日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
遺伝性血管性浮腫の長期発作抑制治療薬ガラダシマブ(アナエブリ®皮下注200 mgペン)の薬理学的特徴および臨床試験成績
伊藤 祐実福島 卓秋山 哲志
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2025 年 160 巻 5 号 p. 360-370

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要約

遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema:HAE)は,皮下組織や粘膜組織の再発性の浮腫を特徴とする,致死的リスクを伴う希少疾患である.本稿では,HAEの急性発作の発症抑制を目的とした新規作用機序を持つガラダシマブ(ヒト抗活性化第XII因子[FXIIa]モノクローナル抗体)の薬理学的特徴と臨床試験成績を概説する.HAEでは,血管透過性亢進を引き起こす炎症性メディエーターであるブラジキニンの過剰産生により浮腫を生じるが,ブラジキニン産生の開始点となるのが第XII因子の活性化である.ガラダシマブはFXIIaを阻害することで,ブラジキニン産生を抑制する.HAE発作には致死的な喉頭浮腫が含まれるが,その発現は予測不能であり,疾患重症度はHAE患者間で大きく異なるため,発作を取り除くまたは発作頻度と重症度を軽減する治療に対するアンメット・メディカル・ニーズが存在する.また,長期予防では患者の治療負担軽減のため,より簡便で投与間隔の長い治療薬が望まれている.健康被験者に対する安全性と薬物動態を検討した第Ⅰ相試験,HAE患者を対象に複数の用量の有効性と安全性を検討した第Ⅱ相試験の結果を受け,第Ⅲ相試験ではHAE患者64名(ITT集団:ガラダシマブ群39名,プラセボ群25名)に対するガラダシマブ200 mg月1回皮下投与の有効性と安全性がプラセボ群と比較検証された.主要評価項目である月間HAE発作回数は,ガラダシマブ群がプラセボ群よりも有意に低く(0.27 vs. 2.01,P‍<‍0.001,検証的解析結果),相対減少率は87%であった.ガラダシマブ200 mgの月1回皮下投与は良好な安全性プロファイルを示した.さらに,6ヵ月間の治療期に無発作であった患者割合は,ガラダシマブ群62%,プラセボ群0%であり,初回投与後に認められた治療効果は試験期間を通して維持された.また,ガラダシマブは月1回のオートインジェクターによる皮下投与であることから,患者の治療負担軽減も期待できる.

Abstract

Hereditary angioedema (HAE) is a rare life-threatening disease with recurrent edema. We outline the pharmacological characteristics and study results of a new drug, garadacimab (human anti-activated factor XII [FXIIa] monoclonal antibody), which has novel mechanism of action and suppresses acute HAE attacks. In HAE, excessive bradykinin production, an inflammatory mediator increasing vascular permeability, causes edema, and activation of factor XII initiates bradykinin production. Garadacimab suppresses bradykinin production by inhibiting FXIIa. HAE attacks include fatal laryngeal edema, and overall severity varies substantially among patients. There is an unmet medical need for treatment to reduce its frequency and severity. For prophylactic treatment, a convenient drug with long-administration interval is desired to reduce patients’ burden. Based on results of Phase I study in healthy subjects and Phase II study of multiple doses in patients, efficacy and safety of monthly administration of 200 mg garadacimab were compared in 64 patients (ITT: 39 in garadacimab and 25 in placebo) in Phase III study. The primary endpoint, monthly attack frequency was significantly lower in garadacimab than placebo (0.27 vs. 2.01; P < 0.001), with relative reduction rate 87%. Monthly subcutaneous administration of 200 mg garadacimab showed favorable safety profile. The proportion of patients who remained attack-free during the 6-month was 62% in garadacimab and 0% in placebo, and effect after the first dose was maintained throughout the study period. Since this drug is administered subcutaneously once a month with autoinjector, reduction of patients’ burden is also expected.

1.  はじめに

遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema:HAE)は,反復する全身の皮下組織の腫脹および上気道や消化管の粘膜下浮腫と予測不能な症状発現を特徴とする,致死的リスクを伴う常染色体顕性の遺伝性疾患である14.原因となる遺伝子異常により2つの病型に大別され,一つはC1-INH遺伝子(SERPING1)の変異により補体第1成分阻害因子(C1-INH)の機能が低下したHAE-C1-INH,もう一つはC1-INHが正常であるがC1-INH遺伝子以外の遺伝子異常を持つHAE with normal C1-INH(HAEnCI)である.HAE-C1-INHはさらに,C1-INHタンパク質量が低下して,その結果機能も低下したⅠ型,C1-INHタンパク質量自体は正常であるが機能のみが低下したⅡ型に分類される.HAEは希少疾患であり,HAE-C1-INHの有病率は5万人に1人,HAEnCIはさらに稀で10万人に1人とされる5.HAE-C1-INHの85%はⅠ型,15%がⅡ型であり,Ⅰ型が大半を占める6.HAEは遺伝性疾患であるが,片親または両親から遺伝するのは患者全体の約75%であり,約25%はde novo変異による孤発例である4

なお,血管性浮腫(angioedema:AE)の分類体系であるDANCE分類(the definition, acronyms, nomenclature, and classification of angioedema)では,マスト細胞起因性血管性浮腫(Mast cell–mediated AE),ブラジキニン起因性血管性浮腫(BK-mediated AE),血管内皮細胞介在性血管性浮腫(AE-VE),薬剤起因性血管性浮腫(AE-DI),原因不明の血管性浮腫(AE-UNK)に分類される.ブラジキニン起因性血管性浮腫はさらに,C1-INHの機能低下によるHAEと後天性血管性浮腫(acquired angioedema:AAE),カリクレイン・キニン系変異によるAE(HAE-FXII,HAE-plasminogen[HAE-PLG],HAE-kininogen[HAE-KNG])に分類される7.また,血管内皮細胞介在性血管性浮腫には,HAEnCIとしてHAE-angiopoietin 1(HAE-ANGPT),HAE-myoferlin(HAE-MYOF),HAE-heparan sulfate 3-O-sulfotransferase 6(HAE-HSST)が分類される.なお,原因が特定されていないHAE-unknown(HAE-UNK)とされる場合もある.

