日本薬理学雑誌
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リレーエッセイ
薬理学者としての誇り
橋本 達夫
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2024 年 159 巻 5 号 p. 344

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神奈川県立がんセンター麻酔科の古賀資和先生からの引継ぎです.私は内科医ですが,薬理学には特別な思い入れがあります.そもそも私の専門分野を決めるきっかけは,薬理学の講義でした.学部4年で出会った薬理学は,それまでの知識詰込み型の講義とは一線を画しており,医学・生物学の面白さを実感させてくれるものでした.薬理学の教科書の編著者でもあった教授は,神経性アミノ酸,特にノルアドレナリンやL-ドーパなどの血管作動性物質の多面的な作用について,面白く解説してくれました.当時の私には十分に理解できないまでも,薬理学が面白いという印象は刻み込まれました.特に血管作動性物質の魅力に,はまりました.このことが,大学院進学の際,高血圧研究を選ぶ決め手となりました.映画のスター・ウォーズに例えるなら,薬理学教室は私にとって,ヨーダです.ヨーダのようなメンターとして,医学の道にいざなってくれました.大学院では,薬理学教室で博士課程を修了してから内科医になった先生に指導を受けました.丁寧にデータを積み重ねることや,失敗から学ぶことを教わり,数多の試練を乗り越えました.血管作動性物質でもあるアンジオテンシンⅡ関連物質の新しい作用について,ノックアウトマウスを用いて解析を行うことができました.基礎研究の面白さと辛さを味わい,ライトセーバーよろしく技術と業績を得ました.サイエンティストの英雄的魅力を教わり,研究者として目指すモデルが固まりました.しかし,その後に国内留学先や海外留学先で出会った薬理学者たちは,後々世界的権威になる人物であったり,後々研究不正で立場を追われる人物であったりしました.彼らはいろんな意味で偉大で,まるで私という小さな英雄が対決すべきダース・ベイダーのようでした.そのため,薬理学者に対する憧れと怖れといったアンビバレントな感情が交錯し,一人前の薬理学者になりきれずに時間が経ってしまいました.

幸いなことに,卒後20年が経とうとした頃,新しく上司となった先輩から薬理学教室への出向のチャンスをいただき,迷わず希望しました.基礎研究者のトレーニングとしては年を取りすぎていると思いました.しかし,それよりも,薬理学教室というメンター的存在の下で,今度こそ一人前の薬理学者になりたいという思いが強くありました.薬理学教室で長年取り組んでいるL-ドーパ独自の作用について,マグヌス管でマウスの摘出心で収縮反応を観察したり,麻酔下で肺高血圧症モデルラットの右室圧を測定したりと,念願であった薬理学的実験に没頭できました.県外の共同研究者の実験室に毎週通勤したり,大学院生を指導させていただいたりと,基礎研究者として一通りのことができました.さらに日本薬理学会年会開催のお手伝いもでき,学会活動にも関わらせていただきました.ここまできてやっと,念願であった一人前の薬理学者になれたのではないかと思いたいのですが,よろしいでしょうか?

結びにかえて,歯科医師の現状について耳寄りな情報を提供したいと思います.先生方は,歯科医師が減少し始めていることをご存じでしょうか? 厚生労働省の統計によりますと,医師数,薬剤師数が年々増加していることに反して,歯科医師数は2022年から減少に転じています.2014年から歯科医師国家試験合格者数を年間2,000人程度に抑えている結果,卒後10年までの若い歯科医師が極端に少ないのです.従って今後,歯科医師不足の時代が来ると予測されます.いえ,すでに歯科医師不足の時代に突入しています.加えて,歯周病や摂食・嚥下などの歯科医が扱う領域が広がっていますので,歯科医師の希少価値は益々上がるものと予測されます.質の高い歯科医師なら,さらに重宝されることでしょう.歯科医師は余っているという認識は過去のものとなりました.国家資格をこれから取得しようと思う方にとって,はっきり申し上げて歯科医師が今はねらい目です.このような状況ですので,歯科大学にあって私は日々,いつでも学生にとってヨーダのようなメンターになれるよう,腕を磨いております.どなたであっても,喜んでお引き受けいたします.

現在私は,歯学部学生への医療人としての講義,内科医としての診療・データ収集を行っています.一人前の薬理学者としての誇りを胸に,これらの教育・臨床・研究に貢献してまいります.ヨーダのようなメンターになりたい,と願いながら.

 
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