日本薬理学雑誌
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受賞講演総説
中枢末梢連関の理解に向けた生体電気信号の網羅的解析
佐々木 拓哉
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2017 年 149 巻 4 号 p. 167-172

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抄録

脳と末梢の各臓器は単独で活動するものではなく,互いに密接な連絡を取り,影響を及ぼし合っている.こうした中枢と末梢の相互作用を追究するには,双方の臓器活動を同時に計測し,行動や病態との表現型を参照しながら,時間変化を解析していく必要がある.この技術的課題に向けて,著者らは,自由行動中の齧歯類動物から脳波,心電図,筋電図,呼吸リズムといった生理活動信号を多チャンネルデータ取得システムとして同時に記録するための計測技術の開発に取り組んできた.これらの信号は,いずれも数ミリボルトの大きさで,数ミリ秒の時間スケールで変動していく生体電気信号であるため,同一の記録・解析システムで,多現象の時間的相関や現象間の相互作用を定量的に高精度で評価することが可能である.具体的には,動物の頭部に電気基板を設置し,各生体組織に埋め込んだ数十本の電極と接続する.基板に集約された信号は,通信用ケーブルを介して記録装置に取り込まれる.大脳新皮質からの表面脳波,海馬領域からの局所場電位を計測することによって代表的な脳活動の指標とし,心電図計測によって得られる心拍数変動を用いて自律神経の活動状態の指標とする.また,背側頸部筋電図は覚醒/睡眠状態の指標となる.さらに,呼吸リズムを嗅球表面から電位記録することで,探索行動を反映したスニフィングなど呼吸頻度の素早い変化を他の現象と同一時間軸で解析できる電気的シグナルとして検出できる.このような網羅的計測法を用いれば,中枢末梢連関を介した生体応答が,いつ,どこで,どのように生じるか,より直接的に解析し,定量的に評価することができる.得られた知見からは,中枢と末梢臓器の相対関係によって成り立つ全身システムを俯瞰的に解釈し,これまでの解剖学的,生化学的知見との比較照合をすることによって,それらの機能的意味付けが可能となるものと期待される.

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