現代ファイナンス
Online ISSN : 2433-4464
論文
エクイティ・ファイナンスの情報伝達機能—転換社債の発行と株価の上昇—
砂川 伸幸
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ジャーナル オープンアクセス

2000 年 7 巻 p. 25-39

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抄録

わが国の株式市場を対象とした実証研究は,公募増資や転換社債の発行を発表した企業の株価が上昇するという結果を報告している.これは,公募増資や転換社債の発行かがマーケットにとって好ましい情報であることを意味している.本稿では,公募増資や転換社債の発行が株価の上昇をもたらすシグナリング・モデルを提示し,とくに転換社債の情報伝達機能について議論する.

分離均衡では,収益力の高い企業が転換社債の発行による資金調達を実施し,収益力の低い企業が資金調達を見送る.収益力の低い企業が資金調達を見送る理由は,現実的にかなリの負担となるエクイティ・ファイナンスにおける発行コストである.発行コストが存在するとき,新規投資からの利益が発行コストを上回る収益力の高い企業のみが,転換社債を発行して資金調達を行う.このことを反映して,転換社債の発行を発表した企業の株価は上昇する.

本稿のモデルでは,転換社債が公募増資より優れた情報伝達機能をもつ.すなわち,公募増資が情報伝達手段になる条件と転換社債が情報伝達手段になる条件を比較すると,後者が前者を含む.とくに,新規投資からの利益が十分に大きいとき,収益力の高い企業は適度な転換社債を発行することでのみ,自身の収益力をマーケットに正しく伝達できる.公募増資の発表は情報伝達機能をもたない.

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© 2000 日本ファイナンス学会/MPTフォーラム
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