日本薬理学雑誌
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特集 創薬研究におけるヒト新鮮組織の利活用について
  • 月見 泰博
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 289
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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  • 行武 洋
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 290-294
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    創薬研究には,長い年月と労力がかかり,その成功確率は非常に低い.この状況を打破するべく,製薬会社各社はあらゆる角度からこの成功確率の向上に取り組んでいる.その結果として,近年,あらゆるモダリティーを駆使して治療候補品を見出しその候補の臨床効果をなるべく早い段階から予測すること,臨床試験において対象となる疾患患者の適切な層別化と適切なリードアウトを選択することなどが重要視され,これらを実現させるための研究戦略の立案と実行が求められてきた.そのような環境において,患者由来のサンプルを含めたヒト由来のサンプルを積極的に利活用した非臨床研究の重要度が増しており,患者由来サンプルを用いることによる病態の理解や創薬ターゲットの発掘,候補品の評価などが活発に行われている.そこで本稿では,特に非臨床創薬研究におけるヒト由来サンプルの利活用の有用性についてを人工多能性幹細胞(iPS細胞)の例を中心に記述した.言うまでもなく,ヒト由来iPS細胞を含むヒト由来サンプルは実験動物が持たないヒト固有の特性も有した貴重な実験材料である.とりわけ患者由来サンプルは,疾患の原因となる遺伝素因や少なくとも一部の疾患特性を備えていると考えられており,病因の解明や疾患モデル,臨床効果の予測性の観点から有用であり,創薬への応用が期待されている.マウスをはじめとした実験動物由来の材料での再現が難しい疾患を対象とした創薬研究では殊更である.一方で,ヒト由来のサンプルには限界があり,またその使用にあたっては研究倫理上の手続きや配慮も必要である.以上の観点と,我々の研究グループの活用例の紹介を交え非臨床研究におけるヒト由来サンプルの有用性について概説し,これらを用いた今後の研究展望についても紹介する.

  • 前田 和哉
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 295-299
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    経口投与薬の開発において,消化管吸収率の定量的予測や,薬物誘導性消化器障害のリスク予測は必須の項目の一つである.これまで動物in vivo実験による予測では,結果に大きな種差が観察されるケースがしばしばみられることが報告されている.また,消化管関連のアッセイ系で最も創薬上繁用される大腸がん不死化細胞株Caco-2細胞を用いた実験では,トランスポーター・代謝酵素の遺伝子発現プロファイルが小腸の吸収上皮細胞とは必ずしも一致していないことに起因して,特にトランスポーター・代謝酵素の基質薬物に関してin vitro実験系より予測された消化管吸収性は,in vivoでの吸収率を反映しないケースが複数報告されている.そこで我々は,ヒト/動物crypt由来の消化管幹細胞培養系を創薬スクリーニング系として活用すべく,過去の報告に従い3D培養系を構築すると共に,細胞を単離後2D展開することで,旧来と同じ実験フォーマットでアッセイを実施することが可能となった.幹細胞由来の分化吸収上皮細胞には,ヒト消化管と同レベルの代謝酵素・トランスポーターの発現・機能が認められると共に,本実験系を用いてCYP3A基質薬物のin vivo代謝回避率を定量的に予測しうることを示した.一方,消化器障害のアッセイ系としては,消化管幹細胞スフェロイドに薬物を直接曝露させATPレベルを観察する実験系を用いて,EGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)の臨床での下痢の頻度差を説明しうる結果を得た.さらには,嘔吐・悪心のアッセイ系として,enterochromaffin(EC)細胞リッチなスフェロイドを構築し,セロトニンの放出活性を測定する実験系により,ALK/ROS1-TKIsの臨床での嘔吐・悪心リスクの高低とセロトニン放出の薬物濃度依存的な感受性の高低が一致する結果を得た.本実験系は,消化管イベントの種差・部位差をin vitro実験系において再現できる可能性を秘めており,今後更なる創薬スクリーニングへの応用や分子機序解明のための実験系としての利用が期待される.