ブラジキニン起因性血管性浮腫の病型において,浮腫を引き起こす主なメディエーターは,9アミノ酸残基からなるポリペプチドであるブラジキニンと考えられている8,9.ブラジキニンは,カリクレイン・キニン系で活性化される強力な炎症性メディエーターであり,その過剰産生により血管内皮細胞の接着が崩壊して血管透過性が亢進し,水分が血管外に漏出して浮腫が生じる.カリクレイン・キニン系は第XII因子が陰性電荷物質(ポリリン酸など)に接触することにより,活性化第XII因子(FXIIa)になることで開始される.FXIIaは高分子キニノーゲン(high molecular weight kininogen:HMWK)と複合体を形成している血漿プレカリクレイン(plasma pre-kallikrein:PK)を活性化する.活性化された血漿カリクレイン(plasma kallikrein:PKa)はHMWKからブラジキニンを遊離させるとともに,第XII因子に対してpositive feedback loopを形成し,さらに第XII因子活性化を促進する(図110.線溶系においては,FXIIaはプラスミノーゲンをプラスミンに変換する機能を有する.プラスミンは,第XII因子の活性化およびHMWKからのブラジキニン遊離の促進因子として働く11.通常,C1-INHがFXIIaとPKaを阻害することによりブラジキニンの産生を抑制しているが,HAEではC1-INHの機能が低下しているためにブラジキニンの過剰産生が引き起こされる10,12

図1 FXIIaによって開始される生理学的経路

接触活性化因子には,ポリマーで構成された人工表面などの外因性のものと,肥満細胞ヘパリン,活性化された血小板から分泌されるポリリン酸,DNA/RNA,好中球の細胞外トラップ,コラーゲンのようにプラーク破綻により露出した物質などの内因性のものがある.FXIIaは,下流の血栓形成促進および炎症促進プロセスの開始を含む複数の生理学的経路の活性化に関与する可能性がある.FXIIaはin vivoでカリクレイン・キニン系を開始し,血漿プレカリクレインの活性化を介して,その前駆体であるHMWKからブラジキニンを遊離させ,それによって血管性浮腫を誘発する.内因性凝固経路では,FXIIaはin vivoで第Ⅺ因子を活性化してプロテアーゼであるトロンビンの活性化をもたらすタンパク質分解カスケードを開始し,血栓形成を引き起こす.FXIIaは,in vitroでC1rの活性化を介して補体カスケードの古典的経路を活性化することが示されている.補体カスケードは生体防御に関与する.線溶系経路では,FXIIaはin vitroでプラスミノーゲンをプラスミンに変換する能力を有し,フィブリン分解を引き起こす.C1-INHはFXIIaの主要なインヒビターであり,カリクレイン・キニン系,補体系,線溶系の複数のプロテアーゼを阻害する.C1r:補体成分1r,C1-INH:補体第1成分阻害因子,FXII:第XII因子,FXIIa:活性化第XII因子,HMWK:高分子キニノーゲン(文献10より翻訳転載 ©2024 The Author(s) This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.)

HAEの臨床症状は,四肢,腹部,顔面,舌など,全身のあらゆる部位に生じる再発性の予測不能な浮腫発作である.HAE発作は,多くの場合,数時間で進行し,その後2~4日間にかけて徐々に鎮静化する.発作頻度は,数ヵ月から数年に1回程度の発現にとどまる患者から,数日おきに発現する患者など様々である13.腹部発作は,腸の腫脹により生じ,腹痛や嘔吐などの消化器症状が最長3日間継続する14,15.喉頭浮腫は,致死的な窒息を引き起こす可能性があり,診断未確定のHAE患者の喉頭浮腫による死亡率は約30%と報告されている1.HAE患者の約50%が一生涯の間に1回以上の喉頭浮腫を経験していることから,早期の治療介入が重要である16.日本でも喉頭浮腫による死亡例が報告されている17,18.HAE発作は,外科治療などの外的要因のほか疲労やストレスなどの心理的要因も発作のトリガーとなり得るが,トリガーが明らかでない場合もある19

HAEの治療は国内外のガイドラインにおいて,発作時に行う急性期治療,外科的侵襲を伴う処置前の発作発症抑制である短期予防,発作の長期的な発症抑制のために定期投与を行う長期予防に分類される2,5.現在日本では,急性期の治療薬はC1-INH製剤である乾燥濃縮人C1インアクチベーター製剤(ベリナート® P静注用)や,選択的ブラジキニンB2受容体ブロッカーのイカチバントが,短期的な発作抑制治療薬は乾燥濃縮人C1インアクチベーター製剤(ベリナート® P静注用)が承認されている.長期的な発作抑制治療薬は,血漿カリクレイン阻害薬のベロトラルスタットが2021年に承認され,次いで血漿カリクレイン阻害薬のラナデルマブと乾燥濃縮人C1インアクチベーター製剤(ベリナート®皮下注用)が2022年に承認されている.

