日本薬理学雑誌
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特集:中枢性稀少疾患の薬理学
多発性硬化症の病態を修飾するアストロサイト
宝田 美佳堀 修
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2021 年 156 巻 4 号 p. 230-234

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抄録

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,本邦の指定難病の一つに定められる中枢神経系の炎症性脱髄疾患である.時間的および空間的に多発する組織硬化を特徴とし,病変部に応じた症状を示す.典型的には再発と寛解を繰り返しながら神経症状が進行し,根治療法は未だ存在しない.MS患者検体やMS動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis:EAE)を用いた多くの研究により,その本態は中枢神経系の髄鞘タンパク質を標的とした自己免疫疾患であることが明らかとなっている.病態形成には獲得免疫である自己反応性T細胞が中心的な役割を果たしており,近年の研究成果によりB細胞の役割も注目を集めている.MSは再発寛解型MSと進行型MSに分類され,再発寛解型MSに対してはこれらの獲得免疫を標的とする多くの疾患修飾薬が開発されている.進行型MSに対する治療薬はここ数年で承認が始まったばかりであり,神経障害が蓄積する進行期に有効な治療法の確立が待ち望まれている.進行型MSの病態では,獲得免疫だけでなく自然免疫やグリア細胞が免疫病態の重要な構成要素として認知されつつあるが,免疫細胞と神経細胞,グリア細胞間のクロストークの分子機序には未だ不明な点を多く残している.本稿では,MSの病態,および免疫細胞を標的する疾患修飾薬について概説するとともに,EAEを用いた我々の研究成果を交えてアストロサイトによるMS病態の制御機構について紹介する.

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