2024 年 66 巻 4 号 p. 458-461
順天堂医院は1838年に江戸に蘭方医学塾(和田塾)として開学され,1843年に佐倉に医学塾順天堂として創設された.1873年に順天堂医院として開院され,1875年に現在の湯島の地に移転した.医学専門学校,順天堂医科大学を経て,1951年に体育学部を併設し順天堂大学となった.内視鏡室の開設時期についての記録は定かでないが,時代と共に徐々に拡張してきた.図面の残る1990年代には検査室6室,X線透視室1室であったものが,2014年に現在の内視鏡室のあるB棟の竣工により検査室8室,透視室2室となった.2017年に検査室11室へと拡充され,2020年にはX線透視室は3室に増設され,現在は計14の検査室で運営している.2015年にはJCI(Joint Commission International)の認証を大学病院の本院として初めて取得した.
組織当院の内視鏡室は内視鏡部門として独立しており,消化器内科,食道・胃外科,大腸・肛門外科,肝・胆・膵外科,呼吸器内科,呼吸器外科,小児科,小児外科の各科医師が内視鏡検査及び治療に従事している.内視鏡室の運営は,内視鏡室運営委員会を組織し,内視鏡室長,室員,看護師,臨床各科の委員,関連部門(放射線部,臨床工学室,管理課,医事課)が参加し,月に1回の運営委員会を開催している.
内視鏡室はB棟3階に位置し,総床面積960m2を有している.現在,内視鏡検査室11室とX線透視室3室の計14室を稼働させ,検査・治療を実施している.各ブースは完全個室化されており,患者のプライバシーに十分な配慮がされている.また,各ブース内には電子カルテと所見入力の端末が配置されており,医師と看護師は検査室内で入力と記録を完結することができる.患者動線,スタッフ動線は完全に分離されており,患者は受付→待合→検査室前待合と滞留せず移動する動線である.人間ドック,入院治療内視鏡検査の動線分離も考慮している.洗浄室,看護拠点は,検査室から最短動線となるように配置している.X線透視室改修時に,治療環境効果として調色対応(ブルーライト含む)の照明の導入を行った.また,増加する鎮静希望患者(JCI認証基準で検査終了後2時間リカバリーベッドでの安静が求められている)への対応のためリカバリーベッドを増設し,可動式ソファ18台を有している.2020年以降,感染対策としてN95マスクの装着を必須とするフルPersonal protective equipment(PPE)での検査を継続している.
内視鏡室レイアウト
(2023年7月現在)
医師:消化器内視鏡学会 指導医24名,消化器内視鏡学会 専門医56名,その他スタッフ84名
看護師常勤:17名(常勤15名,パート2名,うち9名は第Ⅰ種内視鏡技士)
看護助手:3名
看護助手(内視鏡洗浄):7名
臨床工学技士:5名(うち4名は第Ⅰ種内視鏡技士)
受付事務:4名
医事クラーク:4名
(2023年7月現在)
1年間(2022年4月~2023年3月まで)
当院は日本消化器内視鏡学会認定指導施設であり,初期研修医,専修医や大学院生と様々な身分の医師も内視鏡診療に携わっており,それぞれの能力や希望に応じた内視鏡研修・教育・訓練を実施している.
当院における内視鏡研修システムは各検査室の責任医(上級医)が中心となり,カリキュラムに沿って指導を行っている.Traineeはまず,検査の見学からスタートし,検査医,介助者の動きをみて一連の流れを学習する.スコープ操作については,内視鏡モデルや内視鏡シミュレーターによるトレーニングなどで基本操作を学び,撮影法を理解し,一定の基準を満たした時点で上級医の指導のもとに検査を実施している.高周波電源装置やクリップ鉗子,スネア鉗子などの各種デバイスの取り扱いについては講習などを受け,上級医の指導のもと施行する.検査時には所見用紙を自ら作成し,上級医がチェックすることで診断能力を身につけるようにしている.ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)などの治療内視鏡,内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)やinterventional 超音波内視鏡検査(EUS)などの特殊内視鏡に関しては,一定の基準を満たしたTraineeはそれぞれの希望とする分野を中心に専門的な研修を行い,指導医の下で正しい治療手技の習得ができるような指導体制をとっている.
毎週行っている内視鏡診断治療カンファレンスを通じてTraineeへの教育とともに,治療症例のシミュレーションを実施している.また,内科外科合同カンファレンスも定期的に行っており,Laparoscopy endoscopy cooperative surgery(LECS)を含む全身麻酔下の内視鏡治療などを個々の症例ごとに検討している.
看護師や臨床工学技士などの検査介助スタッフについても,鉗子操作などの各種介助技術の教育プログラムを作成し,消化器内視鏡技師の資格取得を支援している.
上部消化管内視鏡健診の拡大,便潜血検査の普及に伴い,当院での内視鏡需要は,上部から下部に徐々にシフトしている.また下部消化管内視鏡では当院でのAdenoma detection rate(ADR)は40%を越えており,処置を要する例が多い.さらに,胆膵内視鏡では,手技に時間を要する高度な治療内視鏡例が増加している.検査室の増設,検査要員の増員が困難な状況において働き方改革を両立した検査の効率化,すなわち,安全性の向上を伴った時間内での検査件数の増加が求められる.このため,1.検査開始前に患者が待機するスペースの創設,2.薬剤師(内服薬の確認)と歯科衛生士(義歯,動揺歯の確認)を常駐させ問診の補助を行う,3.検査前後のスコープの搬出・設置,洗浄,検査台の消毒をパラメディカルスタッフが行う,4.音声入力システムの導入,5.救急症例については,救急プライマリケアセンターでの緊急内視鏡の実施,に取り組んでいるが,道半ばである.
内視鏡機器のメンテナンスについては,洗浄手順書の遵守とともに,内視鏡,洗浄装置の定期的な培養検査を行い,培養陽性の際には直ちに対応できる体制が整えられたが,特に洗浄装置でどのタイミングでどの部位のスワブを採取するかなど,解決すべき問題も多い.また,院内各所で管理されている軟性内視鏡(喉頭ファイバーなどを含む)を病院全体で一括管理する仕組みを構築し,運用を開始した.
施設面の重要課題は,新たな感染症に備えて,換気量の設定,非接触環境の確保である.