  • 沖本 りさ, 藤村 高穂, 三原 佳代子
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 300-303
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    現在,製薬企業の創薬研究において開発候補医薬品の上市確率の低下が課題となっており,更なる臨床予測精度の向上によるproof of concept(POC)取得率の改善が求められている.そのため,創薬研究段階での「動物」から「ヒト」へのマインドセットの変化により,ヒト病態生理の理解を深め,ヒト試料/情報を更に活用することが必要であると考えている.そこで,アステラス製薬株式会社ではヒト試料/情報を活用することによる創薬研究における更なる臨床予測精度の向上を目的としてヒト試料活用支援機能を構築し,各種ヒト試料/情報提供機関の情報やヒト試料/情報取得のノウハウの集積を行うことで,各創薬研究ニーズに合致したヒト試料/情報の取得支援を行っている.具体的には,ヒト試料/情報の探索,提供機関との交渉・契約,倫理審査承認取得,試料の輸入・通関対応等をワンストップで行う支援体制を構築し,創薬研究者が研究ニーズに合致した高質なヒト試料/情報が容易かつ迅速に取得できるような機能を構築している.本機能を導入することで,創薬研究初期段階からの仮説検証,バイオマーカー探索,患者層別化検討などを実施する研究テーマ数が増加しており,臨床効果について予測精度の高い開発候補医薬品の創出に貢献することが期待される.近年,ヒト試料を用いた創薬研究の多様化により,経時的採取および新鮮なヒト試料が必要なケースが多くなってきているが,それら試料を入手する際の課題が多い.そのため,本機能では,特に前向きにヒト試料が取得可能なバイオバンクとの連携強化に努めている.本稿では,本機能で構築したヒト試料/情報の利活用推進のフローを示しながら我々の活動について紹介する.

特集 革新的テクノロジーが切り拓く生体脳分子探査
  • 宮田 茂雄, 竹本 さやか
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 304
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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  • 水野 ローレンス 隼斗, 安楽 泰孝
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 305-310
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    昨今隆盛を極めるボトムアップテクノロジーとの関連から,機能性高分子の自己組織化を利用し溶液中においてナノ構造体を形成し,医療を中心とする幅広い分野での応用が検討されている.これらの研究の目標の一つに,生理活性物質を生体内の標的とする箇所へ送り届け,狙った機能を発揮することで活躍する薬剤送達システム(drug delivery system:DDS)の創製がある.著者らはこれまでに生体内での安全性が担保された高分子をビルディングブロックとした高分子集合体をDDSとして,主にがんに薬剤を送達するナノマシンを開発してきた.本稿では,これまでに培ってきたナノマシン設計技術を活用し,既存技術では通過が困難な血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)を効率的に通過し,脳内へ侵入する『ナノマシン』と呼ばれる最先端ナノテクノロジーの開発について紹介する.さらにこの『ナノマシン』技術を活用,さらにブラッシュアップし,脳内外の物質輸送と種々の生体内プロセスの相関を解明し,「脳分子を非侵襲的に回収・検出し,脳機能・疾患を理解」する『はやぶさ型ナノマシン』の開発を進めている.本稿では,『脳分子探査』という既存技術では着想もしない,まさに既存の学術体系や方法論を大きく転換する『はやぶさ型ナノマシン』のコンセプトや取り組みについても紹介する.

  • 宮田 茂雄
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 311-315
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    うつ病や抑うつ状態の重症度を評価するための客観的な指標,すなわちうつ病バイオマーカーの開発が熱望されている.我々は最近,中高年齢うつ病患者およびそのモデルマウスの白血球における遺伝子発現をプロファイリングすることで,中高年齢うつ病の抑うつ状態の重症度と相関するバイオマーカー候補遺伝子を同定した.また,白血球での遺伝子発現データから脳における病態を予測可能であるか検討した.さらに,精神疾患における情動機能異常の神経科学的メカニズムの解明に有用なトランスジェニックマウスを新たに開発した.本総説では,トランスレーショナル研究によるうつ病バイオマーカー開発の理解に役立ててもらうため,私たちの最近の研究を紹介する.

  • 上田 修平, 竹本 さやか
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 316-320
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    扁桃体中心核(central nucleus of the amygdala:CeA)と外側分界条床核(lateral division of the bed nucleus of the stria terminalis:BNSTL)を含む中心拡張扁桃体(central extended amygdala)は,恐怖や不安などの感情状態の原因となる脅威の処理に関わる中心的な脳領域である.これらの脳領域は環境の変化に適応するため,神経回路活動を変化させ必要な機能を発揮する一方で,過度な脅威やストレスに直面すると,その神経回路機能が障害され様々なストレス関連精神疾患の原因となると考えられている.CeAとBNSTLは,相互に密な神経接続があり,構成する細胞や他の脳領域との入出力パターンの類似性から,古くは同一の機能を有した神経核であると考えられてきたが,近年の研究から情動行動制御に対して異なる機能を担っている可能性も示唆されており,またそれぞれが複数の亜核からなる複雑な回路構造を有しているため,神経亜核単位での機能分離は不十分であった.本稿では,筆者らが行った神経亜核単位での遺伝子発現プロファイルや回路機能の比較の研究から明らかとなった,CeAとBNSTLの類似性と差異について紹介し,ストレス関連精神疾患をはじめとした神経・精神疾患の分子病態の理解にどのように貢献できるか議論する.

