日本薬理学雑誌
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特集 子宮内膜症の病態解明と画期的な新薬開発に向けた新たな視点
序文
田村 和広谷口 文紀
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2024 年 159 巻 6 号 p. 367

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子宮内膜症や生殖器系のがんをはじめとする女性の健康を脅かす難治性疾患の有病率は,ライフスタイルの変化などにより増加の一途をたどっている.子宮内膜症は,遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合って発症・進行すると理解されている.生殖年齢にある女性の約10人に1人が罹患しており,患者はわが国だけでも約260万人と推定されている.慢性的な腹痛,月経不順,不妊を引き起こし,罹患者の生活の質(QOL)を著しく損なう.また,近年では,妊娠合併症や心血管系リスクの増加などさまざまな負の影響が報告されており,国の方針でもある健康寿命延伸や一億総活躍社会を妨げる要因として重要な位置を占めている.現在の治療法としてはホルモン療法や手術があるが,副作用や再発の課題を有し,アンメットメディカルニーズが高い疾患であり,画期的治療薬の開発が切望されている.

そこで,子宮内膜症の複雑な原因を明らかにし,最先端の病態と発生機序,新規治療開発につながる手かがりを議論することを目的に,第97回日本薬理学会年会(神戸)において,表題のシンポジウムを企画した.この特集は,その発表に基づきトピックを簡潔にまとめたものであり,炎症,線維化,免疫シグナル伝達の分子メカニズム,新規治療アプローチにつながる可能性のある新たな標的分子の同定など,この疾患の原因や病態に関する最新の知見を紹介することで,本領域の理解を深めたいと考えた.主にできるだけ新しい視点から基礎研究を積極的に進めている臨床の第一人者らにご担当いただいた.

まず,「子宮内膜症に対する薬物治療の現状と未来」(細川・谷口)では,異常内膜細胞の生存に関わる因子の同定とそれらの阻害薬による内膜症病態の改善をめざした試みについて解説している.次の「ドラッグリポジショニングをめざした子宮内膜症非ホルモン性治療の検討」(大須賀 先生)においては,ある特定の細菌の内膜症への関与と,抗菌薬のドラッグリポジショニングをめざした基礎・臨床研究のホットな知見を記述している.最後に「子宮内膜細胞の線維化シグナルと内膜症の進展」(草間・田村)においては,月経血中の炎症因子が線維化を起こすシグナルの解析とその治療標的としての可能性を記述した.

本特集で述べられている炎症・細菌感染・免疫応答・線維化の制御に関する知見が新しい創薬標的の発見や,より効果的な治療薬の開発につながることを期待したい.子宮内膜症患者のQOLや生殖予後の向上のみならず,完治可能な治療薬開発に役立つ特集であることを願う.末筆ながら,研究成果を紹介させていただく機会を与えて頂いた山田清文先生及び第97回年会会長 今井由美子先生,ご多忙のなかでご執筆を賜った執筆者に,深く感謝申し上げたい.

2024年10月

 
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