2016 年 58 巻 9 号 p. 1413-1419
症例は67歳男性.2009年上部消化管内視鏡で主乳頭の口側に約5mmの隆起性病変を認めたが,生検結果は腺腫であり経過観察していた.2013年の上部消化管内視鏡で約20mmまで増大したため,内視鏡的粘膜切除術を施行した.切除検体は病理学的に中央に副膵管を認め,副膵管周囲の腺腫内に高分化管状腺癌を認めた.最終診断は胆道癌取扱い規約に準じT1N0M0でstageⅠの十二指腸副乳頭部癌であった.十二指腸副乳頭部癌を内視鏡的に治療した報告はなく,貴重な症例であると考え報告した.
十二指腸副乳頭は十二指腸主乳頭の約2cm口側に位置するが,直視鏡による上部消化管内視鏡検査では接線方向になり観察が困難なことが多い部位である.十二指腸副乳頭部から発生する腺癌は極めて稀な疾患であり,発見が容易ではないことから,発見時にはすでに進行していることが多い.今回われわれは,増大傾向を示し,内視鏡的に切除できた十二指腸副乳頭部癌を経験したので文献的考察を加え報告する.
患者:67歳男性.
主訴:なし.
既往歴:2005年胃癌(幽門側胃切除,Billroth-Ⅰ法再建後).
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2009年に施行した上部消化管内視鏡で主乳頭の口側に約5mmの隆起性病変を認めたが,生検結果は腺腫であり経過観察となっていた.2013年の上部消化管内視鏡で表面に発赤を伴う約20mmの隆起性病変を認め,増大傾向であったため,精査加療目的に入院した.
入院時現症では,身長162cm,体重68kg,体温35.8℃,血圧138/81mmHg,脈拍72/分 整.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄染なし.胸部聴診で心雑音,肺雑音なし.腹部は平坦で軟,臍上部正中に手術痕を認めた.下腿浮腫なし.
血液学的検査では,血算生化学検査では異常所見はみられなかった.腫瘍マーカーはCEA:1.6ng/ml,CA19-9:15.7U/ml,DUPAN-2:25U/ml,Span-1:9.7U/mlで基準範囲内であった.
上部消化管内視鏡(後方斜視鏡)では,Billroth-Ⅰ法再建胃であり,吻合部と主乳頭の間に約20mmの隆起性病変を認めた.病変は基部が広く,表面は軽度の発赤を伴い,側方に一部白色顆粒状の部分もみられた.中央に副膵管の開口部と思われる浅い陥凹がみられたため,副膵管への挿管を試みるも不可能であり,副膵管口は同定できなかった(Figure 1).生検では,Tubular adenoma,low gradeであった.

上部消化管内視鏡(後方斜視鏡).
十二指腸副乳頭部に大きさ20mmのポリープを認める.
腹部造影CT検査では,十二指腸に直径約15mmの内腔に突出する隆起性病変を認め,淡い造影効果を認めた.総胆管,主膵管の拡張は認められず,十二指腸周囲のリンパ節の腫大もみられなかった.
MRCPでは,総胆管,主膵管の拡張は認められなかった.また,副膵管は描出されなかった(Figure 2).

MRCP.
総胆管,主膵管の拡張は認められず,副膵管も認められない.
存在部位から十二指腸副乳頭部腺腫を考えたが,副膵管を同定できなかったため,増大傾向である十二指腸腺腫も考慮して,後方斜視鏡を用い内視鏡的十二指腸粘膜切除術を施行した.0.4%ヒアルロン酸ナトリウム10mlを粘膜下層に局注した後,病変が持ち上がったことを確認して,電気手術装置ICC200(エルベ社)のエンドカットモードを用いて60Wに設定し,スネアで一括切除した.出血は認められず,クリップ1個で縫縮した(Figure 3).

内視鏡治療時.
後方斜視鏡を用い,十二指腸腺腫に対し,内視鏡的粘膜切除術を施行.0.4%ヒアルロン酸ナトリウム10ml局注にて腫瘍全体が膨隆し,スネアにて一括切除した.出血や穿孔は認められなかった.
内視鏡的粘膜切除術により切除された検体の大きさは28×20×3mmで,十二指腸粘膜になだらかな隆起を示した腫瘍組織が認められた.
組織学的に,弱拡大で,粘膜表層は腺管密度が高く,核異型を示す腺管の増殖で,核の偽重層が目立ち,分裂像を認める高度異型腺腫の像であった.腺腫の表層では,増殖腺管の核異型が高度で,分裂像も多く,異常分岐や癒合など構造異型を認め,高分化管状腺癌の像で,最終的に粘膜内に限局した腺腫内癌と診断した(Figure 4-a,b,5).粘膜表層に拡がる腫瘍組織をつらぬいて,十二指腸粘膜に小さく開口し,中央で拡張を示した管状構造が認められ,内腔面に高円柱状の上皮細胞が配列して,粘液細胞に富み,免疫染色でCK7のみが陽性であり副膵管と考えた(Figure 4) 1).

