腸管リンパ腫ではB細胞リンパ腫,特にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL),濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)が多く,部位や内視鏡所見に基づいてある程度組織型が推察可能である.DLBCLは回盲部に多く,潰瘍型・隆起型を呈し,化学療法中に穿孔リスクを伴うため手術治療の先行も考慮される.FLは主に十二指腸下行脚に白色顆粒状隆起を形成し,緩徐な経過を辿るため無治療経過観察となることが多い.Mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫は直腸に好発し,治療は内視鏡切除を含め多岐にわたる.また特殊型として小腸に発生するimmunoproliferative small intestinal disease(IPSID)が挙げられる.マントル細胞リンパ腫はmultiple lymphomatous polyposis(MLP)型が多く,FL・MALTリンパ腫とともに低悪性度B細胞リンパ腫に分類されるが予後不良であり診療上鑑別が重要である.腸管T細胞リンパ腫は最新のWHO第5版で一部名称が変更となった.また後天性免疫不全の症例では,原因薬剤の減量・中止により自然消退が期待できるEBV-positive mucocutaneous ulcerの可能性にも留意する必要がある.
EUS-BDが,内視鏡的逆行性胆管膵管造影によるドレナージ不成功例に対する代替療法として行われるようになって久しい.EUS-BDの多くは遠位胆管閉塞が対象とされているが,肝門部胆管閉塞に対しても,近年報告がなされてきている.一方,様々な手技の工夫やデバイスの開発がなされたものの,右葉へのアプローチを要するため,肝門部胆管閉塞に対するEUS-BDは,難易度が決して低くない.本総説では,本手技に関する代表的な論文をReviewしながら,肝門部胆管閉塞に対するEUS-BDについて概説する.
Helicobacter pylori(H. pylori)感染を共通の発生要因とするmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫及び胃癌がH. pylori未感染胃に衝突して共存する非常に稀な症例を経験した.症例は71歳,男性.検診で胃癌と診断され紹介となった.EGDで胃粘膜萎縮を認めず,体上部大彎に褪色調領域と,連続する小発赤調領域を認めた.生検で前者からMALTリンパ腫,後者から中分化管状腺癌の病理所見を得たため,MALTリンパ腫と胃癌の衝突腫瘍と診断し,リンパ節郭清を伴う胃分節切除術を施行した.MALTリンパ腫と早期胃癌がH. pylori未感染胃に共存かつ衝突腫瘍を形成した例はわれわれの検索した限り,非常に稀であり臨床病理学的考察を加え,報告する.
症例は87歳女性.定期的胃瘻交換の手技途中にガイドワイヤーを抜去してしまい,一時的に瘻孔の交通を失った.抜去デバイスを用いて体表側から新しいバンパー・ボタン型カテーテル(カンガルーⅡ)を挿入しようとするも,経皮的に挿入不能であった.内視鏡を用いて胃側の瘻孔より局注針を挿入し,先端を体外に出し,局注針先端とガイドワイヤーをビニールテープで固定後に胃内にガイドワイヤーを引き込むことで胃瘻の交通を確保し,交換可能となった.胃瘻交換の際に体表側から挿入困難となった場合,内視鏡を用いて胃側からアプローチすることで再留置可能な場合がある.
症例は64歳の男性,全大腸炎型潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の経過中にステロイド抵抗性を示し,タクロリムスやインフリキシマブで治療されるも中毒性巨大結腸症の合併に至り,結腸亜全摘術ならびに回腸人工肛門造設術が実施された.術後5カ月で食思不振を認め,EGDで胃前庭部のびらん,十二指腸球部から水平部に広範な深掘れ潰瘍が確認された.UC関連の胃十二指腸病変と診断し,粉砕化メサラジンの投与により十二指腸潰瘍は瘢痕化したが高度な狭窄が形成された.食事摂取に伴い嘔吐を呈したため内視鏡的バルーン拡張術を施行し,狭窄の改善と通過障害の解消が得られた.われわれが検索した限り,UC関連の上部消化管病変に起因する十二指腸狭窄に対し,内視鏡的バルーン拡張術が有用を示した報告はなく,文献的考察をふまえて報告する.
症例は2年前に発症した気管支喘息を既往にもつ50歳女性.腹痛と下痢を主訴に受診し,その後,下肢の紫斑と疼痛を伴う感覚低下,四肢の脱力が出現した.末梢血で著明な好酸球の上昇を認め,好酸球性胃腸炎を疑いCSを施行した.終末回腸から大腸全域に周辺粘膜の発赤を伴う不整びらん,浅い潰瘍が多発する所見を認めた.炎症所見の目立たないS状結腸に腺腫を認めEMRを行ったところ,病理学的に粘膜下層に多数の好酸球浸潤と肉芽腫性血管炎の所見を認めた.臨床所見から厚生労働省診断基準で好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)と診断したが,本例では併存した大腸腺腫のEMR検体の粘膜下層の評価でEGPAの主要組織所見が得られた.
