抄録
脳の視覚系では階層処理が行われていることが明らかになっているが,その中での情報の流れは一方向ではなく双方向的であることが種々の研究で明らかになっている.そのようなアーキテクチャ―により,階層の初期段階は高次の段階の情報の影響を受ける.これは視覚情報処理の初期段階のものとして考えられている輪郭知覚と,より高次の段階の処理と考えられている図地分離についても当てはまり,具体的現象として,輪郭統合のされやすさ(輪郭のsaliency)が図地知覚より影響を受けることなどが見出されている(Kikuchi & Oguni,2005).
本研究では,知覚される輪郭の位置が,輪郭が帰属すべき図の側にシフトされるという現象を心理物理実験により見出した.この現象も図地知覚の輪郭知覚への影響の一種と考えられる.本研究の視点より,幾つかの錯視現象を説明することができる.一般に物体は本来のサイズより小さく,穴は本来より大きく知覚されることが示唆される.