  • 川井 隆之
    原稿種別: 特集
    2024 年 159 巻 5 号 p. 321-326
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    近年,一細胞トランスクリプトーム分析法を始め様々な微量バイオ分析法が開発されているが,試料体積およびそこに含まれる生体分子の量が極めて限られることから,単一細胞解析には非常に高いレベルの分析技術が要求される.分析システムの設計においては,試料ロスを最小化した前処理プロトコルと高感度な検出系を統合する必要があり,生体由来の多様な混合物を解析する上で特に分離分析が非常に重要である.キャピラリー電気泳動(CE)は,nLスケールの溶液中の生体分子を高分解能で分離できるため,単一細胞などの微量サンプルに適しており,高感度なナノエレクトロスプレーイオン化質量分析と組み合わせることで,nMからサブnMレベルの生体分子を検出できる.さらにオンライン試料濃縮技術を利用することで,数千倍以上の高感度化が可能である.本論文では,一細胞分析を中心に,これまでに報告されてきたCE-MSによる代謝物,タンパク質などの微量分析に関する研究を要約して報告する.

総説
  • 田邊 思帆里, Tae-Young Kim, Rosalía Rodríguez-Rodríguez, Chang-Beom Park
    原稿種別: 総説
    2024 年 159 巻 5 号 p. 327-330
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    がん,感染症,代謝性疾患,環境疾患等の様々な疾患が研究されているが,分子相互作用等の詳細メカニズムは未解明である.本国際シンポジウムにおいて,疾患のメカニズムを明らかとするための新しいアプローチについて議論した.分子ネットワークパスウェイ解析によるがんや感染症等の疾患メカニズム解明に関する発表の後,韓国のDr. Tae-Young Kimから環境疾患の代謝性重水ラベリングについて,スペインのDr. Rosalia Rodriguez-Rodriguezから代謝性疾患治療における視床下部ナノ医療ターゲティングについて,韓国のDr. Chang-Beom Parkから環境疾患評価における方法論アプローチについて発表がなされた.本国際シンポジウムでの議論を契機として,グローバルな疾患研究アプローチについての理解が今後更に深まることが期待される.

新薬紹介総説
  • 山野 佳則, 森田 一平, 有安 まり
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2024 年 159 巻 5 号 p. 331-340
    発行日: 2024/09/01
    公開日: 2024/09/01
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    カルバペネム系抗菌薬に耐性を示すグラム陰性菌による感染症は,2000年以降に世界中で急速に拡大しており,有効な抗菌薬の治療選択肢が限られることから治療が難渋する傾向にある.2017年の世界保健機関(WHO)の指針にて,カルバペネム耐性グラム陰性菌である腸内細菌目細菌,緑膿菌,アシネトバクター属の各病原体は,新たな抗菌薬の研究開発が必要な最優先の病原体として位置付けられている.塩野義製薬株式会社が創製したセフィデロコルトシル酸塩硫酸塩水和物(フェトロージャ®点滴静注用1 ‍g,以下セフィデロコル)は,シデロフォアセファロスポリン系抗菌薬として,2023年11月に,日本において「セフィデロコルに感性の大腸菌,シトロバクター属,肺炎桿菌,クレブシエラ属,エンテロバクター属,セラチア・マルセスセンス,プロテウス属,モルガネラ・モルガニー,緑膿菌,バークホルデリア属,ステノトロホモナス・マルトフィリア,アシネトバクター属のうち,カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す菌株を適応菌種とする各種感染症」を適応症として製造販売承認を取得した.セフィデロコルは,細菌の鉄取り込み機構を利用した独自の菌内への輸送機序と各種カルバペネマーゼに対する高い安定性を有しており,細菌のカルバペネム耐性を克服して抗菌作用を発揮する薬剤である.開発段階においては3つの国際共同臨床治験が実施され,カルバペネム耐性グラム陰性菌による各種感染症を対象としたCREDIBLE-CR試験にて,良好な有効性と安全性を確認するとともに,グラム陰性菌による複雑性尿路感染症患者や院内肺炎患者を対象とした臨床試験にて,有効性について既存治療との非劣性を検証した.セフィデロコルは,治療選択の限られた難治療性のカルバペネム耐性グラム陰性菌による各種感染症に対して,新たな治療選択を提供し,重症感染症治療に貢献することが期待される.

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