抄録
我々は,発話内容から相手の感情を理解したり,エージェント自身に生起させた感情を表情画像として表出したりする研究を行っている.しかし,処理に必要な手法を場当たり的に継ぎ足していけば,そのモデルは現実の心とは遠く離れた存在になっていく.そこで本研究では,哲学の世界で論じられている心のモデルに基づいて我々の手法を再構築する.哲学の世界では,心という特別な存在は無いという一元論と,身体とは別に心が存在しているという二元論の二つのアプローチがあるが,本研究では,二元論の相互作用説を採用する.このモデルは物理的ネットワーク,情緒ネットワーク,気分ネットワークの三層に分かれており,物理的ネットワークでは演繹的推論を,情緒ネットワークでは依存関係に基づく感情の連鎖的生起を,気分ネットワークでは気分状態の遷移を処理する.さらに,気分状態と物理的状態を因果関係で結び,気分に基づく表情や行動の変化を実現する.