2026 年 161 巻 5 号 p. 298-302
哺乳動物の進化過程において,大脳は著しく肥大化し,その表面には明瞭な脳回脳溝が形成されるなど,構造の高度な複雑化が生じた.この過程では,ニューロンおよびグリア細胞の数が大幅に増加するとともに,それらの形態的・機能的特性も発達したことが知られている.例えば,ヒトアストロサイト(グリア細胞の一種)を移植したマウスでは,記憶・学習能力の向上が認められており(Han X, et al. Cell Stem Cell. 2013;12:342-353),進化に伴うアストロサイト機能の亢進が示唆されている.さらに,ヒトではマウスと比較してアストロサイトの支配領域が拡大し,その形態的多様性も増していることが報告されている(Allen DE, et al. Science. 2022;376:1441-1446).これらの知見から,アストロサイトの数的増加,形態の発達,および機能的高度化が,進化における高次脳機能の獲得に重要な役割を果たしてきたと考えられる(Degl’Innocenti E, et al. Front Neuroanat. 2023;17:1130729).しかしながら,ヒトに代表される高度に発達した脳構築において,アストロサイトが果たす役割については未だ十分に解明されていない.私たちは,発達した脳構築を有するフェレットをモデル動物として用い,進化過程におけるアストロサイトの変化を制御する分子機構とその機能的意義の解明を進めている.本稿では,アストロサイト数の制御機構および脳回形成におけるその役割に焦点を当て,これまでに得られた研究成果を概説する.