抄録
野田玉川鉱床は高度の熱変成を受け,主にマンガン酸化鉱物及びマンガン珪酸塩鉱物から成る変成鉱石を産する。層状鉱体の中央部から母岩のチャートに向い,パイロクロアイト—ハウスマン鉱帯,テフロ石帯,バラ輝石帯が発達している。
テフロ石,バラ輝石および石英の酸素同位体組成(δ18OSMOW)はそれぞれ9.9-16.4,11.3-19.6及び16.8-23.8‰で,後者ほど18Oが濃集することは,3者の同位体平衡から予想される分配に一致する。しかし石英—バラ輝石及びバラ輝石—テフロ石組み合わせから求まる酸素同位体温度は母岩中の変成鉱物組み合わせとは矛盾する。このことは,変成作用に酸素を含む流体の関与がほとんどなかったことを示唆する。テフロ石及びバラ輝石と初生鉱物間の酸素同位体に関する質量保存則から,初生菱マンガン鉱の酸素同位体比は18.4-20.8‰と推定される。この菱マンガン鉱の沈澱温度は75-127°Cと求まり,海底熱水作用起源であるとの考えを支持する。