日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
金属ステント留置中に膵癌浸潤部より胆道出血をきたした1例
村井 一裕 重川 稔山井 琢陽須田 貴広氣賀澤 斉史吉岡 鉄平岩橋 潔池澤 賢治巽 智秀竹原 徹郎
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キーワード: covered SEMS, 消化管出血, IVR
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2016 年 58 巻 9 号 p. 1432-1437

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要旨

症例は45歳,男性.2013年6月,切除不能進行膵癌と診断し,全身化学療法を開始した.2014年2月に下部胆道閉塞を認め,金属ステントを留置した.ステント留置から1カ月後に多量の新鮮血便を認めたため,上部消化管内視鏡検査を施行した.十二指腸乳頭部より湧出性出血を認めたが,内視鏡的止血は困難と判断し,腹部血管造影を施行した.後上膵十二指腸動脈からの動脈性胆道出血を認め,塞栓により止血が得られた.止血後は,8カ月後に永眠されるまで再出血を認めず経過した.ステント留置中にステント周囲の動脈破綻から胆道出血をきたした報告は他に認めず,稀少な症例と考えられたため文献的考察を加え報告する.

Ⅰ 緒  言

切除不能進行膵癌による閉塞性黄疸に対して,Self-expandable metallic stent(SEMS)留置が一般的に行われる.SEMS留置後の合併症として胆道出血は比較的まれである.Covered SEMSは広い口径と拡張力を有するため,胆道出血に対して出血源となる部位を直接圧迫し,止血効果が期待される 1).今回われわれはcovered SEMS留置下で出血点は直接圧迫されていたにも関わらず,膵癌直接浸潤による動脈破綻により胆道出血をきたした1例を経験した.ステント留置中にステント周囲の動脈破綻から胆道出血きたした報告は他に認めず,稀少な症例と考えられたため文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:45歳,男性.

主訴:黄疸.

既往歴,家族歴:特記すべき事項なし.

嗜好歴:喫煙10-15本/日×25年,飲酒なし.

内服薬:ロキソプロフェン,オランザピン,ポラプレジンク,酸化マグネシウム.

アレルギー歴:なし.

現病歴:2013年6月上腹部痛を主訴に前医を受診した際の単純CTで膵頭体部に腫瘤性病変を指摘され,同年7月に膵腫瘤精査目的で当科に紹介された.膵腫瘤に対するEUS-FNAにて腺癌細胞を認め,複数の画像診断(腹部造影CT,造影MRI,FDG-PET)で転移性肝腫瘍を指摘され,最終的に膵癌StageⅣbと診断した.同年8月より1次治療としてgemcitabine単剤療法を3クール施行した.その後,同年11月より2次治療としてTS-1単剤療法を開始した.TS-1単剤療法2クール後の腹部CTにて新規肝転移巣および肝内胆管拡張を指摘されたため,翌年2月に治療目的で当科に入院となった.

入院時現症は身長177cm,体重59kg,体温36.2度,眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄染を認めた.腹部は平坦,軟で圧痛は認めなかった.その他身体所見に異常は認められなかった.血液検査は,WBC 4,110/μl,CRP 0.16mg/dl,T.Bil 3.8mg/dl,D.Bil 2.6mg/dl,AST 91IU/L,ALT 105IU/L,ALP 612IU/L,γGTP 326IU/Lと,血清ビリルビン値および肝胆道系酵素の上昇を認めた.

第1病日に減黄を目的としてERCPを施行し,膵癌浸潤に伴う下部胆管狭窄に対してPlastic Stent(7Fr,5cm,Flexima,Boston Scientific社)を留置した.その後減黄良好であり,第8病日にはpartially covered SEMS(径10mm,6cm,Niti-S biliary ComVi stent,Century Medical社)に交換した.若年であったこと,Performance Statusが0と良好であったことから,本人・家族の同意を得たうえで,第14病日より3次治療としてのFOLFIRINOX療法を開始した.

