抄録
I 大森礦山産硫化亜鉛礦は,六方柱状の微晶を成し,屡々柱に直角なる反覆双晶を成せども,六方柱面に平行なる劈開を有し,これに沿ひて黄銅礦の微粒を包裹す。この最後の特質は六方晶系によく一致し,等軸晶系の單晶は勿論,その(III)による反覆双晶によりて生ずる六方柱の性質とも一致せず。然れども,その光學的性質は,これを非等方性のものと信ぜしむるに充分ならず。これらの點にて本礦は少くとも一部分は先づ准安種たるウルツァイトとして晶出し,その後一層安定種なる閃亜鉛礦に變ぜるものと認めらる。
2 本礦は通常黄鐵礦及び石英と共生し,第三紀火山岩に伴ひて生ぜりと信ぜらるゝ礦脈中,酸化或は二次的變化の跡なき部分に産出し,その初成的産物と認めらる。
3 本礦に伴なふ石英は概ね粒状乃至小柱状にて羽光状消光を成せども,玉髓又は蛋白石の如き准膠状の低温特有礦物を伴はず,その成生温度は300°C~100°Cと信ぜられ,この推定はウルツァイトの成生に關する實驗上の資料とも一致す。
4 本礦物中にはその六方柱面に平行なる格子状を成して,黄銅礦の極めて微粒を包裹し,その成因を固溶體の分裂によつて説明すべきか,成生の途中に於ける一種の共生と認むべきか,なほ今後の研究を要す。