ヒトをはじめとする多くの哺乳類動物の生体機能は約24時間周期の概日リズムを示し,地球の自転に伴う環境の周期的な変化に効率良く対応している.時計遺伝子は,転写翻訳のフィードバックループ機構を形成することで,個々の細胞レベルにおいて概日リズムを発振し,我々の健康保持にも深く関わっている.そのため,時計遺伝子の機能不全や概日リズムの慢性的な変調は,様々な疾患の発症リスクの増大や病態の悪化を引き起こすことが指摘されており,慢性疼痛のひとつである「神経障害性疼痛」や「がん疼痛」の発症や病態制御にも関与することが明らかになってきている.例えば,時計遺伝子「Period2」の機能不全は,睡眠・覚醒のサイクルやホルモン分泌の概日リズムに変調を引き起こすが,Period2の機能不全マウスでは,末梢神経が損傷を受けても神経障害性疼痛の発症が認められない.これはPeriod2の機能不全が,脊髄後角におけるα1Dアドレナリン受容体の発現を亢進させ,エンドカンナビノイドの産生が増大したことによるものだが,生体内にはこれまで未知だった疼痛抑制経路が存在することを示唆している.また,核内受容体の一種である「Rev-erbs」は,時計遺伝子として概日リズムの制御にも関与し,脊髄におけるLipocalin 2の発現を周期的に抑制する.Lipocalin 2はがん疼痛の発症に関わるため,REV-ERBsによる周期的な発現抑制によって疼痛閾値に概日リズムが生じる.そのため,REV-ERBsに対する人工リガンドは,Lipocalin 2の発現を抑制することで,がん疼痛を緩和できることが示唆されている.このように,疼痛疾患における時計遺伝子の機能解析は病態の理解だけでなく,従来までとは異なる視点からの治療標的の同定や新たな鎮痛薬の開発に繋がることが期待される.