長期発作抑制治療薬が登場してHAE治療は進歩しているにもかかわらず,一部の患者では依然として喉頭浮腫を含むブレイクスルー発作が認められ,発作コントロールは未だ不十分である20,21.さらに,発作発現への不安や恐怖から患者のQOLに影響する可能性がある.また,治療を継続する上での負担の主な要因として,服薬アドヒアランスや注射の不快感,自己投与の困難さ,などが挙げられる.HAE患者を治療する医師を対象にした調査では,長期予防を行っている多くの患者がより簡便な投与の治療に関心があり,新しい治療法を求めているとの報告もある22.さらに,投与回数の少ない治療の方が高いアドヒアランスを得られることが,複数の疾患領域で報告されている2225.したがって,長期発作抑制治療薬では有効性がより高く,治療負担がより少なく,投与間隔がより長い治療薬が望まれる26

このような状況を踏まえ,既存治療薬とは作用機序の異なるHAEの長期発作抑制治療薬として,ヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体であるガラダシマブ(遺伝子組換え)(販売名,アナエブリ®皮下注200 mgペン)が開発され,2025年2月に承認された.本稿では,ガラダシマブの薬理学的特徴,健康成人またはHAE患者における薬物動態,有効性および安全性を評価した臨床試験の概要を紹介する.

2.  薬理学的特徴

 1)作用機序27

第XII因子はブラジキニンを産生するカリクレイン・キニン系の開始点に位置し,本カスケード活性化のトリガーである.既存治療薬は,いずれもFXIIaよりも下流の因子をターゲットとしているのに対し,新たに開発されたガラダシマブ(遺伝子組換えヒトIgG4/λモノクローナル抗体)は,FXIIaを標的としており,新規の作用機序を有している(図210.ガラダシマブはFXIIaの触媒ドメインに結合して活性を阻害し,カリクレイン・キニン系と線溶系の活性化を抑制することにより,HAE発作における炎症やブラジキニンの産生を抑制する10,12

図2 HAEの病態生理と治療ターゲット

第XII因子は,陰性電荷物質 (ポリリン酸など)に接触することにより活性化され,FXIIaになる.FXIIaは次に,細胞表面に結合し,HMWKと複合体を形成して血液中を循環しているPKをタンパク質分解的に活性化し,PKをPKaにする.PKaは限定的なタンパク質分解によってHMWKからブラジキニンを遊離させ,さらに第XII因子を活性化する.ブラジキニンは,B2受容体に結合すると内皮シグナル伝達を誘導し,血管透過性を亢進する.C1-INHは,FXIIaとPKaの主要なインヒビターである.C1-INHの欠乏や機能不全により,ブラジキニンが過剰産生され,結果として血管性浮腫を引き起こす.現在日本で承認されているHAE発作治療薬を赤で示す.FXII:第XII因子,FXIIa:活性化第XII因子,HMWK:高分子キニノーゲン,PK:血漿プレカリクレイン,PKa:活性型血漿カリクレイン(文献10より改変転載 ©2024 The Author(s) This work is licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License.)

In vitro薬理試験において62.5 nMのヒトFXIIa存在下におけるガラダシマブのFXIIa活性阻害に対する50%阻害濃度(inhibitory concentration 50:IC50)は15 nMであり,133 nM以上の濃度で第XII因子活性化後のヒト血漿中のブラジキニン産生を阻害し,その阻害活性はC1-INH製剤や血漿カリクレイン阻害薬であるEcallantide(本邦未承認)よりも高かった28,29.In vivoマウス浮腫モデルでは,ガラダシマブは肥満細胞由来ヘパリンによるブラジキニンを介する浮腫の形成を抑制した27,29

なお,ガラダシマブは,チャイニーズハムスター卵巣細胞で発現し,ジスルフィド結合で架橋された重鎖2本と軽鎖2本からなるIgG4モノクローナル抗体に典型的な構造を有する.また,IgG4サブクラスの特性として,他のサブクラスと比較して補体活性化能(C1qとの結合)が低いとされている30

 2)薬物動態

日本人健康成人(12名)にガラダシマブ200 mgを単回皮下投与したときの薬物動態パラメータを表1に示す31.最高血漿中濃度到達時間(tmax)中央値は169時間(約7日),終末相半減期(t1/2)平均値は424時間(約18日)であった32.最高血漿中濃度(Cmax)と血漿中濃度-時間曲線下面積(area under the curve:AUC)は用量依存的に増加したが,その増加は用量比より小さかった.静脈内投与(3 mg/kgまたは10 mg/kg)時のtmaxは投与開始1時間後(投与終了時)であり,その後血漿中濃度は継続的に低下した.t1/2の平均値は静脈内3 mg/kgまたは10 mg/kg投与でそれぞれ417時間(約17日),449時間(約19日),CmaxとAUCは用量比例的に増加した.皮下投与と静脈内投与のいずれでもガラダシマブ投与により血漿中第XII因子濃度の一過的な増加が認められた.

表1日本人健康成人(12名)におけるガラダシマブ200 mg単回皮下投与時のガラダシマブの薬物動態パラメータ

tmax
(h)
Cmax
(μg/mL)
AUC0-last
(μg·h/mL)
AUC0-inf
(μg·h/mL)
CL/F
(L/h)
VZ/F
(L)
t1/2
(h)
169
(8.0,171)
21.2
(17.0)
11,300
(5,510)
11,900
(5,840)
0.022
(0.014)
12.5
(5.84)
424
(72.2)

tmaxは中央値(最小値,最大値)を,その他各パラメータは平均値(標準偏差)を示す.