病理組織(ルーペ像とシェーマ).
a:HE染色,b:シェーマ.
十二指腸粘膜内に腫瘍組織を認め,中央に副膵管が存在する.粘膜表面に高度異型腺腫を,その腺腫表層には高分化管状型腺癌を認めた.癌部は粘膜内に限局していた.
c:CK7免疫染色.
副膵管と一部の腺腫・癌部(a矢印部周辺)で陽性であった.
d:CK20免疫染色.
十二指腸粘膜と一部の腫瘍辺縁の細胞(a矢頭部周辺)で陽性であった.
腫瘍組織を強拡大でみると,開口部を挟んで増殖する癌細胞は前後で異なる形態を示していた.前方(Figure 4-a 矢頭部)の表層は乳頭状構造を呈し,分岐する管状腺管の増殖で,核は伸長し重積を示す腫瘍細胞からなる腺癌で,腫瘍細胞の多くはCK7,20ともに陰性であった.腫瘍辺縁の細胞はCK20のみが陽性で,intestinal type adenocarcinomaであった(Figure 4-c,d,5-b) 2).後方(Figure 4-a 矢印部)は管状腺管が密に増殖し,Ki67標識率も高く,類円形の核,クロマチンは粗造で,重積に乏しい円柱状の腺癌細胞で,CK 7が陽性でありpancreatobiliary type adenocarcinomaの組織像であった(Figure 4-c,d,5-c) 2).以上の所見から,intestinal type/pancreatobiliary typeが混在する高分化管状腺癌と診断した.

病理組織(HE染色,40×).
a:高度異型腺腫.
核の偽重層が目立ち,分裂像を認める.
b:intestinal type adenocarcinoma(Figure 4-a矢頭部).
分岐する管状腺管の増殖で,核は伸長し重積を示している.
c:pancreatobiliary type adenocarcinoma(Figure 4-a矢印部).
管状腺管が密に増殖し,類円形の核を有しクロマチンは粗大で,重積に乏しい円柱状の腺癌である.
癌部は粘膜層に限局しており,リンパ管・静脈浸潤は認められず,最終診断は胆道癌取扱い規約乳頭部癌の病期分類に準じT1N0M0でstageⅠの十二指腸副乳頭部癌と診断した.腺腫は一部水平断端陽性であったが,腺癌の遺残はなく外来で20カ月経過観察しているが,再発は認められていない.
膵臓は背側膵源基と腹側膵源基が癒合して形成される.その背側膵の導管であるSantorini管が十二指腸に開口している部位が十二指腸副乳頭である.副乳頭は十二指腸下行部前壁に位置し,通常,主乳頭の約2cm口側に位置するとされている 3),4).平均5.4mmと主乳頭より一般に副乳頭は小さく 5),その形態も様々であり 6),直視鏡での観察が困難であることが多い.主乳頭が確認されれば,その口側を慎重に観察することで発見できることもある.その際,注意深い内視鏡操作が必要である 7).本症例は胃癌術後でBillroth-Ⅰ法再建胃であったため,直視鏡でも副乳頭の観察は比較的容易であり,腺腫の経過観察は直視鏡を用い行っていた.
十二指腸副乳頭部腫瘍には腺腫,癌,カルチノイドなどの報告がみられるが,癌は稀であり,Pub Medで「“minor papilla” “adenocarcinoma”」「“minor duodenal papilla” “adenocarcinoma”」,医学中央雑誌で「十二指腸副乳頭部癌」をキーワードとして検索期間を設定せず検索したところ13例の報告を認めるのみであった(Table 1) 8)~20).これらの報告では,男性9症例,女性4症例,年齢は中央値で70歳(50~81歳),平均腫瘍径は18.3mm(8~50mm)で,症状を伴わない症例が多かった.組織型は高分化型腺癌が7例,中分化型腺癌が7例,乳頭腺癌が2例であった.主乳頭にも癌を認めた症例は2例であり,膵浸潤を認めた症例は4例であった.治療は全例開腹手術が行われており,ほとんどの症例で膵頭十二指腸切除が選択され,内視鏡治療症例はなかった.これは主乳頭部癌に対する標準治療が幽門輪温存膵頭十二指腸切除術とされているため 21),副乳頭部癌に対しても手術が選択されたと考えられる.予後は平均観察期間18.9カ月で再発症例はみられなかった.

