抄録
ヒアルロン酸ナトリウム製剤の顎関節領域への適応に関しては少数の報告がみられるのみで, 詳細な検討は充分になされていない。顎関節に限局する疼痛を有する顎関節症症例に対するヒアルロン酸ナトリウム (商品名アルッ®) 関節腔内注入療法の効果, 副作用や合併症の有無を含めて, 有用性を検索するために, 顎関節に限局する疼痛する顎関節症18症例に対し, 上関節内ヘヒアルロン酸ナトリウム0.5mlの注入を1週毎に4週連続で行い, 次のような結論が得られた。
1. 開口域はHA注入直後に著明に改善され, 注入後1週間では再度減少する傾向がみられたが, 1か月後には回復し以後徐々に増大する傾向がみられた。
2. 顎関節疼痛は1か月後における有効と著効を合わせた有効率が自発痛83%, 閉口時痛100%, 圧痛70%, 開口時痛41%であった。
3. 術前に関節雑音がみられた症例の約半数で雑音の軽減または消朱がみられた。
4. HA注入時の不快事項は違和感, 腫脹感, 重圧感, 不快感の他自発痛, 開口時痛, 開口障害の発現または増悪などのいずれかが56%の症例にみられ, 特に注入前に自発痛を有している患者では100%にみられた。
5. 以上より顎関節症のうち顎関節に限局する落痛を有する症例では, 上関節腔へのヒアルロン酸ナトリウムの注入療法は比較的安全で有効な治療法であり, 必要に応じて原因療法と併せて用いることにより, より高い有用性が得られると考えられる。