本邦におけるバレット食道腺癌の基本治療戦略は,ESDによる病変の一括切除と,残存バレット食道の慎重な経過観察である.一方,バレット食道腺癌患者の多い欧米と本邦では,診断から治療に至るまで様々な相違点があるが,最大の相違点は内視鏡治療のゴールそのものが異なるということである.すなわち,欧米では可視病変(visible lesion)の内視鏡切除(EMR/ESD)をしたのち,残存バレット食道に対してRFAなどによるablation治療を行うことで,バレット食道そのものを根絶(eradication)させることが治療の最終的なゴールとなる.これをEndoscopic Eradication Therapy(EET)と言い,欧米における標準治療となっている.本稿では,本邦と欧米の様々な相違点について触れながら,本邦の課題と今後の展望について論じる.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)患者に対する大腸サーベイランスでは,内視鏡所見と病理診断が必ずしも一致しない場面が少なくない.本稿では,こうした齟齬が診断精度の問題ではなく,炎症性発癌という特有の病態を従来の枠組みで理解しようとしてきたことに起因する点を整理した.IBD関連dysplasiaは,腺腫-癌連続説とは異なる発癌過程を背景に生じ,形態学的にも多様である.Riddell分類に加え,conventional / non-conventional dysplasiaの概念や,SCENICコンセンサス・ステートメントを踏まえ,病理診断の役割を「起源の鑑別」ではなく,dysplasiaの有無とグレードを適切に評価し,内視鏡所見と統合する情報提供として再定義する必要性を論じた.
症例1は78歳男性.胃体中部小彎,長径55mmの0-Ⅱb+Ⅰ型早期胃癌.症例2は84歳男性.胃体中部後壁,長径27mmの0-Ⅱa+Ⅰ型早期胃癌.ESDを行ったがいずれもpT1b2,Ly1,V1で内視鏡的根治度(eCura)C-2であった.追加手術は希望せず経過観察したところ,それぞれ2年7カ月,3年1カ月目に胃小彎側のリンパ節腫大を認め外科切除を行った.症例1はNo.3a,症例2はNo.3a及び9に転移を認めたが,ともに救済手術が可能であった.早期胃癌ESD後eCuraC-2で経過観察され転移再発した場合,多くは遠隔転移で救済率は低いとされるが,今回救済手術が可能であった2例を経験した.
症例は44歳,男性.急性胆囊炎に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.その後,胆囊摘出部位の膿瘍と胆汁性仮性囊胞を認め,経皮的ドレナージと内視鏡的胆道ドレナージを施行した.しかし,胆汁漏の改善なく,離断型胆汁漏と診断し,十二指腸球部より超音波内視鏡下膿瘍ドレナージ術(endoscopic ultrasound guided abscess drainage:EUS-AD)を行い内瘻化した.術後,症状や胆汁漏出は速やかに改善し,ドレナージ後15日目に退院となった.18カ月後,CTで肝実質の萎縮を確認しステントを抜去した.胆汁性仮性囊胞の再発は認めていない.離断型胆汁漏に対してEUS-ADは有用な治療法の1つである.
症例は75歳,男性.肝門部領域胆管癌の診断で拡大肝左葉切除術,尾状葉切除術,肝外胆管切除術,胆道再建術を施行されたが,術後の病理診断により原発性硬化性胆管炎と診断された.手術2カ月後より胆管炎を繰り返し発症したため吻合部狭窄による胆管炎が疑われ,バルーン内視鏡による内視鏡的逆行性胆管造影検査を施行された.吻合部はピンホール状に狭窄し,10mm程度の胆管狭窄も認められた.ガイドワイヤーは通過したが,拡張デバイスの通過が困難であり,ドリル型ダイレーターで狭窄部を拡張しステントが留置された.原発性硬化性胆管炎を背景とした吻合部狭窄に対する内視鏡治療としてドリル型ダイレーターが有用である可能性が示唆された.
消化管腫瘍に対するESDにおいては,切除を容易にするために様々なトラクション法が考案されている.当院では以前よりトラクションを用いたESDを導入しており,現在はMulti Loop Traction Device(Boston Scientific)を用いる方法を採用している.トラクションにスペースを要さないことから特に食道において有用と考えている.水深下での手技と併用することでより安全性が向上する.
