日本薬理学雑誌
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特集 アレルギー研究の最新知見:基礎と臨床
重篤アレルギー患者の原因となるSTAT6機能獲得バリアントの同定,発症機序の解析と分子標的薬開発の可能性
柳 久美子要 匡
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2025 年 160 巻 4 号 p. 244-249

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抄録

これまでアトピー性疾患を含むアレルギー疾患は,多因子による疾患と考えられてきたが,近年,その成因に単一遺伝子が深く関与している疾患群が含まれていることが分かってきた.著者らはアトピー性皮膚炎や高IgE血症,好酸球性胃腸炎,食物アレルギーを合併する重篤なアレルギー患者で,全エクソーム解析により,原因となるSTAT6遺伝子のde novoの病的ミスセンスバリアント(NM_003153:c.1255G>A,p.Asp419Asn)を特定した.STAT6はIL-4刺激により誘導される転写因子として知られ,刺激を受けるとJAK-STATシグナル伝達経路によりリン酸化二量体を形成して核内へ移行,TH2型免疫応答に特異的な遺伝子の転写を活性化する.In vitro実験では,変異型STAT6(p.Asp419Asn)はIL-4刺激によりリン酸化された後,速やかに核内に移行し,野生型STAT6よりも長く転写活性を示すこと,上位刺激がなく,非リン酸化の状態でも核内に移行して転写活性を有することが示された.加えて,当該バリアントをノックインしたマウスではTH2優位の異常な免疫応答,血清高IgE値,線維芽細胞の増殖および好酸球浸潤を伴った皮膚炎を発症するなど患者症状に類似する所見が観察されることが明らかにされた.これらの結果は変異型STAT6が機能獲得型バリアントであることを示唆する.STAT6遺伝子の病的バリアントによって引き起こされる免疫異常状態発症機序の一端が分かってきたことで,非特異的な抗炎症性薬であるステロイド剤に加えてJAK-STAKシグナル伝達経路を阻害する抗IL-4Rαモノクローナル抗体やJAK阻害薬が本疾患に有効であることが示されつつある.今後,さらに詳細な機序解明に取り組むことで,より本質的な,STAT6特異的に活性を制御する創薬に結びつくことを期待する.

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