日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
大腸カプセル内視鏡の前処置工夫
堀田 直樹
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2023 年 65 巻 12 号 p. 2430-2435

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要旨

大腸カプセル内視鏡は2014年にわが国において保険診療が開始されたが,当初より前処置法と検査完遂率が課題であった.当院ではカプセル排出率改善のためにヒマシ油を用いた前処置法の検討を行い,20症例(透析症例4症例をふくむ)のうち全例でカプセル排出および検査時間の短縮を得ることができた.その後,多施設共同研究も施行し,ヒマシ油が大腸カプセル排出率向上に寄与されることがわかり,現在では日本カプセル内視鏡学会における大腸ポリープ検出時の推奨レジメンとしても使用されている.最後に当院での現在の前処置とブースターに言及する.

Abstract

In 2014, colon capsule endoscopy became covered by health insurance in Japan. To improve the excretion rate of the capsule, we investigated a pretreatment method using castor oil and were able to shorten the capsule excretion and examination time in all 20 patients (including 4 patients undergoing dialysis) evaluated. Subsequently, a multi-center joint study was conducted, and it was found that castor oil improved the colon capsule ejection rate; it is currently used in the regimen for polyp visualization recommended by the Japan Capsule Endoscopy Society. Finally, it accompanies the current conditioning and booster medications administered in our institution.

Ⅰ はじめに

当院は,2014年12月より大腸カプセル内視鏡診療を開始した.小腸カプセル内視鏡の使用経験がなく,全くノウハウもない状態での開始となった.当院には多くの透析患者が通院中であり,腸管の脆弱化や血小板機能の低下,NSAIDsや抗血栓薬を内服しているケースにより出血傾向が潜在する.そのため,大腸内視鏡よりも患者に負担の少ない大腸カプセル内視鏡での精査が有用と考えられていた.しかし,ヒマシ油使用前の前処置によるカプセル排出率は70-90%と報告され,ブースターも必要となり透析患者にとっては水分負荷量が問題となっていた.故にカプセル排出率100%を目標として,一方では,いかにブースターを減らせばよいかを考え,ヒマシ油を使用することによって大腸カプセル内視鏡診療に貢献できないか考慮した.

Ⅱ 当院での成績

対象は2016年3月より増子記念病院にて大腸カプセル内視鏡検査を施行した20人の患者を検討した.使用したカプセル内視鏡はcolon capsule endoscopy(CCE,PillCam COLOCapsule Endoscopy: Medtronic,Minneapolis,MN,USA)を用いた.当院には大腸カプセル内視鏡施行時のプロトコールがなかったので,初期段階は角川らの方法に準じて施行開始した(Figure 1 1.小腸カプセル内視鏡使用時において,ブースター使用のうえに歩行や運動を行うとカプセルが速く進むことがわかっていたので,大腸カプセル内視鏡施行時に適宜歩行することでバッテリー時間内排出率が60%(31/52)から88%(7/8)に向上することを認識した.当院も同様の方法で開始していたが,多くの透析患者ではブースターを十分量飲めないことが判明し,この方法にヒマシ油を使用することにより排出率が向上するのではないかと考えた.

Figure 1 

角川らの腸管前処置とブースター法.

Ⅲ 前処置薬としてのヒマシ油

トウダイグサ科ヒマの種子より抽出される中性脂肪で,何千年もの間小腸刺激性下剤として使用され安全性が確立されている 2.ヒマシ油は,水酸化不飽和脂肪酸であるリシノール酸ricinoleic acidからなるトリグリセリドで,内服後には,リパーゼによりリシノール酸が管腔内に放出され腸で吸収される 3.リシノール酸は,プロスタノイド受容体EP3を介して小腸平滑筋細胞を刺激することによって強い下剤効果を発揮する 4

Ⅳ 当院でのプロトコール

角川らのレジメンにヒマシ油を追加するプロトコールに変更した.変更点は,カプセル嚥下直後,1時間後のブースター時,2時間後のブースターでの計3回におけるヒマシ油投与である(Figure 2).いずれもヒマシ油は1回30mlを使用した.本レジメンについて20例における研究として施行したところ,ヒマシ油使用での全大腸観察完遂率は100%(20/20)であった.うち非透析患者完遂率は100%(16/16),透析患者完遂率も100%(4/4)であった 5.今回の3.7Lでの腸管洗浄で排出率100%の結果を認めたため,その後Ohmiyaらを中心に多施設比較対象研究が施行された 6.その結果で319名がエントリーし,ヒマシ油なし群167名とヒマシ油あり群152名での記録時間内カプセル排出率は各々81%と97%(P<0.0001)と報告している.多変量解析でもヒマシ油使用が記録時間内カプセル排泄の有意な予測因子にも挙げられた.更にはこの数年の間に多くの便秘用下剤が臨床導入されたため,当院においてそれらを組み合わせたレジメンも試行してきたが 7)~9,現在当院での前処置およびブースターで使用しているのは,ラクツロース,モサプリド,クエン酸マグネシウムを組み合わせたものである(Figure 3).

Figure 2 

角川らの腸管前処置とブースター法の改定した方法(変更点は赤で表示).

Figure 3 

当院での現在の腸管前処置とブースター法(変更点は赤で表示).

Ⅴ 考  察

大腸カプセル内視鏡検査は国内で2014年に保険適用となって以後,現在多くの施設で臨床導入されている.当院は,透析患者が多く通院しており,大腸精査のための大腸内視鏡施行にはややハードルが高い側面があるためカプセル内視鏡での精査が有用と考えられる.透析患者は,水分摂取の制限があるので,できるだけブースターの量も制限したいと考えていた.そこで,小腸内でリパーゼにより,グリセリンとリシノール酸に加水分解され,このリシノール酸が小腸を刺激し瀉下作用をあらわす,ヒマシ油を用いて検討した.ガストログラフィンを用いる報告もあるが 7,ヒマシ油は安価である点と,消化管検査用下剤としての保険適応がある2点で採用した.ヒマシ油併用後の排出時間は短縮し,ブースターも減量してきているので,本法が透析患者のみならず,多くの患者が恩恵を得られると考られる.

Ⅵ 結  語

ヒマシ油併用全大腸観察が大腸カプセル内視鏡前処置に有用であると考えられる.今後更に被験者に負担の少ない大腸カプセル内視鏡運用方法の登場が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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