日本消化器内視鏡学会雑誌
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内視鏡からみた胃粘膜障害の病理および病態生理
梅田 典嗣松枝 啓正田 良介村岡 亮大和 滋松川 雅也三輪 純福島 清乃秋山 純一森 一博
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1999 年 41 巻 3 号 p. 267-277

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抄録

 著者らの30数年間にわたる胃粘膜障害の機序,ならびにその病態生理に関する研究の成果を発表した.第一に外的因子として熱性因子につき研究した.58℃の温水300m1,週3回,175~457日継続投与により,著明な偽幽門腺化生を伴う萎縮性胃炎が作成でき,熱性因子が慢性胃炎の原因の一つとなりうることを証明した.第二に,NSAIDsの一つであるCinchophen220mg/kgをferretに投与し,その胃粘膜障害が直接作用によることを示した.また,antralpouchを用いた実験で胃酸の存在しないpouchにはほとんど粘膜病変の起こらないことから,粘膜障害の発生には胃酸の存在が重要な因子であることを証明した.第三に,胃粘膜障害におけるMucus Bicarbonate Barrier(MBB)の役割を知るため,その実験装置を考案し,胃粘液不攪伴層(MGL)の厚み,胃酸の逆拡散の測定,およびpotential difference(PD)の測定系を確立し,いくつかの実験を行った.その結果,胃粘液は種々の刺激因子に対し反応性に分泌され,MBBの機能を維持すること,刺激因子が強すぎる場合には酸の逆拡散,次いで胃粘液とアルカリ分泌の低下が起こり,胃粘膜障害が発生することが証明できた.第四に,内的因子として胆汁酸の胃内逆流による胃粘膜の障害,とくに残胃癌発生およびhelicobacter pylori(HP)の役割につき臨床的検討を行った.また,残胃癌の発生母地となる粘膜の組織異型度を胆汁の残胃内への逆流の程度が異なるB-1,およびB-II吻合部粘膜を生検により検討し,10年以上経過するとGroup-IIIの出現率がB-II吻合部胃粘膜で有意(P<0.01)に高くなることを証明し,胆汁逆流が癌発生に関与する可能性があることを示した.さらに,HP陽性の残胃では,粘膜組織異型の発生する累積危険度が高い結果が得られ,HPの関与も示唆された.第五に,胃運動に関与するNitric Oxide(NO)のadaptive cytoprotectionに対する役割を検討した.NO産生,胃粘膜血流,胃筋電図を同時に測定できるchambersystemを考案し,ラットを用いて測定した.その結果,adaptive cytoprotectionの発生機序として胃酸の逆拡散により胃粘膜でのNOの産生が起こり,このNO産生が胃粘膜血流を維持させることが重要と考えられた.

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© 社団法人日本消化器内視鏡学会
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