日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
食道内に脱落・嵌頓し,内視鏡的破砕によって除去しえた石灰化食道平滑筋腫の1例
平田 哲 中川 昌浩平尾 謙河原 聡一郎大林 由佳高田 斎文宮原 孝治森藤 由記國弘 真己岩室 雅也
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2023 年 65 巻 12 号 p. 2394-2400

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要旨

症例は75歳男性.50年前に食道腫瘤を指摘され,2年前にEGD,生検を施行され石灰化を伴う平滑筋腫と診断された.嘔吐が続くためEGDを実施したところ,胸部下部食道に,一部が正常粘膜に覆われた,黄白色調で硬く,表面に凹凸を伴った30mm大の腫瘤を認め,石灰化を伴う食道平滑筋腫の露出と診断し,通過障害の原因と判断した.腫瘤は観察時の送気で食道内腔に脱落し嵌頓したため,種々の内視鏡処置を複数回行い,腫瘤を縮小させた後,最終的に胃内で電気水圧衝撃波結石破砕装置にて破砕し除去した.病理組織所見は平滑筋腫の石灰化であった.内視鏡デバイスを駆使して非侵襲的に治療しえた症例は稀と考え報告する.

Abstract

A Japanese man in his twenties was diagnosed with esophageal tumor. However, the tumor was not further investigated at the time of diagnosis. At 73 years of age, he was diagnosed with esophageal leiomyoma with calcification after undergoing EGD and boring biopsy. Subsequently, he defaulted follow-up. At 75 years, he was referred to our hospital due to persistent postprandial vomiting. EGD revealed a yellowish-white, hard, rough-surfaced, 30 mm mass covered with normal mucosa in the lower thoracic esophagus. As a result of insufflation during this procedure, the mass detached and fell into the lumen of the esophagus. Because it appeared to be obstructing the esophagus, various endoscopic procedures to shrink the mass were repeatedly performed, culminating in crushing and removal from the stomach by electrohydraulic lithotripsy. Histopathological diagnosis of the retrieved specimen was calcified leiomyoma. Electron microscopic and infrared spectroscopic analyses revealed that the calcified component was carbonate apatite. To the best of our knowledge, this is the first report of a patient with a calcified esophageal leiomyoma that detached and fell into the lumen of the esophagus.

Ⅰ 緒  言

食道平滑筋腫は食道間葉系腫瘍の中で最も頻度が高く,石灰化を伴うこともある.今回われわれは,管腔内に脱落し嵌頓した石灰化を伴う食道平滑筋腫に対し,内視鏡デバイスを駆使して破砕することにより,低侵襲な治療が可能であった1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:75歳,男性.

主訴:嘔吐.

現病歴:約50年前に30mm弱の食道腫瘤を指摘され,精査を勧められたが放置していた.

4年前に心窩部痛を主訴に当院を紹介受診し,上部消化管内視鏡(EGD)にて胸部下部食道に凹凸を伴った30mm弱の黄白色調の粘膜下腫瘍(Submucosal tumor:SMT)を認めた.超音波内視鏡(EUS)では音響陰影のため腫瘤内部や食道壁との連続性は評価困難であった.増大傾向がなかったため,以後はEGDにて1年毎の経過観察の方針とした.3年前のEGDおよびEUSでは著変なかった.

2年前のEGD(Figure 1-a)では食道SMTは僅かに増大し,胸部造影CTでは30mm大のSMTは全体が石灰化していた(Figure 1-b),ボーリング生検にて紡錘形細胞の増殖と一部に石灰化成分を認め(Figure 1-c),免疫染色ではSMA陽性,Desmin陽性(Figure 1-d),c-kit陰性,DOG-1陰性であり,細胞密度は低く,核異型なし,核分裂なしであり,石灰化を伴う平滑筋腫と診断した.

