2025 年 160 巻 4 号 p. 230-234
食物アレルギーは,食べた物に対して免疫システムが反応し,アレルギーが誘導される疾患である.一般的に食べた物に対しては,経口免疫寛容と呼ばれる免疫制御システムが機能し,アレルギーは誘導されない.しかしながら,食物アレルギー患者は,経口免疫寛容の獲得が何らかの原因で阻害されたか,もしくは,獲得した経口免疫寛容が破たんしたと考えられる.そこで私たちは,卵の代表的な食物抗原である卵白アルブミン(ovalbumin:OVA)を用いたマウス食物アレルギーモデルと経口免疫寛容モデルを作製し,さらには,経口免疫の獲得が阻害されるモデルと獲得した免疫寛容が破たんするモデルを作製し,免疫寛容が不成立になる機序の解明を行った.経口免疫寛容の獲得を阻害するモデルでは,経口免疫寛容の誘導操作時に,食品添加物であるサッカリンを大量に摂取させた.経口免疫寛容は,消化管から吸収されたOVAが免疫寛容性の樹状細胞に捕捉されることで起こり,大量のサッカリンの摂取は,免疫寛容性の樹状細胞に先立って炎症性の樹状細胞を腸間膜リンパ節へ遊走させた.近年,皮膚を介した食物抗原の侵入が食物アレルギーの発症要因であることが報告された.また,加水分解小麦末を含有する石鹸を使用し小麦アレルギーを発症する事例が報告された.その事例を参考として,OVAをしみ込ませたろ紙を損傷させた皮膚に貼付する方法やOVAを皮内注射する方法で,獲得していた経口免疫寛容を破たんさせるモデルを作製した.そしてOVAを皮内注射するモデルを用いて,獲得した免疫寛容が破たんする機序を解析したところ,経口免疫寛容状態では,皮膚においても免疫寛容性の樹状細胞が皮膚所属リンパ節へ遊走するが,反復したOVAの皮内注射は,炎症性の樹状細胞を先行して遊走させた.今回の結果から,経口免疫寛容の獲得と維持は免疫寛容性の樹状細胞の遊走でおこり,消化管での大量の化学物質の摂取,もしくは,皮膚への反復曝露によって,免疫寛容性樹状細胞の遊走が妨げられると,食べ物がアレルギーの対象として認識されるようになり,食物アレルギーを発症すると考えられた.