AUC0-last:0時間から最終定量可能時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積,AUC0-inf:0時間から無限時間まで外挿した血漿中濃度-時間曲線下面積,CL/F:見かけの全身クリアランス,Cmax:最高血漿中濃度,tmax:最高血漿中濃度到達時間,Vz/F:消失相における見かけの分布容積(文献31より転載)

国際共同第Ⅲ相ピボタル試験(VANGUARD試験21:後‍述)では,HAE-C1-INH患者(うち日本人患者4名)にガラダシマブの初回用量400 mg,以降200 mg月1回を皮‍下投与したときの血漿中濃度が測定された.投与2回目‍以降182日目までの血漿中濃度平均値は約8,000~10,000 ng/mLと概ね一定であった.母集団薬物動態解析では,ガラダシマブの初回用量400 mg,以降200 mgを月1回皮下投与されたHAE患者の定常状態における1投与間隔のAUC(AUCtau,ss),定常状態におけるCmax(Cmax,ss)および定常状態におけるCmin(Cmin,ss)の平均値(標準偏差)は,それぞれ9,920(4,470)μg∙h/mL,20.5(9.66)μg/mL,8.94(4.64)μg/mLと推定された27.ガラダシマブの曝露は,初回用量400 mgの皮下投与後に定常状態(Cmax,ss)に達した.HAE患者におけるガラダシマブ皮下投与後の最高血漿中濃度到達時間は約6日であった.

3.  臨床試験結果

 1)第Ⅰ相試験(海外第Ⅰ相試験33,日本人を含む第Ⅰ相試験32

海外第Ⅰ相試験はオーストラリアで実施され,健康成人48名にガラダシマブを単回静脈内投与または皮下投与して投与後85日間(半減期の約4倍)の安全性を評価するプラセボ対照無作為化試験である.主要評価項目は①有害事象の発現割合,②重症度別および因果関係別の有害事象の発現割合,副次評価項目は①薬物動態(Cmax,0時間から投与後t時間までのAUC[AUC0-t],②0時間から無限時間まで外挿したAUC[AUC0-inf],③tmax,t1/2,④全身クリアランス[CL]または見かけのCL[CL/F],⑤消失相における分布容積[Vz]または見かけVz[Vz/F]),⑥皮下投与後のバイオアベイラビリティ,⑦試験終了時に抗薬物抗体を有する被験者の割合とした.

被験者は,ガラダシマブ静脈内投与群20名(0.1,0.3,1,3,10 mg/kgコホートに各4名),ガラダシマブ皮下投与群12名(1,3,10 mg/kgコホートに各4名),プラセボ静脈内投与群10名(上記5コホートに各2名),プラセボ皮下投与群6名(上記3コホートに各2名)に無作為化された.48名全員が試験を完了した.

治療関連有害事象(treatment-emerging adverse events:TEAE)は,全体の48名中43名(89.6%)に発現し,プラセボ群(静脈内投与と皮下投与の合計)(13/16名[81.3%],50件)よりもガラダシマブ群(静脈内投与と皮下投与の合計)(30/32名[93.8%],106件)で多く発現した.認められたTEAEのほとんどは軽度であり,その発現割合はガラダシマブ群が94.3%(100/106件),プラセボ群では90.0%(45/50件)であった.ガラダシマブまたはプラセボとの因果関係ありと評価されたTEAEは,ガラダシマブ群が29.2%(31/106件),プラセボ群が28.0%(14/50件)と,両群で同程度であった.プラセボ群の3件を除き,すべてのTEAEは回復した.TEAEの発現割合や重症度に用量依存的な傾向は認められず,死亡,重篤な有害事象,中止に至った有害事象は認められなかった.注入部位反応または注射部位反応が認められた被験者の割合は,ガラダシマブ群が56.3%(18/32名,21件)とプラセボ群の31.3%(5/16名,9件)よりも高く,これは主に皮下投与コホートで認められた.静脈内投与コホートでの注入部位反応が認められた被験者の割合は,ガラダシマブ群とプラセボ群で同程度(ともに30.0%)であった.ガラダシマブ群の皮下投与コホートでは全員に注射部位反応が認められたのに対し,プラセボ群では33.3%であった.注入部位反応または注射部位反応はすべて軽度であり,いずれも回復した.血栓塞栓症,出血,アナフィラキシーは認められず,血液学的検査,生化学検査,尿検査,凝固検査,補体活性の結果や心電図とバイタルサイン評価の結果に臨床的に意義のある傾向は認められなかった.ベースラインを含め本試験中のいずれの時点でも,抗薬物抗体陽性の被験者はいなかった.

ガラダシマブ単回静脈内投与時の血漿中濃度は,0.1 mg/kgコホートでは約4時間,その他のコホートでは投与終了時(投与開始約1時間),にCmaxに達し,t1/2の平均値は約14~20日であった.ガラダシマブ単回皮下投与時の血漿中濃度は,1 mg/kgコホートで約7日(168時間),3 mg/kgコホートで約5日(120時間),10 mg/kgコホートでは約7日(168時間)でCmaxに達し,t1/2の平均値は約18~20日であった.静脈内投与と皮下投与のいずれでもCmaxとAUCは用量依存的に増加した.各被験者に投与された実際の投与量を用いたパワーモデル解析から,静脈内投与群ではCmax,AUC0-infおよびAUC0-tの傾きの推定値の90%信頼区間(CI)は事前に規定した判定基準内であり,用量比例性が示唆された.皮下投与群ではAUCの90%CIからは用量比例性が示唆されたが,Cmaxの90%CI下限値が判定基準をわずかに下回っており用量比例性は認められなかった.用量補正後のAUC0-infのバイオアベイラビリティは49.7%と推定された.

日本人を含む第Ⅰ相試験は日本人,および体重が日本人と適合した白人の健康成人を対象とした非盲検単回漸増用量試験である32.被験者は,ガラダシマブ単回皮下200 mg投与群12名(日本人),200 mg投与群13名(白人),600 mg投与群4名(日本人)と,ガラダシマブ静脈内3 mg/kg投与群4名(日本人),10 mg/kg投与群4名(日本人)に割り付けられた.皮下投与時,tmax平均値はいずれの群でも投与後約6~7日(145~169時間)であり,t1/2平均値は約17~19日(415~457時間)であった.皮下投与時,CmaxとAUCの幾何平均比は日本人と白人でほぼ100%であり,薬物動態プロファイルは日本人と白人で同様であると示唆された.静脈内投与時,血漿中濃度は投与終了時にCmaxに達し,t1/2平均値は約17~18日(417~449時間)であった.日本人と白人の間に安全性の違いは認められず,またいずれの投与群でも抗薬物抗体陽性の被験者は確認されなかった.