Figure 1 

a:EGD(2年前).胸部下部食道左壁に凹凸のある,30mm弱の黄白色調のSMTを認めた.

b:胸部造影CT(2年前).胸部下部食道に30mm大の全体が石灰化した腫瘤を認めた.

c:生検病理組織像.紡錘形細胞の増殖と一部に石灰化成分を認めた.

d:生検病理組織像.Desmin染色陽性であり,石灰化を伴う平滑筋腫と診断した.

1週間前より食後の嘔吐を繰り返すようになり,近医でのEGDにて胸部下部食道に腫瘤を認め,精査加療目的に当院を紹介受診した.

既往歴:高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症,骨粗鬆症,閉塞性動脈硬化症,脳出血,左下肢静脈瘤術後,虫垂炎術後,甲状腺術後.

内服薬:カンデサルタン,アトルバスタチン,フェブキソスタット,リセドロン酸ナトリウム水和物,シロスタゾール,オメプラゾール.

生活歴:飲酒 機会飲酒,以前は大酒家(30歳代から40歳代まで日本酒5合/日).喫煙 10年前に禁煙,それまで40本/日.

嗜好歴:コーヒー1杯/日.

現症:身長160cm,体重48.9kg,体温36.2℃,血圧117/65mmHg,脈拍84bpm.リンパ節触知せず,呼吸音清,腹部平坦/軟,自発痛や圧痛なし.

来院時検査所見:血液検査ではWBC 6,200/μL,Ca 9.6mg/dL,CRP 0.90mg/dL,SCC抗原 2.0ng/mL,抗Hp-IgG抗体<3.0U/mLであり,その他に異常は認めなかった.胸部造影CTでは胸部下部食道内に30mm大の石灰化を伴う腫瘤を認めたが,2年前と著変なく,リンパ節腫大は認めなかった.

来院時EGD(1回目)所見:胸部下部食道左壁に,黄白色調で硬く,表面に凹凸を伴った30mm大の腫瘤を認め,基部の一部のみ正常粘膜に覆われており(Figure 2-a),腫瘤の可動性は良好であった.既知の石灰化した平滑筋腫が露出して可動性を得たことにより,腫瘤が食物に押されて食道胃接合部を塞ぎ,食後の嘔吐の原因になっていると判断した.

Figure 2 

EGD(来院時).

a:胸部下部食道左壁に,黄白色調で硬く,表面に凹凸を伴った30mm大の腫瘤を認め,基部の一部は正常粘膜に覆われており,可動性は良好であった.既知の平滑筋腫が自壊し,石灰化を伴った腫瘍そのものが露出しているものと考えた.

b:観察時の送気により食道壁から剝がれ,腫瘤は管腔内に脱落した.

c:脱落部位を確認したところ,周囲にSMT様隆起を伴い,内部に凹凸やびらんを伴う硬い陥凹面を認めた.陥凹内の凹凸からの生検にて石灰化成分を確認したが,陥凹および周辺SMT様隆起の生検では平滑筋腫所見は認めなかった.

