日本薬理学雑誌
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特集 領域横断的アプローチで解き明かす低酸素応答システム―低酸素創薬への展望―
生理活性脂質・環状ホスファチジン酸の低酸素に対する効果と医療応用への展望について
後藤 真里, 橋本 恵
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2026 年 161 巻 6 号 p. 438-443

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抄録

環状ホスファチジン酸(cyclic phosphatidic acid:cPA)は,グリセロール骨格のsn-2,3位に環状リン酸基構造を持つ生理活性脂質である.cPAはin vitroにおいて海馬神経細胞に対し神経栄養因子様作用を持つことから,我々はcPAの特性を活かした神経保護に寄与する治療薬の開発を進めてきた.合成した複数のcPA構造安定化誘導体の中から2-carba-cPA(2ccPA)を有望な候補物質として選定し,様々な動物モデルを用いて脳における2ccPAの機能を検討してきた.脳血管疾患は,脳の血管に異常が生じることで脳への酸素供給が低下し,神経機能に重篤な障害をもたらす疾患である.我々は2ccPAの神経保護作用が一過性脳虚血による遅発性神経死にも効果があると考え,ラットモデルを用いて遅発性神経死に対する2ccPAの効果を検討した.2ccPAは遅発性神経細胞死とグリア細胞の活性化を有意に抑制した.さらに,in vitroにおいて2ccPAが低酸素誘導性神経細胞死を抑制する分子メカニズムを解明した.また,様々な動物モデルを用いた研究において,2ccPAは多発性硬化症における脱髄やグリア細胞の活性化,外傷性脳損傷および神経精神疾患性全身性エリテマトーデスにおける神経炎症の抑制効果を示した.これらの結果は,2ccPAが脳内で種々の疾患に対し神経保護作用をもつことを示している.次に2ccPAの薬物動態について検討した.2ccPAは,腹腔投与された後20分以内に脳に到達すること,分解されると2-carba-lysophosphatidic acid(2cLPA)を生成することがわった.したがって,生体内では2ccPAと2cLPAの両方が2ccPAの生理活性に寄与している可能性が考えられる.現在,2cLPAの機能の解明に取り組んでいる.本稿では2ccPAの一過性脳虚血に対する作用と,現在我々が進めている2ccPAの前頭側頭型認知症に対する神経保護作用についての知見について紹介し2ccPAの医療分野への応用について展望する.

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