 2)第Ⅱ相試験34,35

海外第Ⅱ相試験は,海外多施設共同無作為化プラセボ対照並行群間比較試験である34,35.HAE-C1-INH患者またはHAE-FXII/PLG(C1-INHは正常で第XII因子またはプラスミノーゲン遺伝子に変異を有するHAE)患者を対象に,HAEの急性発作の発症抑制として,複数の用量のガラダシマブを4週に1回皮下投与したときの有効性,薬物動態と安全性を検討した.

HAE-C1-INH患者はスクリーニング後,4~8週間の観察期を経て治療期1(約13週間)に移行し,プラセボまたはガラダシマブ75 mg,200 mg,600 mgを4週に1回盲検下で皮下投与する群に無作為化し,ガラダシマブ400 mgを2週に1回非盲検下で皮下投与する群にそれぞれ割り付けた.盲検下のガラダシマブ75 mg,200 mg,600 mgの各投与群では,治療期1で初回用量(それぞれ40 mg,100 mg,300 mg)を静脈内投与し,その後4週に1回皮下投与した.治療期1を完了した患者は治療期2(44週間以上)へ移行し,全員に非盲検下でガラダシマブを投与した.治療期2では,ガラダシマブ200 mgまたは600 mgを4週に1回投与する群に無作為化して投与継続した.なお,ガラダシマブ600 mgを投与されているすべてのHAE-C1-INH患者の用量は,治験実施計画書改訂(第2版)により,ガラダシマブ200 mgを4週に1回皮下投与に減量した.

主要評価項目は,治療期1のHAE-C1-INH患者においてプラセボ投与時と比較したガラダシマブ投与時の月間HAE発作回数とした.副次評価項目は,①治療期1のHAE-C1-INH患者において観察期と比較した月間HAE発作回数が50%以上減少した患者(レスポンダー)の人数および割合,②無発作の患者数および割合,③軽度,中等度または重度のHAE発作回数および月間HAE発作回数,割合,④要時治療を要した軽度,中等度または重度のHAE発作回数および月間HAE発作回数,割合,⑤規定された時点での血漿中ガラダシマブ濃度,⑥特定の安全性イベントが発現した患者数および割合とした.

観察期を完了したHAE-C1-INH患者38名は,治療期1に移行し,ガラダシマブ75 mg群9名(盲検),200 mg群8名(盲検),600 mg群7名(盲検),400 mg群6名(非盲検),およびプラセボ群8名(盲検)であった.HAE-FXII/PLG患者6名は,600 mg群(非盲検)であった.

ガラダシマブ200 mg群と600 mg群における治療期1の月間平均HAE発作回数の中央値はそれぞれ0回,0.3回であり,プラセボ群の4.6回と比較して有意に低かった(いずれもP‍<‍0.001,両側Mann–Whitney U検定).プラセボ群に対する月間平均HAE発作回数の相対減少率は,ガラダシマブ200 mg群で98.94%,ガラダシマブ600 mg群で91.68%であった.治療期1で無発作の患者は,プラセボ群では0名であったが,ガラダシマブ200 mg群では8名中7名(87.5%),600 mg群では7名中3名(42.9%),75 mg群では9名中5名(55.6%),400 mg群では6名中4名(66.7%)であった.要時治療を要したHAE発作は,プラセボ群では全員に発現したのに対し,ガラダシマブ75 mg群では9名中3名(33.3%),200 mg群では8名中1名(12.5%),600 mg群では7名中2名(28.6%)に認められた.有効性に関して,治療期2の結果は治療期1と一貫しており,治療効果は治療期1,2を通して維持された.

治療期1にTEAEが発現した患者の割合は,ガラダシマブ群が83%(20/24名),プラセボ群が75%(6/8名)と両群で類似していた.すべてのTEAEは軽度または中等度であり,ほとんどのTEAEはガラダシマブまたはプラセボとの因果関係なしと判断された.ガラダシマブまたはプラセボとの因果関係があるTEAEは注射部位反応であり,発現割合はガラダシマブ群が25%(6/24名),プラセボ群が25%(2/8名)と同程度であった.血栓塞栓症,出血,アナフィラキシーはいずれの群でも認められなかった.治療期2にTEAEが発現した患者の割合は,ガラダシマブ200 mg群の83%(30/36名),600 mg群の94%(17/18名)であった.治療期2のほとんどのTEAEも軽度または中等度であり,その転帰は回復または軽快であった.ガラダシマブ600 mg群の1名に軽度の鼻出血を認めたが,ガラダシマブとの因果関係は認められず,治療は必要としなかった.血栓塞栓症,アナフィラキシーは認められなかった.

以上のように,海外第Ⅱ相試験では,HAE-C1-INH患者に対するガラダシマブ皮下投与がHAEの急性発作の発症抑制に有効であり,44週以上(最長129.4週間)の治療期2でも有効性が維持されることが示され,安全性プロファイルも良好であった.本試験の結果に基づき,ガラダシマブ200 mg月1回皮下投与が,以降の第Ⅲ相試験で検証された.

