日本顎関節学会雑誌
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片側性唇顎裂患者の矯正治療中にみられた顎関節症の一治験例
吉田 謙一松本 尚之高橋 啓吉田 忠雄川本 達雄木下 善之介
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1989 年 1 巻 1 号 p. 129-138

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抄録

前歯部反対咬合を主訴として来院した初診時年齢15歳の片側性唇顎裂を有する女性患者に対し, 全帯環装置を用いた矯正治療により, 前歯部被蓋改善を行ったところ, clickingに続いて開口障害が生じた。
診査の結果, 関節円板の復位を伴わない前方転位, すなわち, closed lock状態であると診断した。
矯正治療を中断し, まず徒手整復法によりclosed lockの解除を行い, 続いて前方整位型スプリントを装着した。装着後3ヵ月で顎関節部の疼痛が緩和し, また開口障害も改善された。この時点で, 右側犬歯部に咬頭干渉がみられたためポータータイプの拡大装置を用いて上顎歯列の側方拡大を行ったところ, 犬歯間幅径が増大し咬頭干渉もなくなった。その後3ヵ月間親察を続けたが, 経過は良好であったため, 矯正装置を除去し保定装置を装着した。
反対咬合を有する患者の矯正治療を始めるにあたり, 顎関節部の形態および機能についての精査が必要であることが示唆された。

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