2016 年 37 巻 p. 19-48
本研究では日本企業を対象に流動性保有の動機,目的をアンケートにより調査し,(1)日本企業においても米国を含めた外国企業と同様,予備的動機が余剰資金保有の最も重要な動機となっていること,(2)日本企業における余剰資金保有では,消極的な予備的動機(将来のキャッシュフロー不足への備え)のみでなく,積極的な予備的動機(将来,予想外の投資機会が生じた場合への備え)も同じぐらい重要な動機となっていること,(3)当座貸越の利用やメインバンクへの信頼感がコミットメントライン未設定の要因になっていること,(4)余剰資金保有の背景に直接金融へのアクセスが限定されているとの認識があること,(5)銀行への信頼感は積極的な予備的動機による余剰資金保有のみを代替し,消極的な予備的動機による余剰資金保有を代替しないこと,(6)ガバナンスのあり方が流動性手段の選択に影響を及ぼすなどの知見を得た.