2017 年 29 巻 2 号 p. 108-114
24歳1か月の女性。上顎前歯の前突と顎関節の違和感を主訴に来院した。初診時の正貌所見では下顎が左側に偏位しており,口腔内所見では上顎前歯部の突出を呈し,左側臼歯部に機能性交叉咬合を認めた。両側顎関節の圧痛および右側にclickを認めた。問診より歯列接触癖を認めた。MRIによる画像所見では,左側に非復位性円板前方外側転位,右側に復位性円板前方外側転位を認め,右側下顎頭ではerosionを認めたことより,機能性下顎左方偏位および上顎前突を伴う顎関節円板障害(Ⅲ型)および変形性顎関節症(Ⅳ型)の重複症例と診断された。顎関節症の初期マネージメントとして可逆的治療を中心とした初期治療を行った。症状の安定を確認後,機能性下顎左方偏位および上顎前突を改善するために両側上下顎小臼歯の抜歯を伴う歯科矯正治療を開始した。歯の移動によりAngleⅡ級の臼歯関係,重度な上顎前突および機能性下顎左方偏位が改善された結果,良好なアンテリアガイダンスを伴う咬合関係および側貌が得られた。顎関節の開口量は増加し,咀嚼時痛および圧痛は消失した。右側のclickは残存した。MRI所見では左側下顎頭にmarginal proliferationを認めた。治療後および動的治療終了後1年時の顎関節症状は安定していた。現在は保定治療および顎関節の経過観察を定期的に行っている。