本稿では,日本の公的年金制度を題材に,年金基金におけるALMと積立金運用のあり方について検討する.日本の公的年金制度の財政収支においては,賃金上昇率の動向が重要な役割を果たす.賃金上昇率と長期金利の関係をマクロ経済モデルを用いて分析すると,後者が前者を安定的に上回るのは,日本経済が長期的に成長し続けるという楽観的な期待が形成されている場合であることがわかる.また,給付削減のためのマクロ経済スライド調整にはオプション性が内包されており,そのオプションが行使されて給付削減が先送りされるときには資産収益率も低迷する可能性が高く,年金財政にとっては複合的な悪化要因となる可能性がある.これらは,積立金運用の方針を定める際に検討するべき重要な課題と考えられる.