本稿では言語と認知,言語と思考との関係にかかわる現象について考察する。特に「ところ」という形式名詞の多義性の問題を対象にして言語と推論メカニズム,統語論と意味論,意味論と語用論との関連を考える。初めに「場所」や「位置」を示す形式名詞「ところ」(以下トコロと記す)の空間的な意味・用法を見て,トコロを「基準点を同定する」と特徴づけ,それらがどのように「動作,事態の局面(時間的用法)」,さらには「論理・推論(モーダル用法)」へと拡張されるか,そのメカニズムを詳しく考察することでトコロの様々な用法が説明できることを示す。空間>時間>論理・推論という拡張の認知メカニズムを考えることで,言語,認知,論理の関係についての示唆を得ることが目的である。