初学者が内視鏡の基本操作技術を習得するためには,系統的な指導法が必要である.内視鏡の操作は「前後操作」「アングル操作」「回転操作」の3つに分類される.中でも「アングル操作」と「回転操作」では,左手で内視鏡を操作することが基本となる.そのため,左前腕や左手関節による回転操作や,左手のみで行うアングル操作方法が求められる.また,内視鏡にたわみをつくらず,C字曲線を維持することで回転操作が内視鏡先端に確実に伝わる.本稿では,上部消化管内視鏡の基本操作技術を解説する.
ERCP,EUS,EUS-FNA/Therapeutic EUSの研修を始めるために,第一に行うべきは,本,ビデオ,DVDなどにより適応,検査法,EUS解剖,偶発症および対処法などを勉強することである.第二にhigh volume centerで研修を開始し,上級医の検査を観察する,助手をすることから始まる.第三は,ある程度検査法が理解出来るようになれば,上級医の判断で検査の施行が許される.第四は,これらの内視鏡の基礎がある程度出来るようになるには,個人差があるものの少なくとも1年間の研修期間,ERCP,200-300例,EUS,250-600例,EUS-FNA/FNB,40-80例を要する.第五に更に高度なERCP,Therapeutic EUSを習得するためには,更に数年のhigh volume centerで研修を必要とする.
【目的】本研究は,色調,表面構造,明るさを強調可能な画像強調技術であるtexture and color enhancement imaging(TXI)に関し,大腸ポリープ発見能を評価することを目的とした.
【方法】2020年8月から2021年1月までの期間に,3つの研究機関でTXIおよび白色光を使用して大腸内視鏡検査を受けた患者の臨床データを抽出した.評価項目は,1検査あたり平均腺腫発見数(mean number of adenomas detected per procedure:MAP),腺腫発見率(adenoma detection rate:ADR),および上行結腸における腺腫見逃し率(ascending colonic adenoma miss rate:Ac-AMR)を用いた.TXIが評価項目に及ぼす影響を決定するために,ロジスティック回帰を行った.
【結果】470人の患者から発見された1,043の病変を解析した.TXIと白色光におけるMAP,ADR,平坦ポリープ検出率,およびAc-AMRは,それぞれ1.5%(95%信頼区間1.3-1.6%)対1.0%(0.9-1.1%),58.2%(51.7-64.6%)対46.8%(40.2-53.4%),66.2%(59.8-72.2%)対49.8%(43.2-56.4%),および17.9%(12.1-25.2%)対28.2%(20.0-37.6%)であった.多変量回帰分析により,TXI,年齢,観察時間,および内視鏡のタイプがMAPおよびADRに影響を与える有意な要因として特定された.
【結論】本研究は,TXIが大腸腫瘍性病変の検出を向上させることを示唆した.これらの結果を確認するためには前向きな無作為化試験が必要である.
【背景と目的】術後狭窄は,広範な食道ESD後の重篤な有害事象である.自己組織化ペプチドゲルは,組織の治癒と再上皮化を促進することが示されている.本研究の目的は,食道ESD後の狭窄予防に対する自己組織化ペプチドゲルの効果を評価することである.
【方法】本研究は,2022年3月から2023年12月に食道ESDを施行し,自己組織化ペプチドゲル塗布を施行した患者を対象とした多施設共同前向き研究である.ESDによる粘膜欠損周在が食道内腔の50%以上であった患者を対象とした.狭窄ハイリスク症例は,粘膜欠損周在75%以上と定義された.狭窄は,直径8.9mm以上の内視鏡が通過できないか,嚥下障害がある患者で内腔が狭い場合(内視鏡が抵抗がありながら通過する)と定義した.
【結果】研究期間中にESDを受けた患者は43例(年齢中央値71歳,男性81.4%)で,切除標本サイズ中央値は50mmであった.すべての症例で自己組織化ペプチドゲル(中央値3mL)の投与に成功した(時間中央値4分).狭窄率は全体で20.9%(9/43)で,狭窄ハイリスク症例では30.8%(全周の粘膜欠損:80%[4/5],周在75%以上全周未満の粘膜欠損:19%[4/21])であった.狭窄は全例が内視鏡治療で改善した.術後出血が3例(6.9%)に発生したが,内視鏡的に対応可能であった.
【結論】自己組織化ペプチドゲルの塗布は容易で迅速であり,他の予防法と比較して比較的低い狭窄率であった.しかし,これらの予備的所見を裏付けるためには,さらなる比較研究が必要である.