日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
特集:薬物依存性形成メカニズム解明に対する薬理学的アプローチによる最新研究
新規薬物依存関連遺伝子Shati/Nat8lおよびTMEM168
新田 淳美
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 155 巻 3 号 p. 140-144

詳細
抄録

薬物乱用は世界的に大きな問題となっている.しかし,使用される薬物や物質毎で,生体内ならびに脳内での作用点が異なることから,その原因の解明が難航しているのが,現状である.我々は,覚醒剤メタンフェタミンに対する生体内分子の生理機能の解明に焦点を絞って,研究を行っている.覚醒剤メタンフェタミンを6日間連続投与されたマウスの側坐核を用いて,cDNAサブトラクション法で,コントロールマウスと比較してmRNAの発現量が20倍以上に増加している分子を複数個見出すことに成功した.その中に含まれていた分子としてShati/Nat8l とTMEM168がある.Shati/Nat8lのcDNAを組み込んだアデノ随伴ウィルス(AAV)ベクターをマウスの側坐核または前頭前皮質に注入し,Shati/Nat8lの発現量を増加させると場所嗜好性や運動量の増大等の覚醒剤の薬理効果は低減される.この時,側坐核からのドパミンの遊離量が減少をしており,Shati/Nat8lの最終産生物であるNAAGは,mGluR3のアンタゴニストのLY341495を末梢投与すると,覚醒剤の薬理作用に対するShati/Nat81の効果は制御された.これらのことから,mGluR3を介した新しい薬物抑制作用を見出した.また,前頭前皮質のShati/Nat8lの増加は側坐核へのグルタミン酸神経系を抑制し,側坐核のドパミン遊離量を調節することも分かっている.一方,TMTEM168もAAVを使用して側坐核で発現量を増加させると覚醒剤による場所嗜好性や運動量の増加が抑制された.TMEM168は,オステオポンチンと結合し,インテグリン受容体を制御し,ドパミン遊離を抑制するメカニズムも明らかになっている.覚醒剤依存の形成メカニズムの解明は,ほとんど進んでいない.脳機能は多くの分子や神経回路が複雑に組み合わさっているところであるが,このように,個々の分子,1つ,1つの生理活性を解明することが,メカニズム解明や治療方法の確立につながることを期待する.

著者関連情報
© 2020 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top