日本消化器内視鏡学会雑誌
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全食道に充満したスポンジ異物を内視鏡的に摘出した異食症の1例
井原 勇太郎 檜沢 一興江崎 幹宏
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2016 年 58 巻 9 号 p. 1438-1439

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【症例】

患者:83歳,女性.

主訴:呼吸困難.

現病歴:認知症のため意思疎通困難で全介助の状態だった.自宅を訪問した介護職員が,座布団のスポンジを口に詰めて苦しむ患者を偶然発見し,当院へ救急搬送となった.口腔内のスポンジは搬送時に除去された.

来院時所見:JCS0,脈拍138/分,血圧247/155mmHg,喘鳴や気道狭窄音は聴取しなかったが,患者は興奮状態で脈拍血圧は上昇し,酸素飽和度は89%と低下していた.

搬入時検査所見:検査所見で炎症反応は認めなかったが,血糖は163mg/dLと上昇し,動脈ガスにてpH 7.33,pCO2 49Torr,pO2 73Torr,BE-0.5mmol/Lと呼吸性アシドーシスを認めた.

胸部単純X線検査所見:両肺野の透過性は低下し,気管の変位を認めた.

胸部単純CT所見(Figure 12):縦隔条件にて食道内腔は最大5.5cmと拡張しており,肺野条件では食道内腔を充満する含気性腫瘤を認め,気管は右方へ変位していた.含気性腫瘤は気管後方の頸部食道から,気管を右方へ圧排しながら下方へ蛇行する食道内を充満しており,下部食道から噴門部まで食道全域に亘り30cmを超える長さに及んでいた.食道内異物が呼吸障害の原因と判断し,内視鏡的摘出を試みた.

Figure 1 

胸部CT所見.食道は最大5.5cmと拡張し,頸部食道から下部食道を超え噴門部まで内腔には30cmを超える含気性腫瘤を認めた.

Figure 2 

胸部CT所見.食道は最大5.5cmと拡張し,頸部食道から下部食道を超え噴門部まで内腔には30cmを超える含気性腫瘤を認めた.

上部消化管内視鏡所見(Figure 34):咽喉頭部に残渣は認めなかったが,食道入口部を超えると柔らかい異物が充満していた.嘔吐反射に伴い逆流すると窒息の危険があると判断し,内視鏡先端にキャップを再装着したうえで食道内異物を出来るだけ胃内へ押し出した.胃内で視野を確保し観察すると,異物はウレタン素材のスポンジと確認できた.回収ネットを使用し1時間を要して半分のスポンジも回収できなかったが,呼吸状態は改善したため残りは自然排出を期待し処置を終了した.しかし6cmのスポンジ異物によるイレウスの報告1)を認めたため,12時間後の翌朝に再度内視鏡摘出を試みた.食道にはスポンジは全くなかったが胃内にはまだ多量のスポンジが残存しており,オーバーチューブを挿入し,回収ネットやスネアを用いることで,搬入時のCTにて30cm以上に及ぶスポンジをすべて回収できた.なお,スネアでの回収が最も効率的であった.処置に1時間以上を要したが偶発症なく終了し,自宅退院となった.

Figure 3 

内視鏡所見.食道異物を先端キャップで胃内へ押し出し,ウレタン素材のスポンジと確認できた.

Figure 4 

内視鏡所見.食道異物を先端キャップで胃内へ押し出し,ウレタン素材のスポンジと確認できた.

【解説】

「消化管異物」と「スポンジ」で医学中央雑誌を検索した結果,スポンジ異食によるイレウスの報告が1例あった1).症例は69歳の男性で,精神遅滞で施設入所中に嘔吐を繰り返し,CTにて著明に拡張した小腸に原因不明の含気性腫瘤を指摘された.イレウスの診断で減圧チューブを挿入したが改善なく,手術にて小腸内に6×3cmのスポンジ異物が確認され摘出された.その後の病歴にて,施設ソファーのスポンジを毟って食べた経過が判明している.

消化管異物の診断には,何を何時どのように飲み込んだか問診が重要である.しかし,認知症患者や精神遅滞を認める患者では病歴把握が困難な場合も多く,異食症による食道異物では死亡例の報告もある 2),3).診断の遅れによる致命的な事態を避けるためにも,食道異物症例では積極的な画像検査が必要となる場合がある.自験例では大量のスポンジが食道に充満し気道閉塞の危険があった.更にスポンジは不溶性であり,胃を通過した場合にはイレウスの危険もあった.認知症患者の増加に伴い,今後スポンジ異食症に遭遇する機会も予想される.CT画像にて自験例のような含気性腫瘤を認めた場合には,本症を念頭に迅速な対応が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
  • 1.   川口 孝二, 泉  公一, 荒巻 政憲.腹腔鏡下手術を行った異食症による食餌性イレウスの1例.手術 2012;66:241-3.
  • 2.   林  泰寛, 野手 雅幸, 柄戸 美智代ほか.トウモロコシ穂軸による食道異物の1例.外科治療 2007;97:221-4.
  • 3.   柳川 洋一, 阪本 敏久, 岡田 芳明.上部食道異物による窒息例.日本救急医学会関東地方会雑誌 2006;27:24-5.
 
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