日本薬理学雑誌
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新たな治療戦略につながる長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1およびGPR120/FFAR4を介した生体作用とその分子機構
脳内長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1を介した新たな疼痛制御機構の可能性
中本 賀寿夫徳山 尚吾
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2015 年 146 巻 6 号 p. 302-308

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抄録

脂肪酸由来の様々な因子が疼痛や炎症に関与していることが明らかになりつつある.特に,ドコサヘキサエン酸(DHA)のようなn-3系脂肪酸の摂取は炎症性疼痛ならびに神経障害性疼痛に対して有効性が高いことが強く示唆されている.近年,DHAのような遊離型の長鎖脂肪酸がGタンパク質共役型受容体の1つである長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1のリガンドであることが発見された.これらの受容体を介した脂肪酸シグナルは,末梢領域においてインスリンなどのホルモン分泌の調節を介して糖・脂質代謝の恒常性維持に関与していることから,糖尿病治療薬の標的分子として注目されている.一方,中枢神経系領域においては,これら受容体は広範囲にわたって発現していることが知られているにもかかわらず,生理的な意義やその役割はほとんどわかっていない.最近我々は,DHAによる抗侵害作用の発現には脳内の長鎖脂肪酸受容体GPR40/FFAR1を介したβ-エンドルフィンの遊離が関与していることを示した.さらに,GPR40/FFAR1は下行性疼痛制御系の起始核である青斑核および大縫線核領域に発現していることを見出し,GPR40/FFAR1アゴニストがこれらの神経系を直接的または間接的に活性化することで,痛みを抑制することを明らかにしている.一方,慢性疼痛時には脳内GPR40/FFAR1のタンパク質発現が,一過性に発現増加することやGPR40/FFAR1アゴニストの遊離脂肪酸が変動することを報告している.また,これらの変動にはアストロサイトが関与していることも示した.これらの知見は,脳内の遊離脂肪酸を介したGPR40/FFAR1シグナル伝達機構が,疼痛制御機構の調節に重要な役割をしていることを示唆するものである.本総説では,脳内GPR40/FFAR1の新たな生理作用としての疼痛制御機構における役割について紹介する.

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