日本消化器内視鏡学会雑誌
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自然史からみた胃癌の生物学的特性と診断・治療への展開
磨伊 正義
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2000 年 42 巻 5 号 p. 941-952

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抄録

 今回胃癌の自然史を知る目的で,過去10年間にprospective,一部retrospectiveな経過観察が可能であった胃癌34例を対象に癌組織型と発育様式につき検討した.分化型腺癌のなかで高分化型腺癌(tub 1, tub 2)の多くは緩徐な発育を示し,早期から進行癌に進展する期間は平均5年2カ月であった.計測可能症例でのDoubling time(DT)を計算したところ12.5カ月であったが,乳頭状腺癌(pap)でかつ髄様増殖を示したものは発育が早く,DTも3.7カ月であった.次に末分化型腺癌の発育経過をみると,(1)malignant cycleを繰り返しながら緩徐に発育するもの,(2)発育速度が速く,かつ高率に肝転移を伴う充実胞巣型の低分化型腺癌(DT 2カ月),(3)Borrmann 4型胃癌の大きく3つのタイプに大別される.これらの胃癌の中でも通常外科医が直面している胃癌は,転移能の高い悪性度の高い癌なのである.最近これら浸潤・転移に関する分予機構が急速に解明されつつあるが,我々の癌研究の最終目標は癌の転移予測とその制御である.そこで術前に胃癌生検組織を採取し,転移関連遺伝子群のmRNA発現(EGFR, bFGF, VEGF,Type IV collagenase)からみた転移の術前予測を試みた.21世紀には遺伝子診断や遺伝子治療も現実のものとなろう.内視鏡学の進歩が臨床医学と基礎研究を結ぶ接点になることは疑いの余地がない.

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