抄録
四塩化炭素(CCl4)をラットに12週間連続皮下投与して誘発した慢性肝障害に対して,予防的に投与したトリトクアリン(TRQ)は100および200 mg/kgの用量で肝障害の悪化を抑制した.CCl4慢性処置によりコントロール群ラットには著しい体重減少が見られ,肝機能を表わす血液パラメーターの変化が生じた.即ち,肝実質細胞損傷の指標である血清トランスアミナーゼ値や,胆管系障害の指標である血清アルカリホスファターゼ値の増加の他に,タンパク合成能の指標である血清アルブミン量の減少,プロトロンビン時間の短縮や,脂質代謝系の異常を表わす血清脂質の変化等である.TRQを予防的に投与することにより,酵素の血中への漏出抑制やタンパク合成能の改善,脂質代謝系の改善の生じているのが観察された.また肝臓においてはCCl4処置コソトロール群には12週目で肝臓硬化が生じ,無処置群に比較して肝臓コラーゲン量は約5倍に増加していた.一方TRQ投与群ではコラーゲンの増加は有意に抑制された.更に,CCl4処置により認められた肝臓内タンパク量の減少もTRQ投与により改善された.これらの結果を総合的に判断して,TRQは慢性的に悪化する肝障害を予防的に抑制し,肝機能の改善に極めて有効な化合物であることが示唆された.