 3)第Ⅲ相試験(国際共同第Ⅲ相(VANGUARD試験)21,36,37,国際共同第Ⅲb相長期投与試験38

VANGUARD試験21は,12歳以上のHAE-C1-INH患者を対象に,HAEの急性発作の発症抑制におけるガラダシマブ200 mg月1回皮下投与による有効性と安全性を検討した,日本人を含む国際共同第Ⅲ相臨床試験である.スクリーニング後,1~2ヵ月の観察期に少なくとも2回(1回 / 月以上)のHAE発作が確認できた患者を対象に,ガラダシマブ群(200 mgを月1回皮下投与)とプラセボ群に3:2の比で無作為化された.その後,6ヵ月間の治療期を経て,2ヵ月間の追跡期(ガラダシマブの最終投与後3ヵ月間)または長期投与試験(後述)へと移行した.主要評価項目は,治療期間(1~182日目の6ヵ月間)にガラダシマブまたはプラセボを月1回投与された患者の月間HAE発作回数とした.副次評価項目は,①観察期に対する治療期の月間HAE発作回数の減少率,前半3ヵ月間と後半3ヵ月間の月間HAE発作回数の減少率,②治療期に要時治療を要した月間HAE発作回数,前半3ヵ月間と後半3ヵ月間に要時治療を要した月間HAE発作回数,③治療期における中等度または重度の月間HAE発作回数,前半3ヵ月間と後半3ヵ月間の中等度または重度の月間HAE発作回数,④治療期の前半3ヵ月間と後半3ヵ月間の月間HAE発作回数,治療期におけるガラダシマブ群の月間HAE発作回数のプラセボ群に対する相対減少率,治療期の前半3ヵ月間と後半3ヵ月間の月間HAE発作回数の相対減少率,⑤患者による治療反応性の全般的評価(Subject’s Global Assessment of Response to Treatment:SGART)で「著明な改善」「中等度の改善」「軽度の改善」「ほぼ改善なし」または「改善なし」と評価した患者の割合に基づく治療反応性,⑥安全性イベントが発現した患者数と割合とした.探索的評価項目は,HAEの初回発作までの期間などとした.なお,本試験では全体の第一種の過誤を調整するために,検証的解析として階層手順に基づく検定が実施された.

HAE-C1-INH患者64名(ITT集団:ガラダシマブ群39名,プラセボ群25名)が治療期に移行し,治療期を完了したのは61名(ガラダシマブ群39名,プラセボ群22名)であった(表237.治療期の月間HAE発作回数の中央値,平均値(95%CI)は,ガラダシマブ群が0,0.27(0.05,0.49)回 / 月,プラセボ群が1.35,2.01(1.44,2.57)回 / 月と,ガラダシマブ群で有意に低かった(P‍<‍0.001,両側Wilcoxon検定,階層検定H01).プラセボ群と比較したガラダシマブ群の治療期の月間平均HAE発作回数の相対減少率は-​86.51%であった(P‍<‍0.001,両側Wilcoxon検定,階層検定H02).治療期前半3ヵ月間無発作の患者割合は,ガラダシマブ群がプラセボ群に比べて有意に高く,早期に治療効果を示した(71.8% vs. 8.3%,P‍<‍0.001,Fisherの正確確率検定,階層検定H03).治療期終了時にSGARTで「中等度の改善」または「著明な改善」と評価した患者割合はガラダシマブ群が81.6%(31/38名),プラセボ群が33.3%(8/24名)であり,ガラダシマブ群が有意に高かった(P‍<‍0.001,χ2検定,階層検定H04).これらの階層手順に基づく検定を実施した結果,すべての帰無仮説は棄却された.また,階層手順に基づく検定を実施していない副次評価項目でも,臨床的に意義のある結果が示された(表337.観察期に対する治療期の月間HAE発作回数少率の平均値(95%CI)は,ガラダシマブ群が90.67%(83.40,97.94),プラセボ群では20.21%(2.20,38.22)であり,ガラダシマブ群で有意に高かった(P‍<‍0.001,両側Wilcoxon検定).観察期に対する治療期の月間HAE発作回数の減少率が50%以上の患者(レスポンダー)の割合は,ガラダシマブ群が94.9%,プラセボ群が33.3%であった.治療期後半3ヵ月間無発作の患者割合はガラダシマブ群で69%,プラセボ群で9%であった.ガラダシマブ群の治療期後半3ヵ月間無発作の患者割合は前半3ヵ月間と同程度,治療期間(6ヵ月間)を通じて無発作であった患者割合はガラダシマブ群61.9%,プラセボ群0%であった.Day 1を起点としたHAE発作の初回発現までの期間については,プラセボ群では75%の患者で無発作期間が5日以上であったのに対し,ガラダシマブ群では75%の患者で無発作期間が72日以上であった.初回用量400 mgの皮下投与から治療期を通じて有効性が維持されたことは,初回投与後に定常状態に達した結果と相違がなかった.(図337

表2国際共同第Ⅲ相臨床試験(VANGUARD試験)の患者背景

評価項目 ガラダシマブ
200 mg群
(n‍=‍39)
プラセボ群
(n‍=‍25)
全体
(n‍=‍64)
性別,n
 女性 24(61.5%) 14(56.0%) 38(59.4%)
 男性 15(38.5%) 11(44.0%) 26(40.6)
人種,n
 アジア人(日本人) 4(10.3%) 2(8.0%) 6(9.4%)
 黒人またはアフリカ系アメリカ人 0 1(4.0%) 1(1.6%)
 ハワイ原住民またはその他の太平洋諸島民 1(2.6%) 0 1(1.6%)
 白人 33(84.6%) 22(88.0%) 55(85.9%)
 その他 1(2.6%) 0 1(1.6%)
スクリーニング時年齢,平均値(SD)[範囲] 43.3(17.45)
[12~69]
37.8(12.8)
[14~62]
41.2(15.92)
[12~69]
スクリーニング時のBMI,kg/m2,平均値(SD) 27.9(6.02) 28.4(7.56) 28.1(6.61)
HAEの病型,n
 C1-INH HAE Ⅰ型 34(87.2%) 22(88.0%) 56(87.5%)
 C1-INH HAE Ⅱ型 5(12.8%) 3(12.0%) 8(12.5%)
スクリーニング前3ヵ月間に予防治療を受けていた患者,n 14(35.9%) 7(28.0%) 21(32.8%)
スクリーニング前または予防治療開始前3ヵ月間のHAE発作回数
平均値(SD)
8.6(6.96) 9.3(7.01) 8.9(6.93)

