日本消化器内視鏡学会雑誌
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ESDにおける新規止血ペプチド溶液の有効性と安全性:多施設ランダム化比較試験
引地 拓人
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2023 年 65 巻 12 号 p. 2453

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【背景】内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)における術中のにじみ出る(oozing)出血に対する新規止血ペプチドTDM-621の有効性を,従来の止血法と比較することを目的とした.

【方法】ESD適応である胃および直腸の上皮性腫瘍227例を対象に,多施設共同非盲検無作為化比較試験が施行された.ESD術中に,ウォータージェットによる洗浄でもoozing出血部位の同定が困難で,止血鉗子による止血が必要と判断された病変を,TDM-621群と対照群に無作為に割り付けた.TDM-621群ではTDM-621で止血を行い,必要に応じて止血鉗子で凝固止血が行われ,対照群では止血鉗子での止血が行われた.主要評価項目は止血鉗子による平均止血回数で,盲検化された第三者評価委員会によって判定された.副次的エンドポイントは,TDM-621のみによる止血達成率,TDM-621の投与量,TDM-621群における有害事象であった.

【結果】止血鉗子による平均止血回数は,TDM-621群(1.0±1.4回)が対照群(4.9±5.2回)に比べて有意に少なかった(P<0.001).TDM-621のみによる止血達成率は62.2%であり,TDM-621の平均投与量は1.75±2.14mLであった.グレード3以上の有害事象の発現率はTDM-621群で6.2%,対照群で5.0%であった.

【結論】TDM-621は,胃および直腸のESD時のoozing出血の止血において,有用かつ簡便に使用できる止血ペプチドである.また,安全性にも問題はない.

《解説》

ESDは,スコープやデバイスの開発や治療戦略の確立で,今や消化管上皮性腫瘍に対する標準治療としての地位を確立した.しかし,術中・術後出血の止血はESDに残された問題点の1つである 2),3.本論文は,日本のESD先進施設において,新規止血ペプチドであるTDM-621のESD術中出血に対する有効性を検証したものである 1

TDM-621は,人工合成の自己組織化ペプチド溶液である.体液と接触することで,酸性から中性になり,ペプチド同士が規則的な集合体となりゲル化(自己組織化)する.散布用カテーテルで出血部へ塗布されるが,ゲル化後に粘性が高くなる特性により,出血部位を物理的に圧迫することで止血効果が発現する.

本研究の対象は,出血部位の同定が困難と判断されたESD中のoozing出血である.TDM-621群では,まずTDM-621で止血を試みられ,3分経過しても止血できなかった場合に止血鉗子に変更された.止血手技は第三者評価委員会によりビデオ判定され,止血鉗子による止血回数はTDM-621群が少なく,TDM-621群の62%が止血鉗子なしで止血可能であった.

この研究結果をうけて,TDM-621は「ピュアスタット®(スリー・ディー・マトリックス社:東京)」の名称で,「消化器内視鏡治療における漏出性出血に対する止血鉗子による焼灼回数の低減を目的として使用される吸収性局所止血材」として,日本国内で薬事承認後,製造販売されている.一方,本研究では,抗血栓薬服用者や噴出性出血は除外されている.また,自己組織化ペプチドの最適な使用法も確立されていない.したがって,今後は,抗血栓薬服用者や噴出性出血でも有効なのか,術後出血に対する予防効果があるのか,最適な使用法の確立などが課題と思われる.

文 献
 
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