言語研究
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最新号
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特集 類別詞の多様性
  • 堀 博文
    2022 年 162 巻 p. 1-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    カナダ北西海岸地域とアメリカ合衆国アラスカ州南東部で話されるハイダ語には,動詞に付加されて自動詞節の主語や他動詞節の目的語となる名詞句の指示対象がどのような意味範疇に属するかを示す類別接頭辞がある。ハイダ語の類別接頭辞の用法は,文脈への依存度の違いによって,静的なそれと動的なそれに分けられる。前者は,文脈に関係なく,一定の名詞句と固定的に結びつき,典型的な名詞類別の機能を果たす。一方,後者は,文脈に応じて両者の結びつきが可変的であり,それゆえに指示対象を細分化して表わせる。更に,ハイダ語の類別接頭辞には,名詞句の意味範疇を示さずに,動詞をいわば内側から修飾するような機能もある。このように,ハイダ語の類別接頭辞は,名詞類別にとどまらず,幅広い機能を有する点が特徴的であるといえる。

  • 白井 聡子
    2022 年 162 巻 p. 25-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本論文ではまず体言化理論に基づいてダパ語の類別詞を「数詞に後続して体言化し,その数詞基盤体言化形式を範疇化しうる語類」と定義する。この定義により,類別詞と関連する現象との区別が明らかになるほか,類別詞が見せるさまざまな現象を統一的に記述できる。次に,意味論的分類を援用しつつ,注目すべきいくつかの類別詞についてその特性を検討する。汎用個別類別詞jiと人間専用の類別詞zjaがいずれも人間に用いられるが,これはチァン諸語の中でも北部の言語に見られる地域特徴であると考えられる。類別詞の語源については,少なくとも借用語に由来するものと,固有内容語からの文法化が含まれることが確認できる。最後に,固有内容語から類別詞への文法化現象について,数詞を含む複合語および数詞「1」を用いた動名詞化と対比して検討した。これらは共時的には異なる構造であるが,文法化の元となる形式に共通性があると結論づけられる。

論文
  • ――文章ジャンルの位相差を対象に――
    李 文平, 劉 海濤, 小森 早江子
    2022 年 162 巻 p. 47-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,異なる文章ジャンル間の相違点と共通点を把握するために,統語情報が付与された日本語コーパス,具体的には「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(国立国語研究所)のコアデータのツリーバンクである「UD Japanese-BCCWJ」を利用し,白書,新聞,書籍,雑誌,Yahoo!ブログ,Yahoo!知恵袋の6つのジャンル間で統語依存関係,統語複雑度,依存方向において位相差があるか否かを考察した。その結果,統語依存関係,統語複雑度,依存方向はジャンルごとに異なっており,これらの指標は内容語か機能語かといった指標と同様に,文章ジャンルの特徴をある程度反映していることがわかった。また,統語複雑度と関係する依存距離は最小化される傾向があるという位相間に共通の法則が見られた。

  • ――庄内浜荻追跡調査の多重対応分析――
    井上 史雄, 半沢 康
    2022 年 162 巻 p. 63-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本稿では山形県庄内地方で行われた方言調査データに多重対応分析を適用した結果を報告する。江戸時代の方言集『浜荻』掲載406語の残存率について1950年に3世代,2018年に4世代の調査が行われ,長期の言語変化が分かった。「年齢柱方言地図」と「単純化グロットグラム」を作図して考察した。140年にわたる世代差を踏まえ,20世紀の地域差の大きい時期から,21世紀の世代差の大きい時期に移行したことを論じる。

    多重対応分析によって方言の分布と変化の複雑なパターンを要約し,全体傾向を把握できた。第1軸には140年という長さの年齢差が表れ,第2軸以下には庄内方言南北80 kmの地域差が示された。南北差が大きいので,鶴岡からの徒歩距離を計測して「単純化グロットグラム」を作成し,代表的な8語のうち3語を例示した。地方的周圏分布が見られるとともに,現在の若い世代の急速な方言衰退が見られ,他方中学生による方言使用も観察された。

