日本薬理学雑誌
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特集:薬物依存性形成メカニズム解明に対する薬理学的アプローチによる最新研究
物質依存治療候補薬としてのGIRKチャネル阻害薬の臨床研究
古田島(村上) 浩子池田 和隆
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2020 年 155 巻 3 号 p. 130-134

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抄録

近年,アディクションに関する話題は広くメディアなどを通じ報道されており,社会からの関心・認識が高まっている.また,「アディクションを治療する」ことは臨床現場の重要な課題となっている.アディクションには根治のための治療法がなく,長期にわたる通院や入退院,再使用の繰り返しがアディクションの治療現場の実状である.これらの現状を鑑みると,アディクションの根治を目指した新たな治療法の開発が急務である.本稿では,著者らが治療薬開発のターゲットとして着目しているG-protein activated inwardly rectifying potassium(GIRK)チャネルと物質依存について概説し,現在実施しているGIRKチャネル阻害薬を用いた臨床研究を紹介する.これまで,依存性物質の作用機序において重要なGIRKチャネルは,動物及びヒトを対象とした研究で,実際に物質依存に関係するとの知見が蓄積されてきた.GIRKチャネルは報酬に関する脳部位などに分布しており,依存性物質がGタンパク質共役型受容体に結合するとGタンパク質によって活性化され,ニューロンの活動調整に寄与する.動物実験において,GIRKチャネルを阻害するイフェンプロジルを予め投与すると依存性物質によって引き起こされる行動が減弱することが報告されてきた.イフェンプロジルは安全性が高く,脳循環機能改善薬(保険適応)として臨床現場において長く使用されてきた.著者らは,イフェンプロジルをアルコール依存患者に3ヵ月間投与すると,アルコールの再使用スコアがコントロール群に比べて有意に減少することを前向きランダム化非盲検試験にて見出した.現在は,覚せい剤依存患者を対象としてイフェンプロジル投与を行うアウトカム探索的研究を二重盲検無作為化比較試験にて実施中である.将来的にはイフェンプロジルの効果の検証を他の依存性物質や行動嗜癖まで拡大し,患者の治療に貢献したいと考えている.

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