生成文法の標準的な分析では,逆スコープ解釈(例えば(1a)における(1b)の解釈)は順スコープ解釈(例えば(2a)における(2b)の解釈)と並列的に扱われることが多い。
(1) a. Some boy loves every girl.
b. すべての女の子一人一人に対して,その子を愛している男の子が少なくとも一人はいる
(2) a. Every boy loves some girl.
b. すべての男の子一人一人に対して,その子が愛している女の子が少なくとも一人はいる
しかし,本稿ではそのような分析に異議を唱えたい。逆スコープ解釈というのは,Computational Systemの働き(文レベルの要因)のみによって生じるのではなく,談話レベルの情報が関係する複合的な現象なのであり,また,広いスコープを取っている方の数量表現は一般量化子ではなく単数個体群の総和(a sum of singular-individuals)と分析されるべきなのである。
数量表現を含む文の意味解釈を観察することによってComputational Systemの働きに迫るというのは生成文法でよく見られる方法であるが,本稿が示したように,スコープ解釈のすべてが文レベルのみで決定するものではない以上,観察されたスコープが何に基づくものであるのかを正しく見極めることが極めて重要である。