治療経過:来院時EGD(1回目)時の送気により腫瘤が正常粘膜より剝がれ,管腔内に脱落した(Figure 2-b).内視鏡的除去を試みたが,そのままの大きさでは食道から回収することも胃内へ落とし込むことも困難であり,食道内に嵌頓した状態となった.そのため,生検鉗子やスネア鉗子にて用手的な破砕を,バイポーラスネア鉗子(ゼメックスバイポーラスネアS DRAGONARE,ゼオンメディカル社)にて熱による切断を試みたが,腫瘤が非常に硬く,内視鏡的に除去することは断念した.また,脱落部位は凹凸やびらんを伴う陥凹面となっており,陥凹周囲にはSMT様隆起を伴っていた(Figure 2-c).陥凹面は非常に硬く,陥凹内の凹凸からの生検にて石灰化成分を確認したが,陥凹および周辺SMT様隆起の生検では平滑筋腫所見は認めなかった.食道内に脱落した石灰化腫瘤は回収できず,経口摂取が困難になることが危惧されたため,同日入院とした.入院2日目のEGD(2回目)では,オーバーチューブと共に引き抜くことを試みたが,ネットに収めた腫瘤を下部食道から口側に移動できなかったため断念した.入院4日目のEGD(3回目)では,総胆管結石破砕用のクラッシャーカテーテル(ゼメックスクラッシャーカテーテル,ゼオンメディカル社)にて破砕を試みたが困難であった.しかし,把持部位の形態が異なる,把持鉗子やジャンボコールドポリペクトミー鉗子(Radial JawTM 4 Jumbo Cold Polypectomy Forceps,ボストン・サイエンティフィック社)でむしり取り,さらにハサミ鉗子にて部分的に切り取ることで,腫瘤は僅かに縮小し25mm大となった.そのため,入院5日目から流動食を再開した.入院9日目のEGD(4回目)では,把持鉗子で一部を削り,胆管ステント抜去用ドリル(Soehendra Stent Retriever,クックメディカル社)にて腫瘤に穴を開け,クラッシャーカテーテルで一部を破砕し,腫瘤を20mm大まで縮小できたが,内視鏡的除去は困難であった.入院12日目からミキサー食を開始したが,嘔吐などの通過障害症状は生じなかった.電気水圧衝撃波結石破砕装置(Electornic hydraulic lithotripsy:EHL)を取り寄せて破砕する方針とし,入院17日目にEGD(5回目)を施行したところ,腫瘤は胃内に自然脱落していた.胃内に生理的食塩水を満たし,EHLで破砕(104QカテーテルにEHLプローベを通し,出力強にて560発施行)した(Figure 3)後,ネットで回収して内視鏡的に除去しえた.また,胃粘膜に萎縮は認めなかった.

Figure 3 

EGD(入院17日目).胃内に自然脱落していた腫瘤を,EHLにて破砕した.

なお,治療時には各種デバイスを使用する内視鏡治療に関して書面で同意を得た.適応外使用に関しては2022年9月1日に当院倫理審査委員会にて事後承認を得た.また,適応外使用のデバイスに関する保険請求は行っていない.

回収標本病理組織所見:紡錘形細胞の束状構造を伴う強い硝子化および石灰化を認め,変性の強い平滑筋腫として矛盾ない所見であった.悪性所見は認めなかった(Figure 4).

Figure 4 

回収標本病理組織像.強い硝子化および石灰化を認めた.硝子化部分には紡錘形細胞の束状構造を認め,変性の強い平滑筋腫として矛盾ない所見であった.

電子顕微鏡解析および赤外分光法分析:石灰化成分は電子顕微鏡による元素分析にてC,O,P,Caを検出し,赤外吸収光分析によりカーボネートアパタイトと判明した.

治療後経過:3年後の内視鏡再検では病変脱落部にはSMT様病変は認めず,同部位の生検でも平滑筋腫,石灰化は確認できなかった.

Ⅲ 考  察

島田ら 1によると,食道SMTのうち,生検,内視鏡切除,外科手術などで病理組織診断が得られたものの内訳は,平滑筋腫61.4%,顆粒細胞腫11.4%,血管腫6.8%,リンパ管腫6.8%,Gastrointestinal stromal tumor(GIST)6.8%,脂肪腫4.5%,神経鞘腫2.3%と報告されている.食道平滑筋腫は食道SMTの中では最多であるが,石灰化を伴うものの頻度は1.8~4.5%との報告がある 2),3.石灰化を伴う食道SMTには血管腫 4やGIST 5もあるが低頻度であり,石灰化を伴う食道SMTを認めた場合には第一に平滑筋腫を念頭に置くべきである.

石灰化を伴う食道平滑筋腫の報告例は,医学中央雑誌(1987年から2021年,キーワード“食道”“平滑筋腫”“石灰化”,会議録を除く),PubMed(キーワード“esophageal leiomyoma”“calcifi*”)での検索にて詳細が確認可能であった22例 6)~27と自験例併せて23例であった(Table 1),年齢の中央値は63(13~81)歳,82.6%が男性,平均腫瘍径は51.2mmであった.食道癌取扱い規約第11版では,食道平滑筋腫は胸部中部(Mt)もしくは胸部下部食道(Lt)に認めることが多いとされており,報告例の68%はMt,Ltに位置していた.57%は無症状であったが,50mm以上の腫瘍でも50%で自覚症状を認めていなかった.脱落したのは自験例のみであり,自験例と経過観察された2例以外では外科的切除を行っていた.

