日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
ダニコパン(ボイデヤ®錠50 mg)の薬理学的特性及び臨床試験成績
林 英生
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2025 年 160 巻 4 号 p. 279-290

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抄録

ダニコパン(製品名:ボイデヤ®錠)は,発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を効能又は効果として,2024年1月に国内での製造販売承認を取得した,新規の経口低分子補体D因子阻害薬である.PNHは造血幹細胞の後天的変異によって補体制御因子を欠くPNH型血球が増殖することを病因とする希少な慢性溶血性疾患である.PNHの治療で標準的に使用されている補体成分C5阻害薬(C5阻害薬)は,終末補体経路の活性化を阻害することにより血管内溶血(IVH)を抑制する.一方,C5阻害薬が投与されているPNH患者の一部では,血管外溶血(EVH)が顕在化し貧血などの症状が持続することが問題となっていた.EVHの原因としてPNH型赤血球の膜上に近位補体の補体成分C3フラグメントが蓄積することがあげられ,これを抑制するために,より近位の補体経路である第二経路の活性化に関与する補体D因子を標的とするダニコパンが開発された.ダニコパンは補体D因子に可逆的に結合し,そのセリンプロテアーゼ活性を阻害することにより,補体第二経路の活性化を選択的に阻害することがin vitro試験及びex vivo試験において示された.さらに,国際共同第Ⅲ相試験(ALPHA試験:ALXN2040-PNH-301試験[NCT04469465])において,C5阻害薬による治療下でEVHが認められるPNH患者を対象としてダニコパンを追加投与した結果,ヘモグロビン(Hb)濃度の有意かつ臨床的に意義のある上昇が認められた.本試験において安全性に関する新たな懸念は認められなかった.これまでC5阻害薬治療中に生じるEVHに対しての治療は輸血などの対症療法に限られていたが,経口薬であるダニコパンの登場によって,C5阻害薬によるIVHの制御を継続したうえでEVHをコントロールすることが可能となった.

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