マルチ集合とBCK代数

抄録

要素の重複を許す集合であるマルチ集合は, 通常の集合と同様に和集合演算, 積集合演算を持ち, 包含関係は半順序をなす. しかし, 全てのマルチ集合からなる族は包含関係に関する最大元を持たないため, その構造は古典集合論やファジィ集合論のように有界束としてとらえることができない. 　本稿では, マルチ集合の族と集合演算のなす代数構造を精査する. マルチ集合族と同様に最大元を持たない半順序集合に基づく代数であるBCK代数に着目し, BCK代数に有界性を仮定せずに下限演算と上限演算を設定して束構造を構築する方法を導入する. 次に, 0を含む自然数とその上で閉じた差演算がBCK代数をなすことに加えて, 上記の下限・上限演算を設定して, BCK代数の枠組みから線形な束をなすことを示す. 　本研究の結論として, マルチ集合の差集合, 積集合, 和集合の各集合演算が, 上記の差演算, 下限演算, 上限演算によってそれぞれ定義できることを示し, マルチ集合族が「条件(S)を満足する可換なBCK代数」であることを証明する.