第21病日に発熱・右季肋部痛を認めた.血液検査においてWBC 4,220/μl,CRP 7.23mg/dlと炎症反応の上昇を認めたため,腹部エコーを施行したところ,胆嚢腫大を認めた.臨床症状と合わせて急性胆嚢炎を疑い,絶食・抗生剤投与を開始した.しかし,臨床症状の改善が乏しかったため,第26病日に腹部造影CTを施行した(Figure 1).CT所見上,胆嚢腫大・胆嚢壁肥厚に加え,胆嚢内腔に高吸域領域を認め,一過性の腫瘍出血による胆道内血腫とそれによる胆道閉塞に伴う急性胆嚢炎と診断した.保存的加療では改善が得られなかったため,第27病日に経皮経肝的胆嚢ドレナージ(PTGBD)を施行した.暗赤色の血性胆汁を認め,胆道内出血が示唆された.PTGBD施行後,翌日より解熱と腹部症状の改善を認め,血液検査でも炎症反応の低下を認めた.チューブから血性胆汁の持続的な排出は認められなかったため,第36病日にPTGBDチューブをクランプした.

Figure 1 

腹部造影CT検査.軽度の胆嚢腫大と胆嚢壁肥厚を認めた.頸部に高吸収域を呈する病変(あるいは内容物)を認め,血腫の存在が疑われた.

第41病日早朝に,多量の黒色便を認め,収縮期血圧の低下(50mmHg台),脈拍の上昇(150bpm台)を認めた.出血性ショックと判断し,急速輸液と輸血投与を行った.循環動態が安定したため,緊急上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸より湧出性出血を認め,膵癌十二指腸浸潤部からの出血と判断した.内視鏡観察中に自然止血が得られたため,輸血を行いながら保存的に経過観察することとした.しかし,同日夕に再度多量の新鮮血便を認めた.血圧91/48mmHg,脈拍 105/分と血圧低下,脈拍上昇を認め,腹部は全体に圧痛を認めた.血液検査ではWBC 13,240/μl,CRP 8.27mg/dl,Hb 7.3g/dlと炎症反応の上昇およびHb値の低下を認めた.膵癌十二指腸浸潤部からの再出血と考え,緊急上部消化管内視鏡検査を施行した.スコープ挿入時,胃内に凝血塊の貯留を認め,十二指腸乳頭部に血餅の付着を認めた.スコープを側視鏡に変更後,十二指腸乳頭部を観察したところ乳頭部より湧出性の出血を認めた(Figure 2-a,b).内視鏡上出血点がはっきりと同定できなかったこと,動脈性出血が疑われたことから内視鏡的止血術は困難と判断し,Interventional Radiology(IVR)での止血を行うこととした.

Figure 2 

緊急上部消化管内視鏡検査.

a:側視鏡に変更し観察.乳頭部に血餅の付着を認める.

b:十二指腸乳頭部より湧出性の出血を認めた(矢印).

上腸間膜動脈(SMA)造影では,後上膵十二指腸動脈(PSPDA)からSEMSに沿うように総胆管・十二指腸への造影剤の流出を認めた.急性胆嚢炎診断時の腹部造影CTでも仮性動脈瘤を認めなかったことから,膵癌直接浸潤によるPSPDAの破綻,および同部位から胆管内への胆道内出血と診断した(Figure 3-a,b).PSPDA近傍よりNBCA(n-butyl-2-cianoacrylate)で同血管破綻部を塞栓した後,SMA造影を施行し止血が得られていることを確認した(Figure 3-c).止血処置後,再下血は認めなかったが,バイタルサインがやや不安定で貧血の改善も乏しかったため,出血当日に赤血球濃厚液12単位,翌日に赤血球濃厚液16単位の輸血を行った.その後,徐々に心拍数は100bpm台から70bpm台に改善し,再出血することなく経過した.