十二指腸副乳頭部癌の報告例.
主乳頭の腫瘍に対しての内視鏡治療である内視鏡的乳頭切除術の適応は伊藤らによれば腺腫または腺腫内癌で,胆膵管内進展を伴わないものとされている 22).これらの術前情報を得るためにはEUSや管腔内超音波検査(IDUS)が必要であると報告されており,伊藤らによるとIDUSの方が進展範囲の診断に有用であると報告されている 23).一方,副乳頭の腫瘍に対する確立された術前検査や内視鏡治療はない.本症例では副膵管を同定できなかったため,増大傾向である十二指腸腺腫を考慮し完全生検と治療目的に内視鏡的粘膜切除術を施行したが,病理組織より副乳頭部癌の診断となった.副乳頭の腫瘍も主乳頭の腫瘍と同様に術前に進展範囲を診断する必要があり,本症例のように,副膵管が同定されない場合でも副乳頭部腫瘍の可能性を考慮し,術前にEUSなどの検査が必要であると考えられた.
主乳頭部癌の内視鏡所見に関しては,乳頭腫大,開口部,開口部の発赤,凹凸不整,びらん,潰瘍形成,結節状あるいは顆粒状変化,易出血性などが所見として報告されている 24).また,副乳頭部癌の内視鏡所見に関しては報告が少なく,内視鏡的特徴としてまとめられたものはないが,過去の症例報告の内視鏡所見は主乳頭部癌の内視鏡所見と似ているところが多い.本症例では発赤と顆粒状変化を認め,副乳頭部癌として矛盾しない所見と考えられた.内視鏡的乳頭切除術では,粘膜下層に局注を行うと乳頭周囲粘膜のみが持ち上がり,手技が困難となり,深い切除が得られないことから局注を用いない方がよいとされている 22).副乳頭も主乳頭と同様に局注を用いずポリペクトミーを選択すべきであったかもしれない.しかし,本症例では腫瘍は細長く,20mmと大きく,十二指腸粘膜と接している部分が広かったことから,局注を用い粘膜切除術を選択した.0.4%ヒアルロン酸ナトリウムの局注で腫瘍全体が膨隆したため,スネアは容易にかけられ切除することができた.本症例で,局注により副乳頭が膨隆したように観察されたのは,周囲の十二指腸粘膜の膨隆が良好であったため,あたかも副乳頭も膨隆したように見えた可能性も考えられた.
病理組織学的に腫瘍は副乳頭部に存在し,中央に副膵管が埋没していた.免疫組織化学的に検討すると,pancreatobiliary type adenocarcinomaとintestinal type adenocarcinomaの混合型の腫瘍と考えられ,副乳頭部原発ではあるものの,副膵管との連続性は明らかでなく,原発が副膵管か十二指腸かは明らかではなかった.また,癌の背景に高度異型腺腫を認めたことより,腺腫を背景とした癌化の可能性が示唆された.生検時にはこの腺腫成分を生検したことで,腺腫の診断になったと考えられた.
副乳頭部癌は発見時に進行していることが多いことから,発生部位が同定できず十二指腸癌と診断されている症例も少なくないと思われる.したがって,十二指腸癌では副乳頭部癌も鑑別に入れて病理学的検討を行う必要があると考えられた.
十二指腸副乳頭部腫瘍に対する内視鏡的治療は,開腹手術に比較し侵襲が少ないことから有用であると考えられる.しかし,その適応や手技が確立されていないため,施行医によってまちまちになってしまうことが危惧される.出血や穿孔などの偶発症が発症した場合には,膵頭十二指腸切除などの侵襲の大きい手術を行わなければならなくなる可能性もある.したがって,症例の蓄積を行い,早急な治療法の確立が求められる.
十二指腸副乳頭部癌に対して,内視鏡的切除術が有用であった症例を経験したので報告した.今後,症例を蓄積し内視鏡的治療の適応や手技を確立していく必要があると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし