日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
第三世代BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬ポナチニブ(アイクルシグ®)の薬理学的特性および臨床成績
吉田 孝寛リュウ イリーン太田 美穂子中山 博柳原 康夫中村 裕樹芹生 卓上正原 勝
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2017 年 150 巻 1 号 p. 54-61

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抄録

ポナチニブは,慢性骨髄性白血病(CML)およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)における薬剤耐性に対しても有効なBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として開発された新規の薬剤である.本剤はその構造に炭素間三重結合を有し,薬剤耐性の原因となるBCR-ABLの点突然変異(特にT315I)が存在しても,活性部位に結合できるように分子設計された第三世代TKIである.本剤の国外および国内臨床試験の結果,前治療薬に抵抗性又は不耐容のCML,および再発又は難治性のPh+ ALLに対する治療薬として2016年9月に国内で承認された.ダサチニブもしくはニロチニブに抵抗性もしくは不耐容,またはT315I変異を有する慢性期CML(CP-CML)患者267例,移行期CML(AP-CML)患者85例,急性転化期CML(BP-CML)患者62例およびPh+ ALL患者32例を対象とした海外第Ⅱ相試験において,CP-CML患者の主要評価項目である12ヵ月までの細胞遺伝学的大奏功(MCyR)率は56%,AP-CML,BP-CMLおよびPh+ ALL患者の主要評価項目である6ヵ月までの血液学的大奏功(MaHR)率はそれぞれ,55%,31%および41%であった.また,長期観察の結果,CP-CML患者の4年MCyR率は82%と推定された.なお,全患者において,発現率30%以上の副作用は血小板減少(44%),腹痛(43%),発赤(42%),便秘(37%),頭痛(37%),皮膚乾燥(36%),疲労(30%),高血圧(30%)であった.また,ダサチニブまたはニロチニブに抵抗性または不耐容であるCML,若しくはTKIによる前治療に抵抗性または不耐容であるPh+ ALL患者(計35例)を対象にした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験において,第Ⅰ相では,12例中2例でDLTが発現し,第Ⅱ相での推奨用量が45 mgとされた.第Ⅱ相では,CP-CML患者の12ヵ月までのMCyR率が64.7%,進行期患者(AP-CML,BP-CMLおよびPh+ ALL患者)の6ヵ月までのMaHR率が61.1%であった.35例中発現率35%以上であった副作用は,発熱(66%),血小板数減少(69%),高血圧(49%),好中球数減少(40%)であった.なお,海外第Ⅱ相試験における動脈の血管閉塞性事象(VOE)の発現率は23%,国内第Ⅰ/Ⅱ相試験におけるVOEの発現率は14%であった.今後,VOEの発現頻度を低減すべくエビデンスを構築し,本剤を必要とする患者において,適正な使用が推進されることが期待される.

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