日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:薬理学研究に使う統計
変量効果を含むシグモイド型用量反応曲線におけるEC50の推定
山田 雅之
著者情報
ジャーナル フリー

2009 年 133 巻 6 号 p. 319-324

詳細
抄録
開発候補化合物の特性を評価する方法の1つに,用量反応関係の評価がある.広い用量反応関係を検討するin vitro試験では,統計解析ソフトウェアの発展に伴い,用量反応モデルに非線形モデルを用いたパラメータの推定が広く行われるようになっている.用量反応関係を検討するin vitro試験では,しばしばサンプルの反応性の違いに起因する大きなサンプル間変動を含むデータが得られる.薬物動態試験や臨床試験の分野では,同様のデータに対して,サンプル間変動を考慮した非線形混合効果モデルを当てはめて,母集団パラメータを直接推定することが行われている.本論文では,薬物動態試験や臨床試験に比べ,サンプルサイズに限りのある薬理試験データに対して,非線形混合効果モデルを適応した場合の母集団パラメータの推定精度を検討した.推定精度は,従来用いられているstandard two-stage method(STS法)との母集団パラメータの推定精度の比較により評価した.対象は,刺激剤による生体内活性物質の産生に対する薬剤Aの抑制効果を検討したin vitro試験とした.実験データは,3サンプルに対して薬剤Aを4用量段階処置した測定値,刺激剤のみを処置したコントロールの測定値,および無処置のブランクの測定値を用いた.非線形混合効果モデルの変量効果は最大反応(β4)のみに設定した.母集団パラメータの点推定値は,EC50(β1),最小反応(β3)およびβ4でほぼ同様の値を示したが,傾き(β2)でSTS法が外れ値の影響により低値を示した.また,興味のあるパラメータβ1の推定精度は,非線形混合効果モデルのほうが良かった.以上より,サンプルサイズに制限のあるin vitro薬理試験においても,適切な解析モデルと推定方法を組み合わせることにより,非線形混合効果モデルが適用可能で,従来法より精度良い推定結果が得られることが示唆された.
著者関連情報
© 2009 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top