  • 井上 雅勝, 藏藤 健雄, 松井 理直
    2022 年 162 巻 p. 91-118
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本研究では,量化詞を伴う日本語の他動詞文(Q)NP1-が(Q)NP2-をV1(Q=「すべて」または「ほとんど」)がどのように解釈されるかを独自の方法により調査した。その結果,回答の半数以上で量化の三部構造が形成されていない非TPS(tripartite structure)量化による解釈が見いだされた。次に,(Q)NP1-が[(Q)NP2-をV3] N4-をV5(N4は関係節主要部名詞句)のような関係節埋め込み文の読み時間を測定する2つの実験を行い,非TPS量化解釈がよりなされやすい場合に,N4の読み時間が長くなること(ガーデンパス効果)を明らかにした。本稿では,量化文が非TPS量化として解釈されると即時に解釈が決定されるのに対し,量化の三部構造にもとづくTPS量化では解釈決定が一時的に遅延されるという仮説の観点から,これらの結果およびその理論的意義を論議する。

  • 吉田 和彦
    2022 年 162 巻 p. 119-144
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    アナトリア諸語においては,語幹形成母音*-eo-を持つ動詞(thematic verbs)は実質的に記録されていない。しかしながら,一般に*-e/o-で終わると考えられている印欧祖語の接尾辞*-i̯e/o-および*-sk̑e/o-を持つ動詞は数多くみられる。このふたつの接尾辞は動詞現在形語幹を形成するために用いられていた。アナトリア祖語の時期において能動態の動詞パラダイムに語幹形成母音*-o-が再建されることを示す根拠はない。そして接尾辞の母音が一貫して*-e-である(*-i̯e-および*-sk̑e-)のは印欧祖語に遡る特徴であることが実証される。アナトリア語派以外の言語においてみられる,パラダイム内部で交替する語幹形成母音*-e-~*-o-の起源は,語根にアクセントのある接尾辞*´-i̯e/o-を持つ現在形にあると考えられる。アナトリア語派が印欧祖語から離脱した後,なお一体性を保っていた他のすべての語派において,アクセントの後の閉音節にある*-e-は*-o-になるという音変化が生じた。その結果,動詞パラダイム内部に*´-i̯e-~*´-i̯o-という交替がもたらされた。さらに語尾直前にある*-e-~*-o-は,現在形動詞語尾を独自に特徴づけるために,語尾の一部として再解釈された結果,この*-e-~*-o-は後に接尾辞を持たない動詞にも広がった。

フォーラム
  • 脇坂 美和子
    2022 年 162 巻 p. 145-156
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/25
    ジャーナル フリー

    本稿は,滋賀県湖北方言の京阪式アクセントに属する変種に見られる2つのアクセントパターンの交替を記述し,その形式と意味を明らかにすることを目的とする。この方言には,述語文のアクセントを維持する無標の=N=yaと,これを平板化する有標の=N(=ya)が存在する。無標の形式は,共通語のノダ文の文脈で全て使用できるのに対して,有標の形式は話者が話題について予備知識をもつことを前提に,これを説明または真偽を確認するときにのみ現れる。これは,方言研究において,たとえば井上(2006a)に見られるような,平叙文においては異なる方言形式が,共通語ではともにノダ文で表され,異なる意味を表すという記述に合致するとともに,先行研究におけるノダ文の交替を文法化とみなす傾向を支持するものであり,また疑問文においてもこれを適用し得ることを示唆している。この方言においては,このような区別がアクセントの交替によって実現されていること,またその意味がモダリティに関わるものであることから,本稿では,ここに観察されるアクセントの交替が,日本語方言の文法化やノダ文のモダリティの記述に際して考慮すべきファクターであることを主張した。

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