抄録
網膜色素変性症(retinitis pigmentosa:RP)は,わが国でも患者数が多いが,未だに有効な治療薬や治療法が確立されておらず,2015年から指定難病に定められた.今後,超高齢化社会を迎える日本ではさらなる患者数の増加が見込まれることから,RPの治療法確立が急務である.RPの最終病態は網膜視細胞の脱落である.この病態形成に関わる細胞内イベントとして活性酸素,細胞内カルシウム,カルシウム依存性プロテアーゼ,アポトーシス関連分子がそれぞれ報告されている.しかしながら,これらの報告はRPの病態形成の一部を解明したものであり,相互の関連性が明らかでないことから,その全体像は未だに不明である.最近,70 kDa熱ショックタンパク質(HSP70)がアポトーシスを抑制し,細胞保護機能を示すことが注目されている.しかしRPにおけるHSP70の役割は解明されていない.近年,我々はHSP70が活性酸素によりカルボニル化修飾され,カルシウム依存性カルパインにより切断されることで視細胞死を引き起こすことを初めて明らかにした.さらにHSP70発現誘導薬を用いてHSP70を補うことで細胞死を抑制できることを解明した.本総説において,我々はRPの新規治療薬開発の標的としてHSP70発現誘導薬を提唱する.さらにドラッグリポジショニングの観点から,HSP70発現誘導作用をもつ既存医薬品による新規RP治療薬としての可能性について述べる.