恐怖反応や防御行動は生存に不可欠な機能である.恐怖反応は,周囲の環境の中から脅威となる刺激を検出し,それらを“不快な,嫌悪すべき刺激”として分類する神経回路によって媒介される.これらの回路は,脅威の切迫度や逃避経路の有無などの文脈的要因に応じて,すくみ反応や逃避行動など,多様な恐怖反応の中から適応的な行動を制御する.外側/腹外側中脳水道周囲灰白質(l/vlPAG)の興奮性神経細胞の活性化は,亜領域や投射経路,刺激強度に応じて多様な恐怖反応を引き起こすことが示されている.特に,l/vlPAG神経細胞の一部は延髄大細胞核(Mc)へ投射しており,この経路が恐怖反応にどのように関与するかが検討された.In vivoカルシウムイメージング法によりMcに投射するl/vlPAG神経細胞が嫌悪刺激に対して活性化することが示された.また,光遺伝学的手法によってMcに投射するl/vlPAG神経細胞を弱・強刺激で活性化したところ,強刺激では逃避行動が誘発され,弱刺激ではすくみ反応が誘発された.さらに,即時的および条件づけ場所嫌悪性試験では,強刺激が場所嫌悪性を誘発することも明らかとなった.これらの結果は,Mcに投射するl/vlPAG神経細胞の強刺激が能動的な防御行動と不快情動を誘発する一方で,弱刺激は受動的な防御行動を誘発することを示唆している.生物は,変動する脅威のレベルや周囲の環境に応じて,l/vlPAGからの出力経路の活性化を調節することで,多様な防御反応を迅速に切り替えていると考えられる.PAGは多様な入力の統合と細胞集団の選択的動員により防御行動を制御するハブとして機能しており,その破綻は恐怖や不安に関連する精神疾患の症状に関与すると考えられる.PAGおよびその入出力経路の理解は,こうした疾患の治療標的を検討するうえで重要である.