

  • 横井 佐織
    2026 年161 巻4 号 p. 270-274
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル 認証あり HTML

    社会性をもつ動物の一部は,親密な個体とそうでない個体を識別し,それに応じて行動を変化させる能力を進化させてきた.この社会認知の異常はヒトの自閉スペクトラム症などと関連すると考えられ,分子基盤の理解が進められている.中でもオキシトシンは社会性行動の調節因子として注目されているが,その作用は単純ではなく,種や性別によって異なる可能性がある.本研究では,視覚を用いて個体識別を行うメダカを対象に,オキシトシンが親密度に依存した配偶者選択をどのように制御するかを解析した.まず,オキシトシン変異体メダカのメスでは,野生型が見知ったオスを優先的に受け入れるのに対し,初対面個体もすぐに受け入れ,親密度依存の選好性が消失していた.一方オスでは逆の効果が見られ,変異体オスは初対面のメスへの求愛が少ないものの,同居による親密化とともに求愛頻度が上昇した.また三者関係実験では,変異体オスは見知ったメスに対して強い配偶者防衛行動を示し,選好性がむしろ過度に高まる傾向が確認された.これらの結果は,オキシトシン欠損がメスでは選好性の喪失,オスでは選好性の強化という対照的な性差を生むことを示している.また,全脳トランスクリプトーム解析では,オス・メス共通して補体系C1q遺伝子群の発現が低下しており,神経発達過程の異常が示唆された.さらに,GABA代謝関連遺伝子などがメスでのみ変動しており,性特異的な分子経路の存在が明らかとなった.一方,筆者らが開発したUPA-seq法は,RNAとタンパク質の結合性を網羅的に評価し,機能未知遺伝子を新たな視点からキャラクタライズできる.したがって今後UPA-seq解析を導入することで,本研究で明らかとなった分子経路の下流に存在する機能未知遺伝子を効率的に抽出し,オキシトシンが配偶者選択を制御する新たな分子機構の解明につながると期待される.

新薬紹介総説
  • 飯島 崇裕, 岡嶌 大祐
    2026 年161 巻4 号 p. 275-279
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)は,がん細胞に選択的かつ効率的に薬物を送達することで高い有効性と副作用の軽減が期待される次世代抗体医薬品である.第一三共株式会社では,DNAトポイソメラーゼⅠ阻害薬エキサテカンの誘導体DXdを薬物部分に用いた独自のDXd-ADC技術を確立し,この技術を適用した第一弾のADCとしてHER2を標的とするトラスツズマブ デルクステカンを創製した.さらに未充足医療ニーズを満たす新規ADCの創出を目指して,trophoblast cell surface antigen 2(TROP2)を標的とする抗体にDXd-ADC技術を適用したダトポタマブ デルクステカン(略称:Dato-DXd)を新たに創製した.非臨床モデルにおいて,Dato-DXdはがん細胞表面のTROP2に結合し,内在化後にリソソームへ移行して,リンカー切断を受けて遊離したDXdがDNA傷害及びアポトーシスを誘導することにより,抗腫瘍活性を示す可能性がある.また複数のヒトがん細胞移植xenograftマウスモデルにおいて,Dato-DXdはTROP2依存的な抗腫瘍活性を示した.臨床開発においては,ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんを対象とする第Ⅲ相臨床試験の結果から,2024年12月に世界に先駆けて本邦で承認を取得し,その後に米国及び欧州においても承認を取得している.

  • 石川 智史, 諸田 沙織, 時 ベイニ, 李 銀華, 飯島 正博
    2026 年161 巻4 号 p. 280-290
    発行日: 2026/07/01
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    片頭痛は世界で約10億人が罹患する頻度の高い神経疾患であり,精神的及び社会的負担は大きく,疾患負荷が極めて高い.片頭痛の治療は急性期治療と予防療法に大別され,従来の急性期治療薬には心血管系リスクに関する禁忌や副作用等の課題,従来の予防療法薬には効果発現までに時間がかかることや副作用等の課題があった.リメゲパントは経口投与可能な低分子カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬であり,急性期治療と予防療法の両方に用いられる点が特徴である.非臨床試験では,リメゲパントはCGRP受容体に対して高い親和性を示し,冠動脈及び頭蓋内動脈に対する収縮作用は認められなかった.臨床試験でも心血管系リスクを示唆する所見はなく,リメゲパントはトリプタンのような血管収縮作用の懸念は低い.第Ⅰ相試験では日本人健康成人でも速やかな吸収が認められ,急性期治療における速やかな効果発現を支持する.半減期は約10時間と急性期治療薬として比較的長く,効果の持続を支持する.予防療法の観点からは,既存のCGRP関連抗体薬がいずれも注射剤であるのに対し,本薬は口腔内崩壊(OD)錠による経口投与が可能である.薬物相互作用試験では,スマトリプタンと併用したとき,リメゲパント及びスマトリプタンの薬物動態に意味のある変化や血圧の上昇は認められず,リメゲパントとトリプタンとの併用が可能である.片頭痛患者を対象とした国内外の複数の臨床試験で急性期治療としてのリメゲパントの有効性と安全性が確認され,更にリメゲパントの隔日投与による予防療法は1ヵ月あたりの片頭痛日数を有意に減少させた.中枢系副作用を示唆する症状は限られ,便秘の発現割合も低い.良好な安全性プロファイルに加え,急性期治療と予防療法を同一剤形で柔軟に使い分け可能な点は,患者の病態に応じたシームレスかつフレキシブルな治療戦略を可能にし,片頭痛治療の新たな選択肢として臨床的意義が高い.

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