1993 年 5 巻 1 号 p. 37-47
筋あるいは関節での手指を用いた圧痛診査は臨床において一般的に行われているが, 顎関節症における本診査の術者間の信頼性は低い。また加圧疼痛計を利用した加圧疼痛閾値の研究は高い信頼性と再現性があることを示しているが, 性差については一致した結論は得られていない。そこで, 成人自覚的無症状者 (男性23名, 女性23名) に対し, 容易に一定の加圧率 (500g/cm2/sec.) で加圧し得る加圧疼痛計を試作使用し, 咀嚼系における加圧疼痛閾値を, 性差, 部位差を中心に検討した。その結果, 男性の加圧疼痛閾値は全ての計測部位で女性の値より有意差を持って高かった。男女共に側頭筋部は咬筋下部よりも明らかに高い閾値を示し, 下顎枝後縁の値は他の部位よりも小さな値であり, 咬筋中央部は咬筋下部より大きな値であった。自覚的無症状者の加圧疼痛閾値は比較的ばらつきが大きく, 各部位での25-75%の範囲は男性で0.75-1.21kg, 女性で0.8-1.31kgであった。以上の結果から, 加圧疼痛閾値は部位別, 性別に検討する必要があり, 自覚的無症状者の加圧疼痛閾値は個人差が大きいことから, 平均値をもって自覚的無症状者の値とすることは危険と考えられ, 疼痛閾値の検討には個人の疼痛感受性を評価する必要性が示された。また, 本加圧疼痛計は加圧疼痛閾値測定に有用であると考えられた。