HAE発作の予防治療を受けていなかった患者はスクリーニング前3ヵ月間のHAE発作回数を,HAE発作の予防治療を受けていた患者は予防治療を開始する前3ヵ月間のHAE発作回数を示した.HAE:遺伝性血管性浮腫,SD:標準偏差(文献37より抜粋転載)

表3国際共同第Ⅲ相臨床試験(VANGUARD試験)における評価項目と結果

評価項目 ガラダシマブ投与群
(n‍=‍39)
プラセボ群
(n‍=‍25)
検定
主要評価項目:
 治療期間における月間平均HAE発作回数(95%CI) 0.27
(0.05,0.49)
2.01
(1.44,2.57)
P‍<‍0.001
両側Wilcoxon検定
(階層検定H01)
 治療期間における月間HAE発作回数の中央値(範囲) 0.00
(0.0~3.8)
1.35
(0.2~4.4)
副次評価項目:
 プラセボ群に対する治療期の月間HAE発作回数の相対減少率の平均値(95%CI) -​86.51
(-​95.68,-​57.84)%
P‍<‍0.001,
両側Wilcoxon検定
(階層検定H02)
 観察期に対する治療期の月間HAE発作回数の減少率の平均値(95%CI) 90.67
(83.40,97.94)%
20.21
(2.20,38.22)%
P‍<‍0.001
両側Wilcoxon検定
 治療期の前半3ヵ月間無発作であった患者の割合 71.8% 8.3% P‍<‍0.001,
Fisherの正確確率検定
(階層検定H03)
 治療期終了時にSGARTで「中等度の改善」または「著明な改善」と評価された患者の割合 81.6% 33.3% P‍<‍0.001,
χ2検定
(階層検定H04)
 観察期に対する治療期の月間HAE発作回数の減少率50%以上の患者 94.9% 33.3%
 治療期の治療を要した月間平均HAE発作回数(SD) 0.23
(0.663)
1.86
(1.412)
P‍<‍0.001
両側Wilcoxon検定
 治療期の中等度または重度の月間平均HAE発作回数(SD) 0.13
(0.296)
1.35
(1.166)
P‍<‍0.001
両側Wilcoxon検定

n‍=‍38,n‍=‍24,検証的な解析結果,名目上のP値,CI:信頼区間,HAE:遺伝性血管性浮腫,SD:標準偏差,SGART:患者による治療反応性の全般的評価(文献37より改変転載)

図3 国際共同第Ⅲ相臨床試験(VANGUARD試験)におけるHAE発作の初回発現までの期間

カプランマイヤー曲線と95%CIを示した.HAE発作が発現しなかった患者は,試験来院182日目または試験終了来院のいずれか早い方で打ち切り扱いとした.CI:信頼区間,HAE:遺伝性血管性浮腫(文献37より転載)

TEAE発現患者の割合は,ガラダシマブ群が64%(25/39名),プラセボ群が60%(15/25名)と同程度であった.5%以上に認められたTEAE(ガラダシマブ群,プラセボ群)は,上気道感染(4名[10%],2名[8%]),鼻咽頭炎(3名[8%],1名[4%]),頭痛(3名[8%],4名[16%])であった.重篤な有害事象としてHAE発作がガラダシマブ群の1名に報告され,発作後の経過観察のために一泊入院したが回復し,ガラダシマブとの因果関係は否定された.その他のTEAEは,すべて軽度または中等度であった.死亡,試験中止に至った有害事象は認められなかった.特に注目すべき有害事象として治験実施計画書に規定された異常出血,血栓塞栓性事象,アナフィラキシーを含む重度の過敏症を認めた患者はいなかった.ガラダシマブの作用機序から活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)のわずかな延長が予測されたが,ガラダシマブ群ではTEAEとしてのaPTT延長の報告はなかった.ガラダシマブまたはプラセボと因果関係のあるTEAEは,ガラダシマブ群の4名(10.3%),プラセボ群の3名(12.0%)であり,同程度であった(表436.注射部位反応はガラダシマブ群の2名(5.1%),プラセボ群の2名(8.0%)に認められ,その内訳は注射部位紅斑(ガラダシマブ群1名[2.6%],プラセボ群2名[8.0%]),注射部位内出血,注射部位そう痒感(各ガラダシマブ群1名[2.6%],プラセボ群0名)であった.プロトロンビンフラグメント1・2の増加がガラダシマブ群の1名(2.6%)に認められたが,重症度は軽度であった.

表4国際共同第Ⅲ相臨床試験(VANGUARD試験)におけるガラダシマブまたはプラセボと因果関係のある治験関連有害事象の概要

ガラダシマブ200 mg群
(n‍=‍39)
プラセボ群
(n‍=‍25)
因果関係のある治験関連有害事象,n 4(10.3%) 3(12.0%)
注射部位反応,n 2(5.1%) 2(8.0%)
 注射部位紅斑 1(2.6%) 2(8.0%)
 注射部位内出血 1(2.6%) 0
 注射部位そう痒感 1(2.6%) 0
一般・全身障害および投与部位の状態,n 2(5.1%) 3(12.0%)
 注射部位紅斑 1(2.6%) 2(8.0%)
 疲労 0 1(4.0%)
 注射部位内出血 1(2.6%) 0
 注射部位そう痒感 1(2.6%) 0
臨床検査,n 1(2.6%) 0
 プロトロンビンフラグメント1+2増加 1(2.6%) 0
神経系障害,n 1(2.6%) 0
 頭痛 1(2.6%) 0

n:TEAEを発現した患者数(文献36より改変転載)

抗薬物抗体について,ガラダシマブ群で治療期1日目(投与前)と治療期182日目に低力価の抗体が各1名(3%)で認められた.抗薬物抗体の発現による有効性への影響は認められなかった.

