日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
高チロシン血症Ⅰ型治療薬ニチシノン(オーファディン®カプセル)の薬理学的特徴および臨床試験成績
箕浦 秀明岩井 めぐみ谷内 由太片島 正貴高橋 秀之
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2015 年 146 巻 6 号 p. 342-348

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抄録

ニチシノン(オーファディン®カプセル)は,4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ(HPPD)阻害薬であり,高チロシン血症Ⅰ型(hereditary tyrosinemia type 1:HT-1)患者の治療を適応として,これまでに世界37ヵ国にて承認されている.本邦においては,2010年2月の「第1回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で検討され,開発企業の募集または開発要請を行った医薬品のリストに掲載されたことを受けて,アステラス製薬株式会社は本邦での承認取得申請に取り組み,2014年12月に「オーファディン®カプセル」として承認された.HT-1の原因は,チロシン分解経路の最終段階にあるフマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ(FAH)の欠損であり,肝臓および腎臓において,FAHより上流の中間代謝物であるフマリルアセト酢酸(FAA)およびマレイルアセト酢酸(MAA)が組織中に蓄積され,これら臓器に障害をもたらすと考えられている.ニチシノンは,ラット肝臓のサイトゾル画分を用いたin vitro試験において,チロシン分解経路におけるFAAやMAA産生の上流に位置するHPPDに対して阻害作用を示した.また,マウスおよびラットにおいてニチシノンの単回投与によって肝臓中HPPD活性が阻害されることが確認された.さらに,HT-1のモデル動物と考えられるFAH欠損マウスにおいて,FAHホモ欠損マウスの新生児期での肝機能障害による致死性がニチシノンの投与により回避された.以上の結果より,ニチシノンはチロシン分解経路においてFAHより上流の酵素であるHPPDを阻害し,反応性の高いチロシンの中間代謝物の産生・蓄積を抑制することによって,HT-1患者の病態を改善すると考えられる.ニチシノンのHT-1患者に対する有効性および安全性を検討した試験であるNTBC(2-[2-nitro-4-(trifluoromethyl)benzoyl]cyclohexane-1,3-dione)試験において,ニチシノンはHT-1に特徴的な生化学的パラメータに加え,死亡,肝移植,肝細胞がん,および急性ポルフィリン症等のHT-1の臨床的転帰を改善した.NTBC試験で最もよく報告された有害事象は眼障害であり,ニチシノンの薬理作用によって生じる血漿中チロシン濃度の上昇によるものである可能性が考えられた.眼症状の発現確率とチロシン最高血漿中濃度との間に有意な相関が認められたことから,チロシンおよびフェニルアラニンを制限した食事療法との併用により血漿中チロシン濃度を低く保つ必要がある.また,NTBC試験および欧米での市販後成績から,ニチシノン投与に関連すると考えられる重篤な有害事象はほとんど報告されていなく,忍容性は良好であると考えられた.

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