Figure 3 

血管塞栓術.

a:SMA造影.SMA(矢印)からの造影にて金属ステント近傍に造影剤のpooling(円)を認めた.

b:PSPDA造影.PSPDA(矢印)からの造影にて,ステントに沿うように総胆管内への造影剤の漏出(矢頭)が認められる.

c:NBCA塞栓後に施行したSMA造影.NBCA塞栓後,止血が得られた(矢印).

SMA:上腸間膜動脈,PSPDA:後上膵十二指腸動脈,NBCA:n-butyl-2-cianoacrylate.

FOLFIRINOX療法は,1クール施行後の腹部造影CT検査において原発巣の増大を認め,化学療法不応と判断し,best supportive careの方針となった.止血から8カ月後に永眠されるまで再出血することなく経過した.

Ⅲ 考  察

胆道出血は,hemobiliaとして1948年に外傷性の症例が最初に報告された 2).上部消化管出血のうち1~5%を占め,出血部位として稀である 3),4).吐血や下血などに加え,胆管内に凝血塊が充満し胆汁の排出障害が生じることから,急性胆管炎や閉塞性黄疸を引き起こしうる 5).このため,胆道出血の症状としては上腹部痛,黄疸,吐血あるいは下血がQuinkeの3徴として有名であるが 4),3徴がすべて揃うのは約20%程度であるとされる 5).胆道出血の成因についてまとめた222症例の検討 6)によると,手技に伴う医原性(65%)や炎症性(13%)が多く,腫瘍性は7%を占めるのみであった.また本邦では1984年に泉田ら 7)が報告しているが,腫瘍性は15.1%を占めるのみであり,腫瘍による胆道出血は,成因のなかでも比較的稀なものである.

胆道出血の治療は保存的止血を期待するのが一般的であり,止血が得られなければ血管塞栓術あるいは緊急手術が行われる.近年,胆道出血に対して金属ステントを使った止血方法が報告されており,金属ステントの持つ口径とその拡張力で出血源となる血管を直接圧迫することにより止血効果が得られると考えられている 1).本症例ではすでにcovered SEMS留置がされており,出血点が直接圧迫されていた.それにも関わらず動脈の破綻から胆道出血をきたし,内視鏡的止血が困難であり緊急IVRが必要となった.SEMS留置下においても,膵癌の直接浸潤に伴う動脈破綻による胆道出血が生じることがあり,その治療は難渋するため注意が必要であると考えられた.

SEMS留置後に胆道出血をきたした報告は,医学中央雑誌では“ステント”,“胆道出血”のキーワードで,PubMedでは“stent”,“hemobilia”のキーワードで1991年から2014年の期間で検索したところ,会議録と自験例を除き10例を認めるのみであった(Table 1).自験例を含む11例のうち,自験例を含む3例 8),12)以外の8例はすべてSEMS留置後に仮性動脈瘤を形成しており,仮性動脈瘤から出血した症例であった.SEMS留置後の仮性動脈瘤についてはSEMS断端部の金属繊維が近接する動脈を刺激し,仮性動脈瘤を形成する可能性が考えられている.出血の成因が仮性動脈瘤でない自験例を除く2例のうち,1例 8)では仮性動脈瘤の有無については言及されていなかった.また,残り1例 12)はSEMS留置後に生じた内視鏡的乳頭切開後出血であった.本症例では急性胆嚢炎診断時の腹部造影CTでも,胆道出血時の血管造影でも仮性動脈瘤は認められず,膵癌直接浸潤に伴う動脈破綻が胆道出血の原因として考えられた.本症例は膵癌浸潤に伴う動脈破綻により胆道出血をきたした.出血点が金属ステントで圧排されていても,重篤な胆道出血をきたすことが稀ながらあることを念頭に置く必要がある.

Table 1 

SEMS胆管留置後に胆道出血をきたした報告例(自験例含む).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2016 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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