Table 1 

石灰化を伴う食道平滑筋腫の報告.

消化管平滑筋腫の石灰化の機序としては,①組織の出血,変性および壊死によるもの,②血清Ca値の上昇によるもの,③腫瘍内の局所的内分泌環境の異常によるカルシウム沈着などの発生異常的なもの,が考えられている 6.また,食道平滑筋腫では蠕動などによる物理的な刺激により組織の変性・壊死を来し,腫瘍が石灰化するとの報告があり 16),19,自験例も同様の機序で石灰化を来した可能性が考えられる.また,著明な石灰化を来していたため,特徴的な成分を認める可能性を考慮し,回収標本の電子顕微鏡解析および赤外分光法分析を施行したところ,石灰化成分はカーボネートアパタイトと判明した.カーボネートアパタイトはリン酸塩の中に炭酸基を有する構造物である.食道平滑筋腫の石灰化成分の分析を行った報告は過去に認めていない.カーボネートアパタイトは一般に尿路結石の成分として見られ,Proteus属やKlebsiella属などの尿素分解酵素(ウレアーゼ)を有する細菌により尿素からアンモニアが生成され,尿がアルカリ化することによって析出される 28.自験例では胃粘膜に萎縮を認めず,抗Helicobacter pylori-IgG抗体<3.0U/mL未満であり,Helicobacter pyloriとの関連性は低いものと考えられ,平滑筋腫内でカーボネートアパタイトが析出した機序は不明であった.

また自験例では,脱落しかかっていた腫瘤が,EGD(1回目)時の送気により管腔内に脱落した.一般に,消化管病変の脱落は,有茎性病変であれば蠕動による物理的な刺激や茎部の捻れによる虚血,病巣拡大による相対的虚血など 29が原因と考えられ,広基性病変では病変の潰瘍化による脱落 30などが報告されているが,医学中央雑誌およびPubMedでの検索にて,食道SMTの脱落は報告されていない.自験例では,2年前のEGDでは広基性のSMTの形態であったが,蠕動や経口摂取物などによる物理的な刺激により表面粘膜に潰瘍が生じた可能性や,2年前の生検による潰瘍が原因で上皮が剝離したことが契機となり,潰瘍が徐々に拡大して腫瘍が露出し,最終的に脱落に至ったと考えられた.

今回は,石灰化した腫瘤を鉗子,胆管ステント抜去用ドリル,クラッシャーカテーテルで縮小させ,胃内に自然落下した腫瘤をEHLで破砕することで内視鏡的に回収しえた.EHLは消化管内の硬い腫瘤の破砕に有用であり,十二指腸内に落下した胆石をEHLで治療した報告 31がある.EHLの使用に際しては,消化管壁にプローブが接した状態では放電しないように留意する必要がある.今回,プローブを膵胆管造影用の104Qカテーテルに通して治療を行ったが,これにより鉗子孔部分でのプローブの屈曲予防と造影ルーメンからの注水により効果的に破砕術を施行することができた.

ボーリング生検,EGD(1回目)時の脱落部からの生検,回収標本病理組織所見はいずれも石灰化を伴う平滑筋腫に矛盾はなく,また悪性所見も認めなかったため,内視鏡による経過観察を行っているが,3年後の内視鏡再検でも局所再発は認めていない.

Ⅳ 結  語

石灰化を伴う平滑筋腫が食道内に脱落し嵌頓した,稀な症例を経験した.自験例では内視鏡デバイスを駆使して破砕することにより,低侵襲な治療が可能であった.

謝 辞

病理診断にご協力いただきました当院病理診断科 山崎理恵先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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