2026 年 68 巻 4 号 p. 370
【背景】食道腺癌(esophageal adenocarcinoma:EAC)は欧米で急増しており,日本でも増加傾向にある.Barrett食道(BE)はEACの唯一確立した前癌病変であり,特にlong-segment BE(LSBE)はshort-segment BEに比べ発癌リスクが高いとされる.しかし,日本人のLSBE症例におけるEAC発生率は十分に検討されていなかった.本研究は,日本全国規模の前向きコホートにより,LSBEからのEAC発生率を明らかにすることを目的とした.
【方法】2011年6月〜2021年12月に全国32施設にて,最大長(Prague M値)3cm以上のLSBE症例を前向きに登録した.登録時にEAC既往例や胃切除術後例は除外し,以後10年間,原則年1回の内視鏡検査を実施した.1年以上追跡可能であった267例(総観察期間1290.4人年)を解析対象とし,EAC発生率(%/年)を算出した.Kaplan–Meier法による累積発生率解析,危険因子の比較検討を行った.
【結果】観察期間中(平均58.0カ月),13例の新規EACが発生し,年間発生率は1.01%(95%CI: 0.57–1.73)であった.発見されたEACは全例早期癌であり,多くが内視鏡治療可能であった.危険因子の解析では,喫煙歴ありが有意に高頻度であり(EAC発生あり(N=13)76.9% vs EAC発生なし(N=254)33.5%, p=0.002),喫煙者の発癌率は1.95%/年で,非喫煙者(0.39%/年)より有意に高かった.またPPI使用は発癌群で有意に多かった.BE長(M値・C値)は発癌との有意な関連を認めず,旧定義(C値≥3cm)と新定義(M値≥3cm)によるLSBE間で発癌率に有意差はなかった.
【結語】日本人LSBEにおけるEAC発生率は年間1.01%と,欧米と同程度に高率であった.今後,本邦のLSBEに対する内視鏡サーベイランスの指針策定に際し,重要な指標となる研究である.