うつ病は世界的に疾病負荷の大きい疾患であり,既存治療への反応性の低さや寛解後の再発が課題である.中枢や末梢における炎症が病態機序として着目されており,その制御機構として炎症を促進あるいは収束させる脂質メディエーターの関与が示唆されている.慢性社会挫折ストレスモデルを用いた解析からは,ミクログリアの活性化が脳領域ごとに異なる経路を介してうつ関連行動を制御することが明らかになりつつある.また同モデルでは個体ごとにストレス感受性が大きく異なり,こうした個体差を生み出す機序の解明には,定量的かつ多次元的な行動解析に基づく個体の層別が重要である.また,これらの脳内炎症は末梢免疫系の変容とも密接に連関し,免疫細胞の炎症応答は脂質メディエーターのみならず,解糖系やTCAサイクルといった細胞内の中央代謝系によっても精緻に制御されることが明らかになってきた.この免疫代謝の視点は,全身および脳内の代謝状態がグリア細胞・神経細胞の機能を左右する基盤として重要であることを示唆する.さらに,慢性ストレスや加齢に伴う脳のエネルギー代謝恒常性の破綻は,認知機能の低下に結びつくことが示唆されており,こうした代謝変容を,どの細胞種で・いつ生じるのかという観点から細胞種特異的・空間特異的に捉えることが今後の課題となる.本稿では,慢性ストレス・うつ病態と加齢性認知機能低下を貫く視点として,脳・末梢にわたる炎症性機序と代謝恒常性の破綻に着目し,これまでの知見と今後の展望を概説する.