国際共同第Ⅲb相長期投与試験38では,HAE患者にガラダシマブ200 mgを月1回,12ヵ月以上皮下投与したときの長期安全性と有効性を評価した.対象は,海外第Ⅱ相試験に参加した患者,国際共同第Ⅲ相試験(VANGUARD試験)に参加した患者,新規に登録されたガラダシマブ投与歴のないHAE-C1-INH患者とした.新規登録患者は,観察期(1~2ヵ月間)終了後に治療期に移行,第Ⅱ相または第Ⅲ相試験の参加患者はそれぞれの試験終了後に直接治療期に移行した.治療期では,すべての患者にガラダシマブ200 mgを月1回皮下投与した.ただし,新規登録患者には,初回用量として400 mg,その後は月1回200 mgを皮下投与した.いずれの患者も12ヵ月以上投与することとした.

主要評価項目は,HAE-C1-INH患者におけるTEAE,副次評価項目は,月間HAE発作回数,観察期に対する治療期の月間HAE発作回数の減少率,要時治療を要したHAE発作回数,中等度または重度の月間HAE発作回数,SGART,安全性イベント(TEAE,因果関係のあるTEAE,試験中止に至ったTEAE,重症度別のTEAE,特に注目すべき有害事象,重篤な有害事象,死亡,抗薬物抗体,有害事象として報告された臨床検査所見等)が発現した患者数および割合とした.

治療期に移行した患者は161名で,その内訳は海外第Ⅱ相試験からの移行が35名,国際共同第Ⅲ相試験(VANGUARD試験)からの移行が57名,新規登録患者が69名であった.そのうち10名は青少年患者(12~17歳)であった.中間解析(データカットオフ日:2023年2月13日)では,解析対象161名の曝露期間中央値(範囲)は13.8(3.0~21.1)ヵ月で,119名(74%)がガラダシマブを12回以上皮下投与された.

月間HAE発作回数の中央値,平均値(95%CI)は,観察期の2.85,3.57(3.20,3.95)回 / 月に対し,治療期では0,0.16(0.10,0.22)回 / 月であり,月間HAE発作回数の減少率の平均値(95%CI)は95(97,93)%であった.発作回数の減少率が50%以上の患者(レスポンダー)は158名(98%)であり,治療期中96名(60%)は無発作であった.先行試験である海外第Ⅱ相試験または国際共同第Ⅲ相試験から移行した患者では,長期にわたるガラダシマブ投与によりHAEの急性発作の発症抑制が確認され,新規登録患者でも同様の有効性が示された(図438

図4 国際共同第Ⅲb相長期投与試験における月間平均HAE発作回数の推移

観察期と治療期における3ヵ月ごとの月間平均HAE発作回数の推移を示した.CI:信頼区間,HAE:遺伝性血管性浮腫,IQR:四分位範囲(文献38より翻訳転載 ©2024 The Author(s) This work is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 4.0 International License.)

TEAEは,HAE-C1-INH患者159名のうち133名(84%)に524件発現した.全体集団において,ガラダシマブと因果関係のあるTEAEは21名(13%)の52件であり,そのうち19名に注射部位反応が認められた.ほとんどのTEAEは,軽度または中等度であり,いずれも回復した.重度のTEAEは9名に13件認められたが,いずれも回復した.死亡および投与中止に至ったTEAEは認められなかった.重篤な有害事象は,3名に3件(COVID-19:2件,HAE発作:1件)認められたが,いずれも回復し,ガラダシマブとの因果関係は否定された.特に注目すべき有害事象(異常出血,血栓症,重度の過敏症,アナフィラキシー)の発現は認められなかった.注射部位刺激感(中等度)により1名が投与を中止し,ガラダシマブとの因果関係ありと判断された.ガラダシマブ投与後に抗薬物抗体が5名に認められたが,いずれも低力価でありガラダシマブの薬物動態,薬力学,安全性および有効性に対する影響は認められなかった.

以上より,ガラダシマブは,良好な安全性プロファイルを持ち,月1回200 mgの皮下投与によりHAE発作回数を減少させ,有効性が維持されることが示された.

4.  おわりに

ガラダシマブは,カリクレイン・キニン系活性化の開始点であるFXIIaを標的とした新たな作用機序を持つ,HAEの長期発作抑制治療薬である.本稿で述べた臨床試験結果から,ガラダシマブ200 mgの月1回皮下投与は,良好な忍容性と安全性プロファイルを示し,HAE発作回数を統計的に有意に減少させ,その発作抑制は維持されることが示された.また,ガラダシマブはオートインジェクターによる月1回の皮下投与であるため,患者の治療負担も軽減されると考えられる.このように,ガラダシマブはHAEの急性発作の発症抑制において,HAE患者のアンメット・メディカル・ニーズを充たす治療薬として期待される.

利益相反

伊藤 祐実,福島 卓,秋山 哲志(CSLベーリング株式会社).

謝辞

本総説の作成はCSLベーリング株式会社の資金提供のもと,Springer Health+の鈴木裕(Ph.D.),小山こころ(Ph.D., CMPP)が支援した.

文献
 
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