BAEは,小腸を「たぐり寄せ」ながら深部へ到達する手技であり,小腸疾患の診断・治療に不可欠なモダリティとなっている.ダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)では先端バルーンと外筒バルーンを交互に拡張・収縮させて短縮を図り,シングルバルーン内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)では先端アングルと受動灣曲を活かしてスコープ自体の把持力を高める.手技の要点は,十分な前処置とCO2送気を基本とし,カプセル内視鏡やMR enterography(MRE)/CT enterography(CTE)所見を参考に病変に最も近い経路(経口/経肛門)を選択すること,そして透視を必要時のみ併用しつつ腸管走行とループ形成を把握することである.挿入操作では「固定→前進→短縮」を繰り返すPush-Pull操作を軸に,腸管のたるみを確実に取りながら同心円状のスコープ形状を保つことが重要である.抵抗や先端フリー感の低下を感じた際には,直ちに解放・後退して軸を立て直し,外筒バルーン位置やカーブを再設計することで穿孔などの偶発症を予防する.「無理をしない・腸管に逆らわない・バルーンの効きを常に感じる」という原則のもと,一人法・二人法いずれにおいてもPush-Pull配分と軸保持を徹底することが,安全かつ高い到達率を達成するためのバルーン内視鏡手技の核心である.
【目的】Spastic esophageal disorders(SED)には,Type Ⅲ食道アカラシア,遠位食道攣縮(distal esophageal spasm:DES),ジャックハンマー食道(hypercontractile esophagus:HE)が含まれる.しかし,いずれもまれな疾患であり,これらに対するPOEMの有効性と安全性は十分に確立されていない.本研究では,SEDに対するPOEMの臨床成績および最適な治療戦略を評価することを目的とした.
【方法】2014年3月から2023年12月にSEDに対してPOEMを施行した患者を対象に後方視的解析を行った.Type Ⅲ食道アカラシアでは,食道の異常収縮部から胃噴門部まで筋層切開を行い,DESおよびHEでは食道の異常収縮部のみ筋層切開し下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)を温存する方法,または食道異常収縮部から胃側まで筋層切開を行った.手技の詳細,technical およびclinical success,偶発症,POEM後の胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)の発生率を評価した.Clinical successは,Eckardtスコア≦3と定義した.
【結果】研究期間内に2,938例のPOEMが行われ,そのうち106例(3.6%)がSEDに対して施行した.対象は,Type Ⅲアカラシア58例(54.8%),DES 24例(22.6%),HE 24例(22.6%)であった.Technical successは100%で,clinical successは治療2〜3カ月後で98.1%,治療1年後で92.6%であった.びらん性食道炎は2〜3カ月後に27.7%,1年後に16.1%で認められた.DESおよびHEに対するLES温存POEMは,胃側筋層切開まで行う従来のPOEMと同等の有効性を示し,GERD発症率の低減傾向がみられた.
【結論】POEMはSEDに対して有効な治療である.DESおよびHEに対しては,LES温存POEMが有効であり,GERDリスクを軽減しうる有望な治療戦略であると考えられる.
日本消化器内視鏡学会は,「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 2020 ver. 3.0」に従い,evidence-based medicine(EBM)に基づいた「被包化膵壊死(WON)に対する内視鏡診療ガイドライン」を作成した.WONは,壊死性膵炎後に液状化した壊死組織が被包化され囊胞性病変を形成した重篤な局所合併症であるが,近年では経消化管的治療により良好な治療成績が得られている.執筆はCQ(clinical question)形式とし,必要に応じてBQ(background question)・FRQ(future research question)を設けた.なお,一部のCQにおいては,レベルの高いエビデンスが少ないため,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインは,疫学,診断,治療の 3項目を柱に構築し,現時点での指針とした.
【背景と目的】症候性壊死性膵炎に対する超音波内視鏡(EUS)下ドレナージ術後における内視鏡的ネクロセクトミー(Direct endoscopic necrosectomy;DEN)の最適実施時期は確立されていない.本試験は,EUS下ドレナージと同時に即時DENを行うことがドレナージ主体のステップアップアプローチと比較して,治療の早期完遂につながるかを検証した.
【方法】本研究は,日本23施設共同の多施設非盲検優越性無作為化比較試験(WONDER-01)である.EUS下ドレナージを受けた症候性壊死性膵炎患者を適格基準に基づき選択し,即時DEN群またはドレナージ主体のステップアップ群に1:1で無作為割り付けした.主要評価項目は無作為化から臨床的成功までの期間とし,臨床的成功は液体貯留径が3cm以下に縮小かつ炎症マーカーが改善したこととした.
【結果】70例(即時DEN群33例,ステップアップ群37例)が登録された.即時DEN群はステップアップ群に比べ,臨床的成功までの期間が有意に短縮された(中央値29日 vs. 44日;P=.009).即時DEN群では全例にDENが施行されたのに対しステップアップ群での施行率は46%にとどまったが,処置関連有害事象発生率は両群で同等であった(24% vs. 22%;P=.79).技術的成功率(100% vs. 97%;P>.99)および院内死亡率(12% vs. 5.4%;P=.41)にも有意差はなかった.
【結語】壊死性膵炎に対するEUS下ドレナージ後の即時DENは,ステップアップアプローチと比較し,有害事象を増加させることなく臨床的成功までの期間を短縮した.ただし,DEN施行回数は増加した.