岩石鉱物鉱床学会誌
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足尾鉱山の地質構造と鉱床との関係について
草薙 忠明
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1957 年 41 巻 6 号 p. 263-312

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抄録

以上説明してきた点を要約すると次の通りである。
1) 足尾鉱床を胚胎している秩父古生層は,有越,連慶峙の両地帯共に背斜が基本の構造となり,有越地帯の背斜軸面に存在する七百八十尺上盤〓と連慶峙地帯の横臥背斜軸面に位置する連慶峙主脈とは褶曲作用に伴つて生じた同一系統の断層と思われる。
2) 有越,連慶峙両地帯内の断層裂罅の基本の形態は足尾流紋岩類噴出前の褶曲運動に伴つて形成されていたものと解され,噴出後の圧縮作用により,既存の断層裂罅は再運動を起し,脈幅広く,鉱化著しい七百八十尺〓や大正十二年〓は張力裂罅の性質を帯びたものであろう。
3) 有越地帯に発達する河鹿の鉱化径路は、下部から上部まで一貫して主要鉱液の上昇通路となつているのはA脈,三百尺〓,七百八十尺上盤〓とそれらの落合線であり,その間に現出する小褶曲や裂罅の発達消失と閣係して,河鹿が発達消失する。そして優勢な河鹿の生成箇所は有力な鉱液の供給源に落す連続性のある断層裂罅の落合線や褶曲軸で,破砕空隙化の強かつた地帯である。連慶峙地帯は連慶峙主脈の上盤側の階段断層や微細褶曲の甚しく発達した所に鉱染状鉱体を形成している。
4) 両地帯の鉱石鉱物脈石鉱物の種類,性質,共生関係や鉱化の径路が下部でA脈と連慶峙主脈の落含部の同一点から出発している状態から考え,同一供給源の鉱液により同時に生成したものと解せられる。
5) 河鹿の鉱化の強弱を知る等品位曲線と地質構造とを照合すると,裂罅およびそれに近接した微細褶曲帯が高品位を示し,母岩の破砕空隙化は鉱液の有力な流通路となり,富鉱体を形成する大きな要素である。
6) 足尾流紋岩類中の鉱脈系統は45度脈群,90度脈群および68度脈群の三系統に分類可能で,その平均走向傾斜はN44°E, NW82°, N92°E, S78°およびN68°E, SE82°である。この内前二者は剪断脈の性質を有し,45°脈は右手横辷り脈,90度脈は左手横辷り脈であり,68度脈は張力裂罅の性質を有する。
7) 45度脈群および90度脈群の両方の剪断脈は,その落合いの状態から同時に生成した可能性があり,各辷りの方向から最大剪断歪力面に生じた対をなす勢断脈と推定される。68度脈群のものは最大法線歪力面に生じた張力裂罅の可能性が考えられる。従つてこれらの裂罅がcompressionによつて形成されたと考えられ,その方向はN68°E-S 68°Wとなる。
8) 足尾流紋岩類中の富鉱部の位置は母岩の構造や裂罅系に強く支配されている。すなわち,(a)砕屑岩中では細脈〓鉱となり,熔岩,熔結凝灰岩中でけ脈輻広く富鉱となり,裂罅形絨に対し,岩質の可塑性の大小が関係しているようである。(b) 45度脈と90度脈との落合の鈍角部には富鉱部が形成されることが多い。おそらく,両脈の辷りに関係して生成する第二次の張力裂罅の発達に関係すると共に,両脈の辷り方向から鈍角接合部の方が離隔開口されるように地塊の動いた事に原因するのであろう。(c) 主張力裂罅が群をなして発達する地帯は母岩の角礫化が著しく,富鉱部が形成される。(d) 45度脈で走向の偏東部および偏西部,90度脈では偏北部および偏南部に富鉱部が形成されることが多い。
9) 鉱化作用は有力な裂罅と裂罅との落合線等を中心に行われ,上部においては,それ等が小群をなして各所に発達し,それぞれ鉱化帯を形成している。そして鉱石鉱物の帯状分布はこの小群ごとに見られるようであるが,下降するに従つて,鉱化作用は互に波及し合う傾向があり,帯状分布は判然としなくなる。
10) 古生層中の鉱旅と流紋岩類中の鉱床とは,その鉱石鉱物や脈石の種類性質あるいは共生関係が酷似している。鉱液の主要な上昇通路となつているのは裂罅と裂罅との落合線で,小群をなす銘化帯の鉱化径路を下部に向つて追跡すると,上部では多数に分岐していた裂罅が下降するに従つて,比較的少数の幹脈となり,推定される火道に集約する傾向が認められる。故に両方の鉱床とも足尾流紋岩類噴出後,同一供給源の鉱液が,火道附近に上昇し,これより裂罅内に分散上昇沈澱して形成されたものと推定される。横間歩〓およびそれ以北のものは,あるいは古生層岩の下部に横たわるであろう岩漿溜あるいは火成岩体から,古生層を貫ぬいて,流紋岩類内に達したものかも知れない。
11) 鉱化の初期に珪酸分が溶解され,又絹雲母が生成している点等より,初期〓鉱液がかなりアルカリ性であつたと推定されるが,初期に蝋石化作用が行われているような地表近くでは,おそらく天水の影響により,硫化水素が酸化され硫酸化し,又噴出口近くでは天水の影響による外に,硫化水素や硫酸鉄に富む鉱化剤の反応の結果硫酸々性となる条件の存在した事が考えられる。

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